札幌デザイン&テクノロジー専門学校

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  • 学園祭『One day 1 story』ノベルリレー小説

    • 26本

    札幌デザイン&テクノロジー専門学校・ノベルコースによる学園祭用マガジンです。6月10日、11日にリレー小説を投稿する予定です!

最近の記事

いざこざの後、地固まる6_呼詠

「よし、改善点もこれで出切ったかな」 葵は、メモのために持っていたペンと紙をテーブルを置き、知恵熱で蒸れた前髪を左手でかきあげてソファーの背もたれにのしかかった。 「お互い五分五分って感じだね。直すところ」 「そうだな、特に前の脚本は俺が好きなように書きすぎた。演者である凪のことなんて眼中にもないくらい、ただ自分の作る世界に酔いしれてた」 葵は、自分の書く物語が大好きだった。どんな文豪が書いた作品よりも、ずっと。だがそれは、自信があるからではない。自信をつけるためにそ

    • いざこざの後、地固まる5_すりごま115

       帰宅した葵と凪は、陸に打ち上げられた魚の様な哀愁を漂わせながら、リビングのソファーでうな垂れていた。 「あれ、こんなにひどかったか?」  凪が血走らせた目で頭を抱えた。  時を同じくして、葵はテーブルに突っ伏して死体の様に脱力していた。 「声が……、声が……、棒読みだ……」 「喧嘩うってんのかよアオイ―!」 「そっちこそ、聞いてる最中に呪物呪物言いやがって」  人の創作物を何だと思っていやがる、と。言い切った所で、凪は乾いた笑みを零した。 「あはは。黒歴史って、こうやって出

      • いざこざの後、地固まる4_死ノ宮 華蘭

        「……」 「……」  沈黙の帰り道。  行き交う人々の雑踏とカラスの鳴き声だけが空しく鳴り響く。  兄弟同士横に並びながらで家路へと歩むも、二人を包む空気は寒い冬の晩のように冷え切っていた。 「……なぁ」  先に沈黙を破ったのは葵だった。 「何だよ葵」 「あのさ……お前も本当は俺と同じでリベンジしたいんだろ?」  ぶっきらぼうに返事を返す凪に問いかける。  凪は前回のボイスドラマでの声あてに納得いってないと認めていた。  それに、先程の田中とかいう友人相手に、凪は兄弟で絶対に

        • いざこざの後、地固まる3_時雨

          「そ、れは……」 「…………」 そのまま二人とも黙ってしまい、気まずい空気が流れた。休憩室には授業終わりで昼食をとっている生徒がたくさんいるため、葵たちの兄弟喧嘩に目を留める人はいなかった。 「…ね、ねぇ、あお―――」 「なっぎ~!さっきの授業のノート……ってなになに?なんかやばい空気?オレ話しかけるタイミングミスった…?」 凪が葵に声をかけようとしたら後ろから凪の友人が肩に腕を回してきた。だが、一瞬で二人の雰囲気を察し、引き返そうとした。 「ごっめ~ん!取り込み中だったらま

        いざこざの後、地固まる6_呼詠

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        • 学園祭『One day 1 story』ノベルリレー小説
          26本

        記事

          いざこざの後、地固まる2_珀煉

          次の日、葵が起きると、凪は既に家を出た後で、テーブルの上には、凪が作ったであろう朝食が置いてあった。 「あいつ、先に行ったのかよ、いつもならギリギリまで寝てるくせに」 そんなことを言いつつ、葵は凪の作った朝食を温めなおして食べるのだった。朝食を食べ終え、葵は学校に向かった。その最中も考えている事はボイスドラマの内容と、凪をどうやって説得するかの二つだった。 「どーしよっかなぁ、俺もそうだけど、あいつ頑固だからな、うーん」 むむむと、葵は頭を悩ませた。そんなこんなしているうちに

          いざこざの後、地固まる2_珀煉

          いざこざの後、地固まる1_藤星

          自然との共生を目指す学園都市、そこにある専門学校に通う一ノ瀬 葵(いちのせ あおい)と弟の凪(なぎ)は、それぞれ作家と声優を目指し切磋琢磨する仲だ。 そんな二人は、共同で製作する作品について頭を悩ませていた。 「共同制作、どんな内容にしよう……」  何をするのか案がまったく出てこないと、頭を抱える凪に、葵はゆっくりと口を開いて話かける。 「ボイスドラマはどうかな?」  葵の提案に、凪は表情を曇らせた。 「あのねぇ。前にボイスドラマの企画で失敗したの、覚えてる?」

          いざこざの後、地固まる1_藤星

          立夏の恋模様6_すりごま115

          「休憩入りまーす!」  重は忙しなく動き回るクラスメイトに一瞥し、教室を後にした。  執事服に身を包んだ彼は、学生服を着た生徒が行き来する校内でひときわ目立つ。それ故に、通りすがり際にシャッターを切られることに、多少の不快感を覚えた。  好きでこんな服を着たわけではないのだ、と。重は優希の事を思い浮かべる。 「くそ……。あいつ、どこ行ったんだよ……」  ぽつり、と。呼吸を荒くした重は、携帯を手に二〇分前に送ったLINEを見る。  今どこにいる? と、優希に送った短いメ

          立夏の恋模様5_呼詠

           唐突に起こった幼馴染ナンパ事件も無事解決し、重たちはそれぞれの持ち場に付き、喫茶店の営業を再会した。  さっきまで泣いていた優希は、後輩を迎えに行くと言い、教室から一時撤退。  「先ほどは失礼致しました。では改めて、ご注文をお伺い致します」  重は、待たせてしまった女性客へ軽い謝罪をし、注文シートとペンを手に持った。 「えっと・・・オムライス二つで・・・」 「かしこまりました。オムライス二つですね」  注文を重に伝えた女性は、どこか様子が変だった。ナンパ事件が起き

          立夏の恋模様4_死ノ宮 華蘭

          「お待たせ致しました、お嬢様方。それではご注文の方をお伺い致しま__」  仕事に戻った重が二人の女性客の接客をしている最中の事。 「おい姉ちゃん。これから俺と一緒にいいことしようぜ? 悪いようにはしねぇからよ」 「や、やめてください! ここはそういうお店じゃありません! 誰か助けて!」  何やら騒ぎが起きている方を見ると、金髪のガラの悪そうなチンピラが優希の腕をつかんでナンパしている様子であった。  優希は涙目になりながらチンピラの腕を解こうとするも、か細い女子の力では到底チ

          立夏の恋模様4_死ノ宮 華蘭

          立夏の恋模様3_藤星

           気まずい空気が流れた後、  「私、先に戻ってるから!」  優希は急いで接客に戻る。  その後も来客は絶えず、重は接客班の助っ人に駆り出された。  「重、こっちの手伝いお願い!」  「分かった!」  彼は慌ただしく教室を駆け、各テーブルの注文を聞いて回る。  「写真撮影していいですか?」  「はい!」  優希も写真撮影の対応に追われる中、接客をする。  (優希のヤツ、ちょっと頑張りすぎかな)  接客がひと段落した後、重はふと優希の方に目を向ける。  「……接客は俺がやるから

          立夏の恋模様2_時雨

          次の日の午後。言い合いがまとまらず結局男子が執事姿で女子がメイド姿で接客することになった。シフト制で男女が平等に入るようにし、料理はできる人がやる形で何とかきれいに(と言えるのかわからないが)まとまった。 そのあとは作る料理を考えるグループ、衣装を作るグループなどに分かれてそれぞれ話し合い、準備期間があっという間に過ぎ去った。 「ついに明日学際だね…」 「ここまでなんだかんだ言ってあっという間だったねぇ…」 「あとは本番を全力で楽しむだけね!」 室内の装飾、メニュー表や看板。

          立夏の恋模様1_珀煉

          「だから、メイド喫茶だって言ってるだろッ」  昼過ぎの教室に響き渡る男子の怒号。 「執事喫茶だよ!」  そして、それに呼応するように女子も大きく声を張り上げた。  ムッすりとした女子代表、神楽 優希(かぐら ゆうき)は、なんで分からないの? と言いたげな表情で、男子代表の勝坂 重(かつさか しげる)を見上げる。  かくいう重も、一心に「譲歩しろ」という願いを込めて優希を見下ろしていた。 「まぁまぁ、二人とも落ちつけ」  ヒートアップする二人に、先生は苦笑いを浮か

          Recover7

          「待たせたな」  感動の再開にラルスがややひきつった笑みで言った。極大の鎌を受け止める腕が小鹿のように震える。引退した元冒険者には少々応える状況でありながらも、彼は笑みを途絶えさせはしなかった。 「ウ……ぅ……」  それはひとえに自分に岩の塊を叩きつけんとする、レーナを安心させるため。少女の殺意の裏にある恐怖を受け止めんがため。 「すまん……道中いろいろとあってな、来るのが遅れた」 「……」 「よく頑張ったな、もう大丈夫だ。だからもう帰ろう」 「アアアアァアアァア!」  殺人

          Recover6

          前へ、前へ、走る。小さな足を前へ、とにかく前に足を進める。 「おい、ガキ待て‼」 今は追い付かれないように、後ろの脅威から逃げることしかレーナには考えることができなかった。 レーナは神様に願いながら走り続けた。パパ助けてと。 「きゃ‼」 前だけを見て走っていたレーナに足元の木の根に気がつくことはできなかった。 神様は容易くレーナを見放す。地面にうずくまるレーナに容赦なく、足音が近づいてきた。 「おい、逃げられると思っていたのか。お前は。なぁ」 「痛い、やめて離して」

          Recover5

          レイモンドと一緒に冒険することとなったラルスはレイモンドに案内を頼み、森を抜けた。森を抜けたその先は荒廃した村であった。 「酷い荒れようだな……」 と、ラルスが呟くと 「そうなんです……夜の内に襲撃されたらしくあっけなく……」 そう、レイモンドが悔しそうな表情を浮かべながら言った。 「いったいどこに、娘を、レーナをさらった賊のアジトがあるんだ……」 ラルスが少し焦りをみせた。それを見たレイモンドが落ち着かせるために声を掛けた。 「焦ってはいけないですよラルスさん

          Recover4

           ラルスは森の中を彷徨ううちに、一際開けたところに出る。嘗て冒険者だった時は、聖水の湧く泉があることを知らなかった。神秘的な光景に見惚れていると、ラルスのもとに一人の男性が歩み寄った。 「どうしましたか?」 「攫われた娘を助けに行く途中で道に迷ってしまい……、ここはどこなんですか?」 ラルスの問いに男性は一瞬だけ複雑な表情をした。 「ここは聖泉と呼ばれています。名前のない泉なので、森の近くの住民はそう呼んでいます」 「聖泉ですか。ここにたどり着いた時、体が軽くなったのですよ。