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【冬の味覚】東のアンコウ、西のフグを食べ比べてみた

 みなさんは、冬の味覚といえば何を思い浮かべますか?白菜、みかん、いちご、カニ、カキ…。
 冬の味覚の王様といえば、アンコウ、フグ。今回は、アンコウとフグの名産地に行って食べ比べました。

アンコウ(鮟鱇、Goosefish)

 茨城県が漁獲量1位。特に、大洗町、北茨城市など茨城県北部で水揚げが盛ん。福島県南部、千葉県、島根県、山口県でも水揚げされます。実は、山口県の下関港が日本一の水揚げ量を誇ります。300~500mの深海で冷たい海域に生息しているアンコウ。名前の由来は、ずっと動かない習性を仏教の修行の「安居あんご」からきている説、身体が赤いから「赤魚アカヲ」からきた説、大きな顎をもつため「あご」からきた説があります。30年ほど前は、常陸沖から北茨城沖にかけて漁獲されていて、港に多く並べられていました。現在は漁獲量が激減して高級魚になりました。
 食用とされるアンコウは、主にキアンコウ。上から見ると楽器の琵琶にそっくり。メスがメインで、オスは小さく、交尾のときにメスに吸収されます。表面は粘膜に覆われてヌルヌル。大きな口と鋭い歯が特徴です。
 アンコウは、口、目、骨以外ほとんど捨てる部分がないと言われてます。食べる部位は7つ道具と呼ばれ、ぬの(卵巣)、えら、とも(ひれ)、胃(水袋)、肝、皮、だい身(柳肉)。アンコウは水分が体内の85%を占めます。骨が柔らかく、表面が粘膜で覆われていて、ヌメヌメしているため、まな板の上では、さばきにくい。そこで編み出されたのが吊るした状態でさばく「吊るし切り」。
 口を大きなフックで引っ掛けてエラとヒレを外して口の周りに切り込みを入れて皮を剥がし、内蔵、身を外していく切り方。水を入れて胃袋を膨らませて身体を安定させてから捌きます。アンコウは肝にアニキサスが存在し、死後、身に移るため、すぐ捌かないと、刺身は食べられません。寄生虫を殺す方法は、急速冷凍か加熱。刺身に出会えた方は、レア。 
 アンコウ料理といえば、鮟鱇汁、鮟鱇鍋、とも酢、どぶ汁、唐揚げ、煮凝りなどあります。7つ道具を使いつくした料理が茨城県で味わえます。ちなみに、山口県では、七つ道具それぞれに合った調理法で調理され、それぞれの部位を味わうことができます。
 アンコウは、那珂湊のお寿司屋さん「浜よし」で、汁物、唐揚げを「えんやどっと丸」では、鍋をいただきました。

鮟鱇鍋

 元々、北茨城の漁師の日常的な鍋。海のバターと言うべきあん肝の濃厚さと筋肉質な身を感じることができます。あん肝は、特にビタミンA,Dが豊富で栄養も詰まっています。
 濃厚な味噌やあっさりした醤油ベースの2種類があります。あん肝によって濃厚さが変わります。

えんやどっと丸のアンコウ鍋

どぶ煮

 味付けはあん肝を潰したものと味噌。あん肝を炒めて味噌を加えて味のベースを作ります。そこに、アンコウと野菜を投入して素材の水分のみで煮込みます。あん肝の濃厚な風味が広がりますが、クセも強いのが特徴。アンコウをまるごと味わえるスープです。
 どぶ鍋はクセが強いため、観光客など普段、鮟鱇を食べない方向けに、鮟鱇汁があります。出汁でアンコウの7つ道具、白菜、ネギ、ニンジンなど野菜を煮込んだ味噌味のスープ。ショウガで魚特有の臭みを消してさらに食べやすい味わいです。

那珂湊 浜よしの鮟鱇汁

とも酢

 北茨城、常盤の漁師料理。肝臓以外の7つ道具を茹でて食べやすい大きさに切り分けて別皿で用意。あん肝を茹でて、味噌、砂糖、みりん、食酢などの調味料と合わせて甘酸っぱい味噌だれを造ります。切り分けられた7つ道具と味噌だれを和えて食べます。

トラフグ(河豚、puffer fish)

 冬の味覚と言えば、トラフグ。フグは、サバフグ、ハコフグなどさまざまなフグが食べられていますが、トラフグは冬の高級品。フグの名前の由来は、海底から吹き出るゴカイ類を食べるため「吹く」という説、膨らむことから名づけられた説があります。下関市がフグの街として特に有名。下関では、フグのことを「フク」と呼び、「幸福が訪れますように」という願いが込められています。
 ちなみに、関西では「鉄砲」と呼んでいます。これは、フグ毒に当たると命を落とすことが由来です。大阪はフグの消費量が日本一。大阪、通天閣のある新世界では、2020年9月まで営業していた「づぼらや」の巨大フグちょうちんが街のシンボルの一つになっていました。

2015年年末の大阪新世界の風景

なぜ、下関がフグの町と言われるのか?

 下関がフグの町と言われる理由は、いくつかあります。まずは、伊藤博文が1888年、山口県知事に働きかけ、下関でフグ食解禁させたこと。フグは、紀元前には世界中でたべられております。その証拠は、2300年前には、中国の書物に「フグを食べると死ぬ」と記載され、日本でも、縄文時代の貝塚から、フグの骨が見つかっています。古来から、毒があるのをわかっていても美味しいから食べてしまいます。朝鮮出兵のために集まった九州の武士たちがフグを食べて中毒死が相次いだことから、豊臣秀吉が河豚食禁止令を出しました。年月が経つにつれて、規制が厳しくなりました。1888年、魚がとれないときに伊藤博文が来店。フグしかなかったため、処刑覚悟でフグを提供しました。しかし、明治時代、地元のフグを食べた初代総理大臣の伊藤博文が、あまりのおいしさから、調理法に気をつければ大丈夫という太鼓判が押され、1888年、山口県知事に働きかけ、フグ食を下関で解禁しました。その後、全国でフグ食が解禁されました。
 下関市は三方を海に囲まれています。西部は響灘、東部は周防灘、南部は関門海峡。さらに、九州北西部の玄界灘、四国西部の伊予灘、九州東部の豊後水道からも水揚げされます。そのため、下関港はフグの水揚げ量が日本一です。
 フグの水揚げが日本一のため、毒を除去する加工技術をもつ業者も集まります。その結果、フグ関連産業の集積した街になっていて下関近海だけではなく、全国各地からフグが集まり、取扱量も日本一です。日本では、22種類のフグが食用として許可されています。
 下関駅周辺を散策していると、ちょうちん、マンホールなど、あらゆる場所でモチーフにされたフグに出会えます。

 岐阜県飛騨地方や栃木県那須川町の温泉地でフグの養殖が成功しており、完全養殖できるようになれば、無毒のフグも生産できます。フグ毒はテトロドトキシンのことで、海中にすむバクテリアによって作られます。無色無臭で舌でも感じることができないため、体内に入れてしまいます。フグ毒は青酸カリの1000倍以上もの強力な毒があります。食物連鎖によって、餌に取り込まれる毒の濃度が上がってくるため、海にすむフグは猛毒をもちます。。毒を含むプランクトンを食べるヒトデ、貝類を食べたフグが体内に毒を蓄積されていきます。すなわち、餌に毒を含まないものを与え続ければ、濃縮されることがないので、毒をもたないフグができます。そのため、餌を無毒なものに入れて、無菌状態の海水を利用するか、温泉による完全養殖ができれば、肝も食べられるようになるかもしれません。
 フグを捌くためには、講習を受けるなどして、免許を取得する必要があります。かつて、免許制でなかった頃、大相撲九州場所中の佐渡ヶ嶽部屋で、フグの肝を食べた力士6人が中毒になり、入院し、3人死亡という事件が発生しました。ちなみに、捌かれた後のフグの内臓は鍵付きの金庫に保管されて処分します。これは、内臓を持ち込まれて犯罪に利用されないようにするため。東京都の条例で決まっています。
 フグを食べたくなったときは、外食するか、お店などで捌かれたものを買いましょう。

ふぐ料理

 トラフグの身、皮、白子は食べられます。白子以外の内臓に毒があり、食べられません。特に、卵、肝は大人も死ぬほどの猛毒。青酸カリの1000倍以上といわれているテトロドトキシンが含まれています。ちなみに、石川県の白山市美川では、猛毒のフグの卵巣を2〜3年、塩と糠で漬けることによって、毒が抜け、食べられるようにした「フグの子」があります。美味しくなかったら、命がけでフグの卵巣を食べようと思いません。美味しいから、命を懸けてでも食べようとしたのでしょう。なぜ、糠漬け熟成によって無毒化するかはわかってません。塩漬け、酵母、乳酸菌の働きによって毒、脂質が分解し、水分とともに毒素が追い出されてフグの卵巣内の毒素が薄まったからという説が考えられます。フグの有名な料理といえば、フグ刺し、湯引き、煮凝り、ちり鍋(てっちり鍋)、フグ雑炊、ヒレ酒、白子酒、白子料理、唐揚げなど。
 今回は、下関市の対岸にある北九州市小倉駅近くにあるお店「旬肴と旬菜 竹なか」で、ふく御膳をいただきました。北九州市では、梅園の河豚最中がお土産としてオススメです。ふく御膳の内容は、フグ刺し、フグちり鍋、唐揚げ、フグ皮のサラダ、ごはん、味噌汁、茶碗蒸し、お新香、小鉢(ヒジキの煮物)。

「旬肴と旬菜 竹なか」 ふく御膳 2900円+税

フグ刺し(てっさ)

 薄く切られた刺身。透明感もあり、美しい白身。低カロリーで脂肪も少ないため、あっさりとしていて上品です。
 コリコリとした歯ごたえもあり、上品な身。厚いと噛み切れないほど弾力が強いため、薄く切られます。もみじおろし、ねぎをのせてポン酢で食べると上品さが際立ちます。
 湯引きして細切りされた皮もポン酢で味わいました。コリコリした食感。コラーゲンのかたまりのため、お肌にもよいとされています。
 有田焼、伊万里焼などの大皿に盛られたものは、アートで、鶴や亀を模して盛り付けられるものもあります。

ふぐちり鍋(てっちり鍋)

 ちり鍋とは、魚介類を入れた鍋のこと。火を通すと魚の身がちりちりと縮むことから、ちり鍋と言われるようになりました。昆布だしに、白菜など、季節の野菜とともに火を通したフグ。紅葉おろしをのせてポン酢につけていただきます。コリコリから締まってるけど柔らかな身に変化。シメに雑炊にすると上品な美味しさが味わえます。

フグとアンコウの食べ比べ

 フグとアンコウの街で食べた料理の中で共通していたのが、唐揚げ。同じ唐揚げで食べました。火を通すと、どちらも身がふっくら柔らかくなります。骨を抜いて目隠しされて食べたら、味がそっくりなのです。フグは、皮が厚く、湯引きして刺身で食べると、コリコリ、温めるとゼラチン質が溶けてとろけます。鮟鱇は、薄くゼラチン質で身と一体感があります。
 内臓は食べ比べることができません。フグの内臓には、テトロドトキシンという強力な毒があり、下痢などであれば軽症、死ぬこともおります。
また、生で刺身も食べ比べたかったですが、アンコウの刺身に出会えることができず。
 さらに、両者、低カロリーです。上品であっさりして引き締まった白身。脂肪少なめでさっぱりしています。

那珂湊 浜よしで食べた鮟鱇の唐揚げ 1200円

まとめ

鮟鱇

 冷たい深海域に生息し、茨城県で水揚げが盛ん。口、目、骨以外ほとんどの部位を食べることができ、7つ道具を呼ばれている。鮟鱇料理は鮟鱇鍋、どぶ汁、唐揚げなど。
 今回は、鮟鱇鍋と唐揚げを実食。身がしまり、上品な味わい。

河豚

 山口県下関市はフグの取扱量、日本一。全国各地からフグの加工のプロが集まり、フグの町を形成。白子以外の内臓に毒があり、フグ毒による死者が多かったため、安土桃山時代から、禁止されていたフグ食。伊藤博文がフグ食を解禁したというエピソードもあり。地元では、フグ料理のことをフク料理といい、刺身、ふぐちり、唐揚げ、白子などがある。
 今回は、下関市の対岸の北九州市でフグを堪能。フグ刺し、ふぐちり、唐揚げをいただき、鮟鱇同様、上品な白身、生はコリコリ、火を通すと柔らかくなる。

お店情報

浜よし

営業時間 11:30~14:30、17:00~21:00
定休日  火曜日
アクセス 那珂湊駅から徒歩10分

旬肴と旬菜 竹なか

営業時間 11:00~15:00、17:00~22:00
定休日  不定休
アクセス モノレール平和通駅から徒歩3分、JR小倉駅から徒歩10分

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