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【シリーズ第71回:36歳でアメリカへ移住した女の話】

 このストーリーは、
 「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」  
 と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
 前回の話はこちら↓

 シアトルで暮らし始めて数か月が過ぎた。
 相変わらず、シカゴに未練タラタラだ。
 シアトルを好きになり、楽になりたい気持ちはあるけれど、シカゴから、シアトルに心変わりするわけにはいかない!

 心変わり=私の音楽への愛が消える!!

 という、不思議な思考に陥っていた。
 自覚はなかったけれど、シカゴシックに、ビタミンD不足、早期更年期障害が加わり、多少、頭もおかしくなっていたのかもしれない。
 *シアトルは曇り空が多いので、ビタミンD欠乏症で鬱になる人が多い。

 シアトルの町、人、あらゆることをシカゴのそれらと比較し、

 「やっぱりシカゴがいい!」

 と再確認する。
 これじゃ、シアトルを好きになれるはずがない。

ドライヴァー🚗

スピード

 まずはシアトルのドライヴァーだ。
 慎重だけど、下手で、効率の悪いドライヴァーが妙に多い。
 そのスピードは、安全運転を超えた遅さだ。
 「寝てるん?」
 と思うくらい遅い。  
 多くの人は、それが当たり前なのか、その車の後ろを、同じペースで走り続けている。
 都会のように、バタバタしていないのかもしれない。
 しかーし!こちらは都会から来ている。
 さっさと車線変更をして、追い抜く。
 そうはいっても、一車線の時はどうすることもできないので、あきらめて、同じ速度でのろのろ運転する。
 けれども、ハイウェイの4車線を走るすべての車が、同じ速度で、横並びで走っている場合は叫ばずにいられない。

 「ゆっくり走るなら、どっか行けーーー!
 追い越し車線は、追い越すためにあるんじゃーっ!」

左折

 もっと信じられないのは、左折の時だ。
 信号の左折を示す矢印➔が青に変わっても、先頭の車がスタートしない。
 スタートまでに、ものすごく時間がかかる。
 「青やーっ!迷わず曲がれーーーっ!」
 ようやく、先頭の車が曲がっても、後続車もひと呼吸おいてからスタートする。
 ひどい時は、信号が青の間に、1台しか左折できない。
 なぜ1台・・・不思議に思うけれど、もっと不思議なのは、クラクションを鳴らす後続車がいないことだ。

 「ここでクラクションを鳴らさず、いつ鳴らす?」

ラウンドアバウト

 信号が青でもスタートしないほど慎重なのに、意外な場面でルールを守らない。  
 ラウンドアバウト(環状交差点)で、逆回りをする人が多い。
 ラウンドアバウトは、中央の円形スペースを取り巻く環状道路に、3本以上の道路を接続したものだ。
 環状道路を反時計回りに通行しなければならないので、自分の左手にあるコーナーを曲がりたくても、ぐるりと回らなければならない。
 ところが、シアトルの人は平気で左回りをする。
 左回りしてきた車と衝突しそうになったことが何度かある。 
 「なんで逆回りするの?」
 と尋ねたら、
 「その方が近いから」
 と言われた。

シアトルの不思議:ラウンドアバウト

 「なんでーーー!?あかんやーん!」

交差点

 信号機のない交差点でも不思議なことが起こる。
 ルールは、交差点に先に着いた順だ。
 同時ならともかく、明らかに先に着いているのに、
 「どうぞお先に」
 と譲ってくれるドライヴァーがいる。
 進むべき人が進まないので、交通がストップする。

 「ここで譲り合いはいらーん!」

交通事故

 交通事故が起こった時の渋滞も半端じゃない。
 現場にさしかかると、多くのドライヴァーが速度を落とし、事故の様子を見てから通過する。

 「見なくていいっ!」

駐車

 駐車場の枠の中央に、駐車できない人が多い。
 枠からはみ出している車もある。
 隣の車に合わせて、次の車も枠からはみ出して駐車している。
 きれいに斜めに駐車している車もある。
 他の車に迷惑なだけではなく、ぶつけられる可能性もあるのに、なんでそのままなの?

 「真っ直ぐ駐車する気はないんかーーー!?」

シアトルの人😊

本音

 シアトルの人はガーデニングをしたり、お散歩をしたり、山へ登ったり、自然と触れ合う機会が多いせいか、どこか穏やかでのんびりしている。
 「ハロー!いいお天気ね!」
 と見知らぬ白人が、私たちに笑顔で挨拶をしてくれる。
 ぶつかっても、にらんだりせず、
 「気にしないで!」
 と笑顔で言う人がほとんどだ。
 毎日顔を合わせ、立ち話をするようになった人もいる。

 しかーし!その距離は一向に縮まらない。

 話をしている間、ずっと楽しそうなので、仲良くなれるのかな?と期待するけれど、そこから先に発展しない。
 相手を否定せず、嫌な気分にさせない、気を遣う人が多いのだろう。

 シカゴのレストランでアルバイトをしていた時に、美人で小柄で優しそうな同僚に、
 「これ、日本のお菓子やけど食べる?」
 と差し出したら、表情ひとつ変えずに、
 「いらない」 
 と言われた。
 なるほど、これがシカゴの人なんだ・・・と思ったことがある。
 シアトルの人なら、 
 「わー!食べたことないわ!ありがとう!」
 もしくは、
 「わー!食べたことないわ!でも、そんな大切な物、頂けないわ!」
 とやんわり断る気がする。

 人当たりの柔らかいことは、決して悪いことではない。
 私は日本人なので、この気の遣い方は理解できる。
 シカゴ出身、”ザ・本音”の同居人には、不可解らしい。
 けれども、シアトルが嫌いな私は、英語で流暢に会話もできないくせに、文句を言う。

 「シアトル人の本音がわからーんっ!」

ナンパ 

 シカゴではよくナンパされた。
 同居人もそうだけれど、黒人男性は特に、躊躇せず、女性に声をかける人が多い。
 彼らはとりあえず声をかける。
 クラブやバーはもちろん、スーパーでも声をかける。
 ところが・・・

 シアトルの人はナンパをしない!
 
 これは錯覚ではない。
 ボストン出身の女性と話すことがあった。  
 「私はシアトルで、20年以上暮らしているけれど、過去に、私に声をかけた男性は2人だけよ!たった2人よ!!
 その2人のうちの1人が、私のフィアンセなのよーーーっ!!」
 シカゴ、ボストン、ニューヨークの人は、少なからず、私と同じ意見だと思う。
 もちろん、ナンパだけが、交際のきっかけではない。
 どちらがナンパしたかは不明だけれど、我々は相手のこともよく知らずに同居し、同居人のポジションのままシアトルへ引越した。
 正解か、不正解か、わからないくせに、私は文句を言う。 

 「シアトルの人は、どうやってパートナーを見つけるんだーーー!?」

音楽

ミュージシャン

 「彼の職業は?シカゴで何をしてたの?」
 と聞かれることがある。
 「ミュージシャン」
 と答えると、
 「俺もミュージシャン」
 と答える人が妙に多い。
 多いけれど、その後に、
 「で、普段は何してるの?」
 という質問がある。
 「普段もミュージシャン・・・」

 シアトルは、音楽だけで生計を立てるには、とても難しい町だ。
 バンドを組んでいる人の多くは、普段は生活のための仕事をしている。
 シアトルに限らず、他都市でも、日本でも、音楽だけで生活できる人は限られている。
 けれども、”音楽で食べられないから他の仕事をする”というよりも、”音楽で生計を立てる”というアイデアがないように感じる。
 それにしては、
 「俺もミュージシャン」
 と言う人が多い。
 ミュージシャン、作曲家、詩人、役者、パフォーマーと書いている名刺を頂いたことがある。
 でも、その人はいつもスーパーで働いていて、バンドも組んでいないし、劇団にも入っていない。
 
 「・・・ちがうねんっ!彼はホンマにミュージシャンなのーーーっ!」

R&Bバンド

 シアトルに来てすぐ、カジノへ行った。
 シアトルの多くのミュージシャンが、

 「彼らのようになりたい!」

 と憧れるバンドのショウがあったからだ。
 同居人もシアトルでプレイできるかも!
 会場に入ると、フロアでは、ものすごい数の人が踊り狂っていた。
 曲は、1980年代、90年代にヒットしたR&Bと、最近のヒップホップだ。
 皆が憧れるバンドだけあって、確かに上手い。
 30分ほど聞いた。
 ・・・飽きた。
 「CD聞いてるみたいやなぁ」
 隣にいた同居人が言った。
 
 ・・・そっかー!だからおもしろくないんや!

 彼らはノンストップでカヴァー曲を演奏し続けている。
 曲と曲のつなぎも完璧だ、
 MCはない。
 これじゃ、観客も踊り続ける。
 客の目的も踊ることなのだろう。
 ステージ上のミュージシャンを見ている様子はない。
 せっかく演奏できる人がそろっているのだから、オリジナルを、少しアレンジすればいいのになぁ・・・。
 けれども、これが、皆が憧れるバンドだ。
 きっと、これがシアトルのスタイルなのだろう。

 「おーい!コール&レスポンスはないんかーい?」

よーく考えてみると・・・

 シアトルはとてもいい町だと思う。
 夏は爽やか、冬も零下になることはほとんどない。
 年中緑があるし、海に囲まれていて、空気も綺麗でとても美しい。
 台風や竜巻の自然災害もない。
 運転はスローでも、本音はわからなくても、人を傷つけたり、不快にさせる人は少ない。
 人種差別も他州に比べると、ずーっとマイルドだ。
 治安も良く、シカゴのように、常に襲われる心配をする必要もない。

 「ほんじゃ、なんの文句があるのー!?」

 私自身が思うけれど、拒否反応はおさまらない。
 これは重症です。

 あぁ・・・シカゴが恋しい。

最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートは、社会に還元する形で使わせていただきたいと思いまーす!