高校の魅力化に正解はない、魅力化は正解のない大人の探究活動
先日、岩手県の沿岸・中山間地域にある小規模高校を対象にした魅力化フォーラムが開催されました。学校の魅力化とは、地域や大学、企業等と高校が連携・協働して、リアルな地域課題に触れながら生徒が探究的な学びを行う取組であり、島根県の離島(海士町)にある島根県立隠岐島前高校から始まったこの活動は、単なる一過性のブームではなく全国的なムーブメントになっています。
南は沖縄から北は北海道まで、全国の過疎地域で高校魅力化の取組は進められていて、沿岸部・中山間部に多くの過疎地域を抱える岩手県も例外ではありません。
岩手県教育委員会では、2020年度から小規模校28校を対象に、高校魅力化事業を開始しています。県内の魅力化対象校が一堂に会して、これまでの成果や課題をお互いに共有し、更なる飛躍につなげることが、冒頭で紹介した魅力化フォーラムの目的です。
昨年度は、私が文部科学省の出向者として、海士町での魅力化の取組に直に触れた経験も踏まえて講演をさせてもらいました。
今年度は、15年前に海士町に移住し隠岐島前高校で魅力化プロジェクトを立ち上げ、島根県の魅力化特命官として島根県内のすべての高校の魅力化をサポートしている岩本悠氏を講師としてお招きしました。
講義は島根県から配信するオンラインでの開催となりましたが、約1時間半にわたって、国の高校改革の動向から島前高校での実践例など、マクロとミクロの両方の視点から高校魅力化についてのお話を頂きました。
講義内容の多くが深い学びにつながる内容でしたが、その中でも特に参加していた教師の多くが頷いていた場面が下記スライドの「学びの土壌・環境」の内容になります。
(岩本悠氏の講演資料)
生徒が過疎化や耕作放棄地、福祉の担い手不足などの地域のリアルな課題と向き合い、その解決に向けて探究活動をしていくとき、その学びの質を左右するのが「学びの土壌・環境」であると岩本氏は話します。
前向きに取り組んでいる同級生を嘲笑したり、失敗したときに否定的だったりすると、学びは深まらず、生徒の資質・能力は育まれません。学校や学級に挑戦の連鎖が生まれる安心・安全の土壌を築くことが必要であり、ヒドゥン・カリキュラムと呼ばれるものです。
そして、岩本氏は、学びの土壌・環境を左右するのは、関わる大人・教師のあり方や態度であり、如何に教師が弱い部分も含めて生徒に見せることができるのか、教師が分からないことを分からないと言えるかどうかが影響すると指摘します。
これはとても深い視点だと思います。これまでの日本の学校文化では、教師の弱い部分や無知の部分を曝け出すことに否定的だったと思います。魅力化を進めていく上で、まずはそこから変えていくことが必要だという岩本氏の問いは本質を突いていると思います。
最後に、岩本氏はその場にいるすべての教師に向けて「高校の魅力化に正解はない、魅力化とは正解のない大人の探究活動だと自分は考えている」とメッセージをくれました。この言葉に、多くの教師が真剣な眼差して頷いていました。
岩手県には10年前の東日本大震災から復興教育に取り組んできた蓄積があります。避難所運営に主体的に関わる生徒の姿や未曾有の危機に備えて答えのない問に挑戦する生徒の姿を岩手の教師の多くが目の当たりにしてきました。
そんな岩手の土壌を生かしながら、生徒と一緒に教師が正解のない問に挑み続ける、そんな岩手の魅力化がこれから花開くことを期待したいです。
(文部科学省ホームページ掲載の岩本悠氏の講演資料)