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いざこざの後、地固まる6_呼詠
「よし、改善点もこれで出切ったかな」
葵は、メモのために持っていたペンと紙をテーブルを置き、知恵熱で蒸れた前髪を左手でかきあげてソファーの背もたれにのしかかった。
「お互い五分五分って感じだね。直すところ」
「そうだな、特に前の脚本は俺が好きなように書きすぎた。演者である凪のことなんて眼中にもないくらい、ただ自分の作る世界に酔いしれてた」
葵は、自分の書く物語が大好きだった。どんな文豪が書
いざこざの後、地固まる4_死ノ宮 華蘭
「……」
「……」
沈黙の帰り道。
行き交う人々の雑踏とカラスの鳴き声だけが空しく鳴り響く。
兄弟同士横に並びながらで家路へと歩むも、二人を包む空気は寒い冬の晩のように冷え切っていた。
「……なぁ」
先に沈黙を破ったのは葵だった。
「何だよ葵」
「あのさ……お前も本当は俺と同じでリベンジしたいんだろ?」
ぶっきらぼうに返事を返す凪に問いかける。
凪は前回のボイスドラマでの声あてに納得い
いざこざの後、地固まる3_時雨
「そ、れは……」
「…………」
そのまま二人とも黙ってしまい、気まずい空気が流れた。休憩室には授業終わりで昼食をとっている生徒がたくさんいるため、葵たちの兄弟喧嘩に目を留める人はいなかった。
「…ね、ねぇ、あお―――」
「なっぎ~!さっきの授業のノート……ってなになに?なんかやばい空気?オレ話しかけるタイミングミスった…?」
凪が葵に声をかけようとしたら後ろから凪の友人が肩に腕を回してきた。だが、
いざこざの後、地固まる2_珀煉
次の日、葵が起きると、凪は既に家を出た後で、テーブルの上には、凪が作ったであろう朝食が置いてあった。
「あいつ、先に行ったのかよ、いつもならギリギリまで寝てるくせに」
そんなことを言いつつ、葵は凪の作った朝食を温めなおして食べるのだった。朝食を食べ終え、葵は学校に向かった。その最中も考えている事はボイスドラマの内容と、凪をどうやって説得するかの二つだった。
「どーしよっかなぁ、俺もそうだけど、あい
いざこざの後、地固まる1_藤星
自然との共生を目指す学園都市、そこにある専門学校に通う一ノ瀬 葵(いちのせ あおい)と弟の凪(なぎ)は、それぞれ作家と声優を目指し切磋琢磨する仲だ。
そんな二人は、共同で製作する作品について頭を悩ませていた。
「共同制作、どんな内容にしよう……」
何をするのか案がまったく出てこないと、頭を抱える凪に、葵はゆっくりと口を開いて話かける。
「ボイスドラマはどうかな?」
葵の提案に、凪は表情
立夏の恋模様6_すりごま115
「休憩入りまーす!」
重は忙しなく動き回るクラスメイトに一瞥し、教室を後にした。
執事服に身を包んだ彼は、学生服を着た生徒が行き来する校内でひときわ目立つ。それ故に、通りすがり際にシャッターを切られることに、多少の不快感を覚えた。
好きでこんな服を着たわけではないのだ、と。重は優希の事を思い浮かべる。
「くそ……。あいつ、どこ行ったんだよ……」
ぽつり、と。呼吸を荒くした重は、携帯
立夏の恋模様5_呼詠
唐突に起こった幼馴染ナンパ事件も無事解決し、重たちはそれぞれの持ち場に付き、喫茶店の営業を再会した。
さっきまで泣いていた優希は、後輩を迎えに行くと言い、教室から一時撤退。
「先ほどは失礼致しました。では改めて、ご注文をお伺い致します」
重は、待たせてしまった女性客へ軽い謝罪をし、注文シートとペンを手に持った。
「えっと・・・オムライス二つで・・・」
「かしこまりました。オムライス
立夏の恋模様3_藤星
気まずい空気が流れた後、
「私、先に戻ってるから!」
優希は急いで接客に戻る。
その後も来客は絶えず、重は接客班の助っ人に駆り出された。
「重、こっちの手伝いお願い!」
「分かった!」
彼は慌ただしく教室を駆け、各テーブルの注文を聞いて回る。
「写真撮影していいですか?」
「はい!」
優希も写真撮影の対応に追われる中、接客をする。
(優希のヤツ、ちょっと頑張りすぎかな)
立夏の恋模様2_時雨
次の日の午後。言い合いがまとまらず結局男子が執事姿で女子がメイド姿で接客することになった。シフト制で男女が平等に入るようにし、料理はできる人がやる形で何とかきれいに(と言えるのかわからないが)まとまった。
そのあとは作る料理を考えるグループ、衣装を作るグループなどに分かれてそれぞれ話し合い、準備期間があっという間に過ぎ去った。
「ついに明日学際だね…」
「ここまでなんだかんだ言ってあっという間だっ
立夏の恋模様1_珀煉
「だから、メイド喫茶だって言ってるだろッ」
昼過ぎの教室に響き渡る男子の怒号。
「執事喫茶だよ!」
そして、それに呼応するように女子も大きく声を張り上げた。
ムッすりとした女子代表、神楽 優希(かぐら ゆうき)は、なんで分からないの? と言いたげな表情で、男子代表の勝坂 重(かつさか しげる)を見上げる。
かくいう重も、一心に「譲歩しろ」という願いを込めて優希を見下ろしていた。