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《楽曲紹介》A Day in the Life(1967)/The Beatles

前回の記事を読んで下さった方、ありがとうございます。


今回は3回目の楽曲紹介の記事になります。

200以上もあるビートルズの曲の中でも、特にアートな色が強い「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」について書きました。

最後までお付き合い頂けたら幸いです。


① とある新聞の記事からこの曲は生まれた

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タイトルになっている " A Day in the Life " を和訳すると「ある日の日常」みたいな意味になるんですが、この曲はまさにタイトルのような生まれ方をしました。

「ある日、ジョン・レノンが読んでいた新聞の記事から着想を得た」という背景があるのです。

ジョンの目を引いたのは「社交会で有名な男の自動車事故」という記事と、「イングランドの通りに空いた4000個の穴を舗装する」という内容でした。


…自分が実際にその新聞を読んでいたら素通りしてしまいそうな、何てことはない記事に感じてしまいます。

しかしジョンの創作意欲にはハマったようで、これは後に壮大な名曲へと変貌します。


② オーケストラを狂気に巻き込むビートルズ

ジョンとポールは「この曲を作っている時が最も楽しかった」と語っているとのこと。

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その大きな理由のなかには、当時のロックバンドには珍しく「オーケストラのゴージャスな音響を惜しげもなく使った」ということがあると思います。


しかも、ジョンとポールはプロデューサーにこんな個性的な提案をしたのです。

ジョン「オーケストラの人には、一番低い音から一番高い音まで出してほしい」

ポール「あと、それぞれアドリブで誰とも被らない音を出してもらいたい!」

この提案を受けたプロデューサーは引き受け、ざっくりとしたスコアを書いてオーケストラに渡します。伝説の始まりです。


さらに、レコーディングの際には「正装してくること」「パーティーグッズを着けてくること」という要求も加わります。

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(意外とノリノリ?なオーケストラの皆さん)


当時のパーティーグッズのクオリティがなんともリアルで不気味なんですが、それがこの曲の世界観と見事マッチしているように感じます。


③ ありふれた日常と共にある"何か"

続いて、歌詞と間奏を含めた全容を紹介します。

(和訳に関しては間違っているところもありそうですが… 大体の内容は掴めると思います)


I read the news today, oh boy
今日 新聞でニュースを読んだんだ

About a lucky man who made the grade
成功した男についての記事さ

And though the news was rather sad
そのニュースは ちょっと悲しかったけれど

Well I just had to laugh
笑わずにはいられなかったんだ、

I saw the photograph
その写真を見てさ

He blew his mind out in a car
彼は車の中で意識を失って

He didn't notice that the lights had changed
信号が変わったことに 気付かなかったんだ

A crowd of people stood and stared
大勢の人が立って見つめていたよ

They'd seen his face before
皆 彼の顔に見覚えはあったけれど、

Nobody was really sure If he was from the House of Lords
はっきりと上院議員だとは覚えていなかったんだ



I saw a film today, oh boy
今日 映画を観たんだ

The English army had just won the war
イギリス軍が戦争に勝ったところで

A crowd of people turned away
皆 帰っていった

But I just had to look
けれど、僕は見続けたんだ

Having read the book
その本を読んだから

I'd love to turn you on
君にも夢中になってほしい



ここで一旦オーケストラの間奏が入るのですが、今までの優しい雰囲気とはうってかわって警鐘のような不協和音が膨らんでいきます。

さながら、平穏な日常が何か些細な物事によって壊されてしまったかのようにも感じられます。


しかし、何も無かったかのようにまた日常は始まるのです。

Woke up, fell out of bed
目が覚めて ベッドから落ちて

Dragged a comb across my head

クシで髪を梳かして

Found my way downstairs and drank a cup
下に降りて お茶を一杯


And looking up I noticed I was late
目を上げて 遅刻したと気付いたよ



Found my coat and grabbed my hat

コートを見つけて 帽子をつかんで

Made the bus in seconds flat

すぐにバスに乗ったよ

Found my way upstairs and had a smoke
階段を上ってから 一服


Somebody spoke and I went into a dream

誰かが話しかけてきて 僕は夢のなかへ


ここに来て、ジョンの " ahhh... " というコーラスが入るのですが、そのエコーを纏う不思議な響きは突然トリップが始まったかのような錯覚を覚えます。

(歌詞の中の「一服」はもしや、合法ではないアレの隠喩?)


余韻に浸っていたところ、迫り来るオーケストラの波に飲み込まれるようにしてまた日常へと引き戻されます。

I read the news today, oh boy
今日 新聞でニュースを読んだんだ

4,000 holes in Blackburn, Lancashire
ランカシャー州 ブラックバーンに4000個の穴

And though the holes were rather small
穴は小さかったけれど、

They had to count them all
彼らは全て数える必要があったんだ

Now they know how many holes it takes to fill the Albert Hall
アルバートホールを埋めるのに どれだけの穴が必要か分かったね

I'd love to turn you on
君にも夢中になってほしい

ここで、この曲は最大の盛り上がりを見せます。

先ほど感じた「警鐘のような不協和音」が一気に押し寄せ、許容できないところまで膨張した瞬間、大小さまざまな楽器の音色が完璧に調和します。

あとはその調和の余韻を感じるのみ。

素晴らしい結末です。


④ PVがあってこその完成形

初めに「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を聞いた時、物凄い衝撃を受けました。

小さい頃に父に勧められて聞かされたのですが、穏やかな曲調をいきなりブッ壊すようなオーケストラの間奏に「このバンド、正気か・・・?」とドン引きしたほどです。


しかし数年前、YouTubeに投稿されているPVを偶然見た私は「その時代を投影したような混沌とした映像」にとても惹き込まれてしまいました。

ヒッピーファッションに身を包んだ若い男女、そんな彼らとは正反対の空気を纏うカッチリとしたオーケストラの方々。

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そして、光、鳥、銃を持った子供、警察、など。

サブリミナル効果のように「何か」が映っては消え、また映っては消える。


単体では意味を為さない「ある日の日常」を寄せ集めて形成されたような映像は、現代で言うところの「エモい」が凝縮されています。


何より、メンバーの自然な表情や、当時交流のあったアーティスト達の顔ぶれが見れる貴重な映像であることも間違いありません。

このPVなしでは、この曲にここまで魅了されなかったと断言できます。


⑤ 最後に

筆者はこの曲がビートルズの集大成といっても過言ではないと思っています。

ロックの基盤を生み出した彼らがそのジャンルの幅を大きく押し広げた曲であり、且つジャンルを越えて後世に残る名曲になりました。

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壮大なオーケストラに乗せて紡がれる「ある日の日常」。

途中で入り込む目覚まし時計の音慌てる人の息遣いなど、"日常"を表現するような生活音も遊び心があって楽しい曲です。

筆者も、いつか誰かの人生の一コマに加わるような存在になりたいものです。

ここまで読んで下さりありがとうございました!

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