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タイムマシンとわらしべ増殖おじさん
「タイムマシンをつくろう!」という本をご存知だろうか。
もちろん、最初に断っておくがこの本を買っただけでタイムマシンを作れるわけがない。
おうちでつくろう!簡単イタリアン、とかベランダでつくろう!無農薬野菜と同じテンションで購入されては困るので予め忠告しておく。
簡単にいうと、有名な物理学者が現実的なタイムマシンの作り方を分かり易く説明するという内容の本だ。なかなかに知的好奇心が刺激される本であったので興味があれば是非とも読んで頂きたい。
この本の中で気になる一節があったので以下に引用する。
「このシナリオで一獲千金の戦略を考えることができる。金の延べ棒をだずさえて過去へさかのぼり、それを以前の自分に渡せば、手元には二本の金の延べ棒があることになる。なんら努力せずに、投資を二倍にしたのである。」
(『タイムマシンをつくろう!』p152より引用)
要はタイムマシンを使って、1日前の自分に会いに行き、金の延べ棒を渡せばその時点で1日前の自分は金の延べ棒を2本持っていることになる。
今日の自分は2本の金の延べ棒を持っていることになり、そのうちの1本を1日前の自分に渡したという状況になる。どうか頭が混乱している方は速やかにブラウザを閉じて欲しい。これを永遠と繰り返せば資産を容易く増やすことができるのだ。
(さらにその残った1本をまた過去の自分に渡しにいけば、過去の自分は3本所有していることになり、結果今の自分はあげた分を引いた2本所持していることになる。繰り返せばどんどん増えていく。)
そこで私は閃いてしまった。
このステキな方法を用いれば、かの有名な創作「わらしべ長者」に革命を起こせることに気づいたのだ。
もし、わらしべ長者がタイムマシンで過去に戻って、過去の自分にわらしべを渡し続けたらどうなるのだろうか。
むかし、むかし、ある所に真面目なのに、非常に運の悪い男が住んでいた。朝から晩まで、働けど働けど、全くもって運がないのでお金が貯まらず貧乏であった。
ある日のこと。男は、最後の手段として、お寺で観音さまにお祈りをした。
「どうか、お金持ちになれますように」
すると、観音様が言った。
「このお寺を出るとき、転んだ拍子に何かをつかむぞ。それを持ってタイムマシンで過去に行きたまえ。」
男がお寺を出ようとしたとき、段差に躓いてコケてしまった。しかし、その際に右手に何かをつかんだ感触があった。右手を開いて見てみるとそれは、一本のわらしべであった。
「おおお!これが何かの役に立つのか!!」
とその時男は思ったが、
家に帰って冷静に考えて見たところ、冷静にわらしべいらないな、と思った。
まあ観音様が過去に行けと言っていたし、
どうせならまだわらしべのありがたみをピークで感じている、コケた瞬間の自分に会いに行ってわらしべを押し付けることにした。
男は意気揚々とタイムマシンに乗り込み、コケる瞬間の自分に会いに行った。
コケた際にわらしべを掴んで動揺している過去の自分に、「これで旨い飯でも食えよ」とわらしべを押しつけ、男は未来へ戻る。
「得てして何も面白いことはなかったな」とふとした拍子にポケットに手を入れてみると、そこにはなぜかあげてしまったはずのわらしべが。
「まさか」
男は気づいてしまったのである。タイムマシンを使い、過去の自分にわらしべを渡し続けることで永遠にわらしべが倍増していくことを。
「観音様の言うことだ!!このままわらしべを増やしていけば何かいいことがあるに違いない!!!」
男は連日のように過去へ戻ってコケた瞬間の自分に会いに行き、わらしべを押し付けた。1日前、2日前、3日前・・・の自分が一斉にコケた瞬間の自分にわらしべを渡すその光景はまさに奇妙。それでもコケた瞬間の自分は「ありがとうございます、ありがとうございます」と言って律儀に1人ずつにお礼を言ってわらしべを受け取るのだ、人間が出来ている。
そして、未来へ戻ると勝手にわらしべが増えている。わらしべが勝手に増殖しているのだ。
楽しい。
男はわらしべを増殖させ続けた。
自宅がわらしべでいっぱいになりそうだったので、保管場所を増やそうと思い、わらしべ保存用のマンションを闇金で借りたお金で購入した。背に腹は変えられない。金ないし。
どうやらわらしべを溜め込んでるらしい、と噂を聞きつけた近所の子供が冷やかし半分でわらしべを貰いに来ても、大人げなく追い返した。
わらしべは1本もやらない。他のやつには指一本触れさせない。
世界中のわらしべは私が独占するのだ。男は煩悩にまみれていた。
それが観音様と私の男の約束。そう思い込んだ男はタイムマシンを使ってわらしべを増やし、増えたわらしべの保管場所を闇金で増やし続けた。
1本のわらしべから大量のわらしべを生み出した結果、みんなはこの男を『わらしべ増殖おじさん』と呼ぶようになった。
しかし、わらしべが増えた以外特に変わったことは無く、彼は今は闇金に追われている。
観音様に対する誹謗中傷、一切受けつけない所存です。
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