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私の小さな農園

去年は草刈り機(刈り払い機)を覚え、せっせと草刈りに勤しんだ。今年はさらに、農作物をひとつふたつ育ててみようと思う。

母にも言われたが、健康上の理由で、私は農業一本で生きていくことはできない。それはわかっている。だけど今のうちに小さな経験は積んでおきたい。

震災、コロナ禍、離婚、父の死、戦争の影響――たった10年、11年の間にこれだけのことが起こった。これから先だって、世界や私の生活が予想外の変化を遂げないとも限らない。

だからたとえ微々たるものだとしても、「生きる力」は持っておきたい。

「まったくわからない」「一度もやったことない」よりも、「ちょっとだけど、やったことある」の方がまだ心強いから。

  *

ホームセンターで母と買い物をしたとき、ついでに苗を物色。カボチャがいいかも、ということになった。しかし早速買おうとしたところで、母に止められる。

「苗っこの説明、読んでみらい」
「ええと? 苗を植える2週間前に苦土石灰くどせっかいをまき……?」

つまり。今この苗を買ったとしても、実際に植えるのは2週間後。その間に畑の準備をしなければならない。

「今買ってしまうと、2週間うちで苗っこ管理しなきゃない。それは大変だから、畑の準備をしてから買った方がいい」

ということで一旦保留。先に畑を整えることになった。

  *

暑すぎず寒すぎず、風が心地良いある日。
「今日、苦土石灰まいてみようと思うのでご指導よろしくお願いします」
母に弟子入りする。

教本は、母が愛読している指南書。苦土石灰の量などを事前に確認しておいた。イラストによる解説なので、とてもわかりやすい。昔、父が母へ買ったものらしい。

「はいじゃあ、苦土石灰はあちらにありますのでどうぞ」
母に案内されて、かつて父の溶接作業場だった小屋へ行くと、「苦土石灰」と書かれた袋が置いてあった。

「袋のままやると面倒だから、私はこれに入れてるの」
袋のそばにある、2リットルくらい入りそうな大きめのプラボトルを母が取り出し、フタを外した。次に500mlのペットボトルの下半分を切り取ったものを、ひっくり返して大きいボトルへ差す。なるほど、これはジョウゴとして使うわけだ。

大きいボトルの中に、黒い粒がサラサラと入っていく。石灰というから、てっきり運動会のライン引きに使う白い粉を想像していた。

「そしたらこれを、畑にフ~リフ~リフ~リフ~リってまくのよ」
腰を揺らしてフラダンスのように踊る陽気な母。
「私も腰を振らないとダメですかね」
「じゃあ畑に行ってみよう!」
「あ、はい」

母の鼻歌に合いの手を入れながら畑へ行く。先日私がはこべ取りをした場所が、私の農園になるらしい。

カボチャの苗は、2本植える予定。だから私の農園は、二畳分あるかないか程度の、こじんまりした大きさ。だけどなんだか、とても愛おしく見えてくる。

早速ボトルに入れた苦土石灰をまく。まいたら土を掘ったりひっくり返したり砕いたりして、よくまぜる。

途中、近所のおじさんが
「おう、何やってだどごや〜」
と我が家の畑を歩いていた。私はえへへ、と照れ笑い。おじさんはうちの畑を通り抜けて、田へ向かう。もうじき田植えが始まるから。

「田植え、1週間後くらい?」
母が尋ねる。田にはすでに水が入っていた。この時期我が家では、庭で流す水に気を使う。家の中で使った水は浄化槽に入るが、庭の水は、排水管を通っておじさんちの田に入るから。
排水口に入ったらおしまい、どこへ行くかわからない――ではないのだ。

「んだな、来週くらいだべ」
おじさんは答えながら通り過ぎ、田へ向かった。

畑の準備は、ひとまずこれで第一段階終了。
意外とあっさり終わって拍子抜けしたが、ここで欲張ってあれこれ手を出してはいけない。なぜなら疲れすぎると持病が再発してしまうからだ。

もう10年以上飲み続けているステロイド。これが先日、1mg減った。ステロイドというのは勝手に服用中止してはいけない薬で、医師と相談しながらちょっとずつ減らしていく。

私の場合、2018年から痛みもなく元気なので、鬼門の梅雨時と冬は避けつつ、折を見て減薬してきた。

そしてついに、6mgまできた。
これはちょっと、実はドキドキなのだ。
なぜなら過去の経験から、6mg、5mgというのは、私にとって再発しやすい領域だから。

だから絶対、無理はしない。
ここで無理して再発すると、またドーンとステロイドが増えてしまう。

それに「絶対入院してはならぬ」という母との約束もある。私が入院したら母がとても忙しくなってしまうし、ステロイド増量したら感染症にかかりやすい体になってしまう。コロナがまだ落ち着いていないときに、それだけは絶対に勘弁なのだ。

私の小さな農園にはカボチャを植える予定だが、少し離れたところには、青々とした葉を伸ばしたニンニクが1本、生えている。これは勝手に生えていたものだが、せっかくなので私の農園の仲間に入れる。

それと青ジソ。青ジソも勝手にモリモリ育ってくれる野菜なので、農業初心者にはありがたい。そのうち畑のあちこちに生えて勝手に増えるので、何本かは私の農園へ移植してニヤニヤ眺める計画。

収穫も楽しみだが、まだ何も植えていない今の畑も、なんだかとってもかわいく思えてしまう。

次は一週間後。堆肥を入れる予定。
その頃には近所のおじさんちでも、田植えが始まることだろう。




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