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蝶の鱗からオオミズアオ 【刺繍缶バッジ#032】

 わたしがうたたねをしていると、一匹の蝶が耳元でこう囁く。
「陸にあがったわたしは人に戻れずに蝶になった。魚になるはずの鱗は乾いて粉になった」
 声は失わなかったのね、と寝ぼけた声で問い掛けるとその蝶の羽音が大きくなる。
「ああ、ヤママユ」
 去ってゆく大きな羽ばたき、怪しく光る翅の目はわたしの姿を捉え続けたまま、開け放しの窓枠をくぐり抜け、外へ逃げてゆく。
 蝶というよりも蛾か。それとも、
「マユ」
 死んでしまった友達だったろうか。
 また夏が来る。君の体は相変わらず不在のまま波だけが繰り返し岸に押し寄せて、また夏が来る。
「君は本当に蝶になってしまったのかな」
 探しに行こうか。どこへ? 海へ。
 海へ。
……

「蝶の鱗」は短編小説です。冒頭部分を掲載しました。「真夏のピークが去った 天気予報士が」そう言う頃にnoteでリリースを予定しています。お楽しみに。

バッグに合わせるとこのような感じになります。

表面

裏面

[サイズ]:φ54mm
[素 材]:刺繍糸、布、ブリキ、鉄

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