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僕は『問われ』続けたい

「ママはパパの『運命の人』なの?」。


「パパはママを愛してる?どこが好き?」。


ママはしょっちゅう、こんな風に私に『問いかけ』をしてきます。


私はいつもドキマギしながら、この『問いかけ』に答えています。


今回は、そんな私達夫婦に起こった『奇跡』のお話をさせていただきます。


私が小さな頃は松戸市の映画館は3つありました。しかし、時代の流れなのか一つ、また一つと無くなっていきました。


そして10年ほど前、最後に残った『シネマサンシャイン松戸』もついに閉館しました。


松戸から映画館が無くなってしまう前にどうしてもママ(当時は彼女)と思い出を作りたくて、閉館直前の『シネマサンシャイン松戸』で映画を観ることになりました。


選んだ映画は、スティーブン・スピルバーグ製作総指揮、ヒュー・ジャックマン主演の『リアル・スティール』。


ロボット格闘技を通じて、ヒュー演じるダメ父が息子との絆を取り戻していく姿を描いた作品です。 


ハートフルな感動ストーリーで、デートにはもってこいでした。


当時、私の体重は110kg。


100kgを超えてからは隣の人に「チッ」とイヤな顔をされるのが怖くて、大学の講義・バス・電車など全て『隅っこ』の席をキープしていました。


もちろん映画館も例外ではなく、『席取り』は私の仕事にしてもらい、この日も隅っこの2つの席をサッとキープしました。


さあ、映画が始まりました。 


「ねえねえ、しん君」。


天然ボケのママが途中途中に小声で「理解出来ないことを私に聞いてくる」のが、私達が映画を観る際の『しきたり』でした。


私は隣の人に迷惑がかからないように、ママよりさらに小さな声でそれに答えていました。


でも、その日のママの声はいつもより随分と大きなものでした。


「あきちゃん。声大きいよ」と私は小声でママに注意しました。


するとママが「ねえねえしん君、聞いてよ。ビックリなんだけど観てるの私達『だけ』みたいだよ」と、今度はなぜか小声で(笑)言ってきました。


「えっー」。


私はそっと立ち上がり、映画館全体を見回してみました。


「ホントだあ」。


その後ママに「せっかくだからど真ん中で観ようよ」と手を引かれ、私達はなんと『びた一文』払うことなく(笑)貸し切り状態で映画館のど真ん中で『リアル・スティール』を鑑賞出来たのでした。


ママは大きな声で私に『質問し放題』。私もそれに答えつつ、突然の『ロマンティック二人きり空間』を満喫しました。


冒頭で「ドキマギしながら、この『問いかけ』に答えています」と書きましたが、私にとってこのドキマギの成分の殆どは『喜び』です。


「聞かれる」ことを面倒に感じる方も当然いると思います。


しかし、彼女がなかなか出来ずに「結婚など夢のまた夢」と感じていた私にとって、この「問うて」⇒「答える」というやり取りは「必要とされている喜びを感じる」特別な行為。


『リアル・スティール』鑑賞中に「ねえねえ」と数えきれないほどママから「問われ」ましたが、それに答え続けた時間は『しあわせ』以外の何物でもありませんでした。


物語の最後、主人公は敵の『ボスキャラ』に惜しくも敗れてしまいます。


この結末に納得いかないママから、この映画での最後の『問いかけ』がありました。


「しん君。何でこの主人公は最後に負けちゃうの?」。


それに対して私はこう答えました。


「この主人公は最後に負けたことに意味があるんだと思うよ。勝ち負けじゃなくて、自分の心がよみがえってきたことが何よりも彼にとっては大事なことだったんだよ。勝ち続けてしまうと、そこら辺が見えづらくなってしまうんじゃないかな」。


「なるほど~」。


こうして、私達の「奇跡の2時間」が幕を閉じました。


その後夫婦となった私達ですが、この関係性は健在です。


もうあのような奇跡は二度と起こらないと思いますが、ママからいつものように『問いかけ』られた時にふとあのことを思い出すと、優しい気持ちになります。


「問うて」⇒「答える」。


この繰り返しが「人間同士の関係性で究極の幸福なのかもしれないな」と思ったりもします。


『問いかけ』られ続けられるのもいいものです。

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