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『最後の決闘裁判』蔵出しレビュー

公開当時のレビューです。

巨匠リドリー・スコットが手掛けたとは言え“史劇”とあるので、見る前はかつての『キングダム・オブ・ヘブン』みたいな作品を作ったのかななどと思ったりもした『最後の決闘裁判』。見てみてびっくり!まさかの『羅生門』風味の多角的視点での法定スキャンダルとリアリズムと迫力満点のアクションを兼ね備えた歴史大作で、よもや『グラディエーター』を思い起こさせる巨匠の会心の一撃ならぬ渾身の一作だった!!

主人公ジャン・ド・カルージュと、その友人で罪に問われるジャック・ル・グリ、そしてジャンの妻マルグリットによる章に分かれ、それぞれの視点で同時間軸のドラマが展開する。同じ時間軸でありながら、各々のキャラクターの視点や思考は違うので別々のテイクで展開され、それが黒澤明監督作品『羅生門』を思い起こさせる。しかしながら、それはあくまでも手法を引用したもので、どちらかというとアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『アモーレス・ペロス』や『21g』が骨格的には近い。

史劇を扱いながらも、また長尺ながらもカラッとして飽きを感じさせないのは1年から数年単位の出来事が次々と進む大胆ながら超高速な展開というのもあるが、ジャン・ド・カルージュの章をマット・デイモンが、ジャック・ル・グリの章をベン・アフレックが脚本を手掛けたことも大きい。それぞれの章でこの二人の心情の起伏が激しい。その上、マルグリットの章は女性の脚本家が手掛けているだけあって完全に「女の中世ヨーロッパ」になっている。つまり、153分の中で戦国武将ものと武将を支える妻の大河ドラマ2本を1つにまとめているので、重厚かつ濃厚。

その上、バトルシーンはリアリズムが溢れる。特にクライマックスの決闘シーンは圧巻。国王や大衆が見守る中での公開の決闘なので『グラディエーター』を彷彿させつつ、乗馬での戦い、槍、斧、剣、短刀、そしてパンチや蹴りなど一つの戦いの中でも矢継ぎ早に戦局が変わる。さらにその結果の勝者と敗者のコントラストが凄まじく、特に後者はタロットカードの「吊るし人」にそっくり。ラストシーンも見ようによってはタロットの「太陽」のカードにも見えるし、そういう視点で考えればいくらでも見直したくなる。

『キングダム・オブ・ヘブン』になるかと思いきや『グラディエーター』や『ロビン・フッド』に並ぶ史劇の大傑作。原題にLastあったのでリドリー・スコット最後の作品になるかと思いきや、年明けにグッチの映画もあるので、その前に十分過ぎる巨匠健在を示した!「史劇はちょっと苦手だな…」という方でも重厚なドラマが好きなら絶対必見である!

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