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〝第三の和酒「浄酎」が紡ぎ出す〟人も自然も搾取されないビジネス【ナオライ】

日本酒を低温浄溜することで生み出される「浄酎(じょうちゅう)」。その味わいはウイスキーのように深みがありつつ、日本酒ならではの豊かな香りとまろやかさが残る。浄酎を日本酒、焼酎に次ぐ「第三の和酒」として国内外に流通させることを目指しているのがナオライ株式会社。広島県呉市に本社、神石高原町に酒蔵を置き、こだわり抜いた製法で浄酎を造る会社だ。日本の酒蔵や農家と手を取り合い、地域を盛り上げることも事業の柱だという。ナオライ代表の三宅紘一郎さんに、浄酎が持つ独自性や瀬戸内海の自然の恵みなどを伺った。
(トップ画像は、ナオライ久比・三角島チーム:自然農パートナー竹田麻里さん、メンバーの廣中悠人さんと )

低温蒸留した日本酒から生まれる「浄酎」

浄酎の原料は、ナオライが提携する酒蔵から選び抜かれた日本酒だ。浄酎の特筆すべき魅力は、蒸留しながらも日本酒の香りを保っているところだという。

「日本酒は時間が経つと劣化してしまい、新しいものほど価値が高いという世界。『日本酒を世界で売っていきたいけど、時間が経つにつれて劣化してしまうのをどうにかしたい』というのが僕の悩みでした。そこで時間が経っても日本酒の価値を高めるために、蒸留してみたんです。普通に蒸留してしまうと、熱成分によって日本酒の香りが死んでしまう。極めて低温で蒸留をし、アルコール化したのが浄酎です」

日本酒は一般的には熱の影響を受けやすく、低温といえど蒸留には繊細な注意が必要だ。

「浄酎は40℃以下で低温蒸留させ、日本酒を変性させないようにしています。日本酒の魂のような香りを生かしたまま、まるでウイスキーのような飲み口になるんです。この日本酒の低温蒸留の技術は、特許を取得しています」

浄酎は現在、3種類のフレーバー「浄酎 白紙垂」、アメリカンホワイトオーク樽熟成の「浄酎 金紙垂」、レモンが香る「琥珀浄酎 黒紙垂」を展開中。日本酒らしさを存分に味わいたいなら白紙垂だ。オーガニック米を原料とした金紙垂は、ウイスキーのような深みも併せ持つ。無農薬栽培のレモンが加えられた琥珀浄酎 黒紙垂なら、爽やかな香りが魅力的だ。

「飲んだ方からは『香りは日本酒だけど飲み口がウイスキーのよう』『こんなお酒、初めて飲んだ』と言っていただくことがあって、すごく嬉しいですね。浄酎のアルコール度数はすべて41%。飲み口がすごくやさしくて、日本酒のまろやかさも感じられるハイアルコールとして楽しんでいただけます。ソーダ、炭酸、ロックなど、基本的には割って飲んでいただくような造りにしました」

日本酒の味わい方の幅を広げたともいえる浄酎だが、開発にはたくさんの人の協力があったという。

「僕は研究者じゃないので、本当に出会いのおかげでした。特許も共同特許出願をさせていただいています。ナオライでは無農薬レモンの自社農園を持っていますが、オーガニック農業は全然やったことがありませんでした。農業では、梶岡秀さんというオーガニック栽培をされている方が、育て方を教えてくださったんです」

三角島で育む無農薬レモン「MIKADO LEMON」

三宅さんは広島県呉市出身。親戚筋には酒蔵関係者が多く、代々お酒に携わる人が多い酒造家系で育った。

「ずっとお酒に興味を持っていました。僕は中国に9年いたことがあるのですが、日本酒の販売などをやっていたんです。2015年位に、ブランドを作るために日本に帰ってきました。その場所として最初に選んだのが三角島(みかどしま)です。そうして『MIKADO LEMON(ミカドレモン)』というブランドを作りました」

ナオライでは、無農薬栽培で育てられたレモン「ミカドレモン」を使用したスパークリングレモン酒「MIKADO LEMON Sparkling lemon sake」を販売。純米大吟醸とレモンの爽やかさがマッチし、自宅用としてもギフト用としても人気が出ている。ミカドレモンは化学肥料や防腐剤、ワックスも不使用のため、皮まで安心して食べられる。瀬戸内海の肥沃な土壌で育ったレモンのため、香りが豊かでフレッシュだ。

「ミカドレモンの皮も商品化しているのですが、このレモンピールを入れた紅茶もおいしいですよ」

「最初に三角島の風景を見たときは、レモンがいっぱいになっていてすごいなと思ったんです。それでレモンのオーガニック栽培をしてみたら、ここの土壌にはたくさんの微生物がいて、いろいろなものを分解していることがわかりました。この土で育つレモンの旨みや酸味、コクは最高だと思っています」

初めてのチャレンジだったという、レモンのオーガニック栽培。試行錯誤を重ねれば重ねるほど、オーガニックの魅力を発見したそう。

「僕たちも8年続けて気づいたんですけど、日本のオーガニック農業の比率は0.2%程。現代農業では窒素やリン酸、カリなどが揃えば作物の実ができるという考えで、化成肥料を撒いちゃうんですよ。それでも育つんですけど、単純な味わいになると思います。一方で、ミネラルなどが豊富な土の力で育てると、それがレモンの香りや味に生きてきます」

浄酎で日本中の酒蔵とつながりを築く

MIKADO LEMONからスタートし、浄酎の開発へと歩みを進めてきたナオライ。「浄酎は日本酒から造ったお酒。日本酒とはいえませんが、第三の和酒と僕らは呼んでいます」と語るように、浄酎に懸ける想いは強い。

「お酒業界が今、潰れていっているんです。酒蔵は1200社程になりました。これは何とかしなければと思い、今に至ります」

若者の日本酒離れが叫ばれるなど、日本酒の飲み手も造り手も減少傾向に。そんな中、ナオライでは全国の酒蔵と提携を結び、さらに提携を進めるべく輪を広げる未来を目指している。

「広島では、ようやく4社の酒蔵さんと提携を結びました。島根では一社、愛媛でも一社の酒蔵さんと提携が始まろうとしています。こういう形でナオライが拠点を構え、近隣の酒蔵さんとパートナーシップを深め、一緒に浄酎を造るというモデルを作っています」

浄酎の製造過程では日本酒を蒸留する。原料となった日本酒から浄酎が出きあがるが、ナオライでは残った液体の活用にも着目した。

「蒸留で残ったものにもすごく可能性があるんです。ナオライは立命館大学と提携をしていて、バイオテック事業としての酵素ドリンクや健康食品の開発を進めています」

縮小しつつある日本酒業界に新たな活路を見出すべく、三宅さんは広島を拠点に全国的な展開を目指している。

「広島で実証できたら、次は他の地域の酒造さんや有機農家さんと同じことができます。例えば僕たちがナオライの東北拠点を作ったら、東北の酒蔵さんと有機農家さんと協力できます。東北だからできる浄酎も生まれてくるはず。夢としては、全国に8拠点。提携する酒蔵が一拠点ごとに10社だとしたら、合計80社。それが47都道府県に広がれば、提携する酒蔵が470社に。全国にある酒蔵の数が約1200社なので、半数近くの酒蔵と提携ができるんです」

2019年にスタートした浄酎の製造。自ら販売会などにも足を運ぶという三宅さんに、その手応えを聞いてみた。

「3ヶ月で3,000本近く売れてきているところです。デパートなどでの試飲即売会をすると。1週間で120万円の売上が出たり、1日で20万を超える売上が出るなど、実績がちょっとずつ出てきています。東京のお客さんからは『こういうお酒は飲んだことがない。買ってみよう!』と仰っていただくことも多いです」

中国で日本酒販売をしていた三宅さんの経験も活かし、海外への輸出も視野に入れているという。一方で、「大量生産・大量消費の世界には興味がない」と三宅さんは語る。

「浄酎は10年かけて造りたいんですよね。レモンだって育ててから4年ぐらい経って、ようやく実が出て収穫できるようになる。あんまり焦っても良くないので、じわじわとこの世界観を広げていきたいです。造れば造るほど自然が増えて地域を守れる、非効率な産業にも価値が出るようなブランドになりたいですね」

浄酎は酒米ではなく食米から造られる理由

オーガニック栽培のレモンを育て、日本酒の新たな味わい方である浄酎を開発してきたナオライ。同時にビジネスとして事業を成立させることも忘れてはいない。

「誰も搾取されないビジネスモデルというのが僕らのテーマ。もちろん地域の農家さんもそうですし、土壌の中に生きる微生物など自然もそうです。人間が自然を踏み倒してでも造ればいいというものではなくて、貢献していきたいですね」

ナオライでは、広島県神石郡神石高原町の有機農家タナベ・マリモファームと連携。純米酒で使用できる有機米を育ててもらっているのだとか。

「一般的には、米農家さんが日本酒蔵と組むためには酒米を育てます。ただしそうすると、日本酒が売れないと酒米も使えなくなってしまう。僕らは米農家さんに『酒米でなく、食米で大丈夫です』と言っています。なぜなら浄酎の製造過程ではお米を削らない。食米を卸していただければいいんです。有機農家さんからすると、浄酎にできなかったとしてもオーガニック米として販売できる。そういうモデルを目指してます」

米農家が育てた有機米は、提携先の酒蔵へ送られる。このときに浄酎の中でも特に、オーク樽で寝かせるラインを製造するための大事なポイントがあるという。

「酒蔵さんにもしも可能ならばとお願いしているのは、精米歩合は高めにしてじっくり発酵してもらうこと。さらにできれば、生酛(きもと)造りで造っていただけないか確認すること。これって、今の日本酒業界の真逆なんですよ。削った方が品評会で評価されるという傾向も見られますが、浄酎では蒸留の過程が入りますから。蒸留したときにすごく美味しくなる米の強さって、実はここにあるんです」

生産者と消費者が同じ目線に立つために

日本中の酒蔵や有機農家の将来を見据え、浄酎事業の全国展開を目指すナオライ。三宅さんは同時に「生産者と消費者の壁を溶かす」こともテーマとして、こんな取組を始めた。

「『生産者になる旅』というインバウンドを準備しています。どうやってMIKADO LEMONや琥珀浄酎ができるのかなど、生産の過程を辿ってもらう旅です」

生産者になる旅は、消費者が三角島に足を運び、生産や製造の過程を追体験できるプログラム。農作業や酒造見学などの体験のほか、五感をフルに使って瀬戸内海の自然を楽しめるのも魅力だ。

「僕らも思ったのですが、やっぱり自分で造ったものはうまい。そして一つのレモンができるまで、一つのお米ができるまで、一本の浄酎ができるまでは、こんなに大変なんだというところに共感してほしいと考えています。それで『生産者になる旅』と名づけ、ナオライの生産過程を辿る体験をブランディングしました」

東京や福岡からの参加者もいるという、生産者になる旅。今後も内容をブラッシュアップしつつ、継続して体験を提供していく予定だという。
「去年は150人近くの方が来てくださいました。これからはさらに本格的に、自分たちで宿泊施設の免許を取得して品質を整備することも考えています」

自ら土に触れ、農家との付き合いも深い三宅さん。そんな風に過ごしていると、人と自然との関わり方について考えることがあるそう。

「僕たちの集落は高齢化率が70%を超えていたり、レモンも耕作放棄地だらけの状況なんです。日本は食料自給率も低いですし、『買えばいい』という感覚になってしまっている気がします。土と繋がったり自然と繋がったりすることができる体験を、社会全体がしなくなっているのは大きな課題だと思うんです」

業界や地域を超えて、浄酎の製造やオーガニックレモンの栽培に注力するナオライは、どんな未来図を描いているのだろう。

「三本柱がありまして、まずは久比・三角島と神石高原の2拠点で浄酎を造ること。そして酵素ドリンクなどバイオテック事業を確立すること。最後はインバウンドとして、生産者になる旅をどんどん実施すること。この三本柱をどの地域でも行っていき、その地域にしかないものにフォーカスしながら、浄酎の利益を地域に還元できるようにしたいです。付加価値が高いものを世界中の市場と繋げられたらと思います」

ナオライは日本の酒造業界、有機農業界を巻き込んで、新しいムーブメントを作っている真っ只中。浄酎の味わいが気になる人は、三角島や神石高原町の絶景を望みながら、その味を楽しんでみてはいかがだろう。

ナオライ

※本記事は『読むふるさとチョイス』(2024年8月まで公開)からの転載です
※2023年8月4日掲載 価格等は取材当時のもの


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