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フトコロに飛び込む

「もっと懐に飛び込むといいよ」

10年ほど前にチームリーダーを任された頃、当時の上司から頂いたアドバイスです。

ちょうど上司から取引先を引き継いでいる時に、取引先との関係づくりに苦戦している私を見ての言葉でした。

確かに、担当が上司から私に変わった後も、取引先からの連絡はまずは上司の方に行き、私はなかなか入り込めていませんでした。

それを見かねてのアドバイスだったのですが、「別に入り込めていなくてもいい。仕事が処理できれば問題無い」と私は素直にアドバイスを受け入れようとしていませんでした。

なぜなら当時は、「懐に飛び込む」というスタイルになんとなくネガティブな印象を持っていました。

しかし今振り返ると、「懐に飛び込む」というアドバイスは全くその通りで、当時の状況を的確に現していました。

懐に飛び込む

「懐に飛び込む(懐に入る)」とは、次のように書かれていることが多いです。

「相手に気に入られてつながりを持つこと、
 取り入ること」

しかし、このフレーズの難しいところは、前後の文脈によりニュアンスが変わることです。

①新しい担当者は距離を置かず懐に入るのが上手いなぁ。
相手に取り入るのが上手だということを称賛

②新しい担当者は機嫌をとって懐に入ろうとしてるなぁ。
自分だけ得をするように働きかけるのがうまいという皮肉。

「賞賛」としても、「皮肉」としても使えるのですね。

懐に飛び込む→心を開く

アドバイスももらった頃の私は、「懐に飛び込む」とは、相手の機嫌をとったり忖度したりして「取り入ろう」とするイメージでした。

「泥臭い営業スタイル」を取ってまで気に入られたく無いなと思っていたのです。

しかし、言葉の由来類義語を調べると、印象が変わりました。

元々の由来は、
中国の故事「窮鳥懐に入る」という言葉です。
「追い詰められて逃げ場を失った鳥が
 人に懐に飛び込んできた時は、
 見捨ててはならない」

ということです。

また類義語には次のようなものがあります。


「心を開かせる」
警戒心を持たせることなく、相手がありのままの心で接することができるように仕向ける。

「関係を深める」
相手との距離感を縮めて、関係を緊密に結びつける。

逆に反意語は次のようなものがあります。

「斜に構える」
何事にも正面から向き合って対応しないで、からかったり皮肉ったりした態度で対応する。

「天邪鬼」
人の言うことと別の意見を言ったり、人が行うことと反対の行動を取るへそ曲がりな性格。

今思うと、
「取引先に入り込めていない自分を認めたく無い」というプライドが邪魔をして「斜に構え」「天邪鬼」な態度を取っていたのですね。

それを見かねた上司が(もしかしたら取引先の方も)、「心を開いて」「懐に飛び込んでいいんだよ」と言ってくれていたのでした。


懐に飛び込む→本来の自分を表現する

上司の意図を自分なりに理解してからは、「とりあえずフトコロに飛び込んでみよう」と決めて行動を変えました。

とは言え、決して取り入ったり、忖度したり、媚びを売ることは必要無いと考えました。

斜に構えず、できないことや分からないことは素直に認めて、相手に相談すればよいのです。そして、なにより本来の自分を素直に表現すればよいと考えたのです。


当時の私は営業スマイルは苦手でしたが、データを分析するのは得意でした。

商談の度に何かしらのデータを持っていき、相手の要望を探りながら心を開いてもらえるように努めました。

「理屈っぽいなぁ」とか、「政治家みたいなこと言ってんじゃないよ(笑)」とよくからかわれましたが、自分のキャラクターも理解してもらうことで関係を作っていくことができたのでした。


最近、入社3年の若手が先輩との関係に悩んでいるのを見て「フトコロに飛び込むといいよ」とアドバイスしました。本来の意味を理解するには時間がかかるかも知れませんが、自分を見つめ直すきっかけになれば良いと思います。


ありがとうございました。


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