大学中退して独立したら独立なんて必要なかった話⑧
タバコの火を消し、鳥部がいるという地元にある駐車場にむかった。駐車場に着くと鳥部と白田が一生懸命にバイクを押している。押しがけというやつだ。押しがけはバッテリーが上がった時などに使われるバイクのエンジンのかけ方である。バイクを押して、ある程度のスピードが出た時にクラッチを繋ぐとエンジンがかかる。その押しがけを行っていた。
バイクに鳥部が乗り、後ろから一生懸命に白田が押している。
「いいんじゃない!鳥部」と白田。
その合図でクラッチを離す鳥部。
ブルン!とエンジンのかかる音がするが安定せずプスンとエンジンが止まる。
「なんでや!!もう何十回もやってんぞ!!」と怒りながらバイクを降り、地面に倒れ込んだ。
「セルのスイッチが逝かれてしまったパターン?」と聞くと
「そのパターンと思うんやけど」とゼイゼイと肩で呼吸をしながら鳥部は答えた。
前大阪へツーリングに行った時もそのようなことがあった。山口あたりでセルスイッチが壊れてかからなくなり、押しがけで大阪までのツーリングを行き通したのだ。休憩でバイクのエンジンが止まるたびに、交代で鳥部のバイクを押しがけしていたことを思い出した。
疲れている鳥部を見て
「じゃあ少し変わろうか」と鳥部のバイクに跨った。すると違和感を感じた。やけにバイクが軽い気がする。そしてバイクを起こした時に聞こえるかすかなガソリンの音が聞こえない。
「鳥部、これガソリン入ってる?」
「えっ、最近入れたはずやけど。」
バイクを横に揺さぶると少ししか入ってないペットボトルの振った時ようなの心許ない液体の音が聞こえる。
「多分、これガス欠やと思うよ」
「いや!ガソリンのはずはない!!入れたもん!」と頑なな鳥部。
頑なな鳥部を「まあ、入れてみてダメやったらまた押しがけしよう。どうせガソリンはツーリングで必要なんだから。」と説得して、白田と鳥部でガソリンを買いに行ってもらった。
はぎと二人でガソリンを買ってくるのを待っていると、暗い中から一人の男が近づいていた。見てみると青白い顔をした末石。汗もかき、ぐったりしている。
「どうした?末石?」と心配して聞くと
「夜起きた時気合い入れるために栄養ドリンク飲んで、3時から押しがけをやらされて、気分悪くなって吐いた。」と簡潔に教えてくれた。通りから隠れた排水溝で吐いてた様子だった。
「あら?鳥部たちは?」と聞く末石。
ガス欠かもしれないと話すと、自分が一生懸命に押していたことが無駄だったことを悟り末石はため息をついた。
そんなことをしていると鳥部と白田が戻ってきた。携行缶に入れられたガソリンを鳥部のバイクに入れる。そして再度押しがけをしてみると今までが嘘だったかのようにエンジンがかかった。
「よっしゃ!!!!」と喜ぶ鳥部。
なんとも言えない顔をしている押しがけに付き合わされた面々。
もう次は誰かトラブルにあっても置いていくからと確認し、僕たちはやっと地元の駐車場を出たのであった。
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