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不思議な顔

さいきんいそがしくかんじるような日々をすごしています。それだからか体がなんだかままならないばかりで右手をつかおうとすると左手はぴくりともうごかないみたいなふうですし、昨日は頭がいたいし呼吸が少しあさくってなんかもうだめだなって家にかえって、それから12時間もねていたのに、今日もおなじようなかんじでぼーっとしながら電車にゆられています。しゃーー、きゅーーいんっみたいなのが耳をつうかしていきます。いつもこういうときにせんとうにいきたくなります。からだのなかに水がないってことなのでしょうか。寒いってことなのでしょうか。それとも水のできうるかぎりのちかくでぼーっとしていたいのでしょうか。

こういうときだからこそふれていたい音楽や言葉があります。昨日おすすめしてもらったLou ReedのWalk on the Wild Sideは軽やかなのにしみていくかんじがしますし、あと青葉市子さんのも。iam POD(0%)をきいていて自分はいまなんパーセントなんだろうってうかんだり。
あとは、川上未映子さんや江國香織さんの本なんかもはだにあいます。川上未映子さんの本をひらいてはじめの一ページ目で口をおおいます、ああ、もう、なんで、こんなにもきれいな言葉をつかえるんだろうって。しせいを正しくしてつぎのページをめくります。
江國さんの本は絵本にちかくてひらくたびに新しい登場人物がしぜんにかわったことをしています。ページをめくるたびにどうしようもない生き物がほんの少しのあいだだけ出会ってわかれてをくりかえす。ただそれだけなのにあったかくて、ほんの少しだけよんでしおりをはさみ、かばんの底にもどします。それから電車をやっぱりぼーっとした顔でおりて、雨が少しだけふっているところをかさをさしてあるいたり、一定のきょりをたもってとことこあるくハトに、なんて小動物っぽさと声をもらしてもう少しだけとおいまわしているうちにほんの少しだけですが目が軽くなっていることにきづきます。

しんじゅくのハト

そういえば文章によってよんでいるときのはやさってちがいませんか。それが本当に不思議で。自分は金原ひとみさんの文章がだいすきです。金原さんの文章の多くはショットガンをみだらにうっているような印象をうけます。戦場の中に目だけをおくことをゆるされて、その目をとおしてさつりくをみて、さつりくを一緒になって楽しんだり悲しんだりします。戦場を前にして頭のどこか(どうやら目と頭はつごうよくつながっているようです)がちかちかとはやくまたたいて、ざんこくさにある本物にいそいでおいつこうとするあの時間はとてもきもちがいいです。

はんたいに、江國さんや川上未映子さんの文章はもっとおそいです。一行一行をおいたくなっているうちに一文字一文字を指でなぞっていることにきづきます。

どうしてこれほどまでに文章の読み方にちがいが出てくるんでしょうか、いつも不思議に思います。それは顔の不思議と同じかもしれません。顔にはあまりのすべてが、とらえきれないことのすべてがあるようにおもいます。
ひとの顔ってせつめいがむずかしいです。
そういえば好きだったひとの顔ほどこまかい部分が浮かんでこないですし。たとえば鼻のひくさ、ほくろのいち、目の形とかいろんなじょうほうってあるんでしょうけど、そんなじょうほうをあつめてみたところでひとの顔になってくれそうにないですし。そういうじょうほうをきいたところで、そういうことじゃないんだけどってゆいたくなる。
なんか顔には印象やふんいきというものがあるというよりもむしろ、もはや印象やふんいきだけがあるものだとおもうのです。

それと文章も顔みたいなもんじゃないのかなってことをいいたくって。ひとの文章ってどうしようもなくかいた人のことをせつめいしてしまいます。
わたしはこんなひとなんですって紹介しなくってももれでてしまうはいせつぶつです。あまりとしてのせつめいは、よんでいくはやさをふくめたよみ方、浮かんでくるかき手の顔、かき手の名前の印象になぜだかうつしだされていってしまうものだとおもいます。

どうやってそれぞれの顔が生まれてしまうのか、生まれた顔にどうしてとらわれてしまうのか。そんなことばかりを不思議に思うのが自分で、そんなことくらいしか大事なことってもうどこにもないんじゃないのかなってひそかにおもっています。どんな顔かを一生けんめいにせつめいしているようなあれこれを見ているとなんかずれてるんじゃないかなってよくおもいます。一生けんめいせつめいしようとしてるところに顔があります。



P.S.
最近のいろんなところから生まれている不満みたいなものも、各学問分野の中で議論されていることも、その中心部分には、この余りとしての顔をどう捉えるのか、大事にするのか、ということに集約される場合が多い印象を受けます。

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