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住所不定の思想

この思想はホームレスの思想ではありません。

発端は浮浪者だったかもしれませんが、今や一般に開きつつある住まい方。

河川敷の浮浪者によって実践され、建てない建築家坂口恭平によって顕在化され、コンセプトデザイナーの高木新平によって洗練されたひとつのコンセプトです。

別の潮流では、米国のタイニーハウスムーブメントや、AirbnbやUber を台頭するCtoCのシェアリングエコノミーの発展、元を辿ればPeer to Peerの仕組みを取り込んだネットワークシステムも影響している事でしょう。

住所不定
= 住所が不定である。

この言葉はなんとなくの不安感や、解放感、無責任感と浮遊感を感じさせます。

更に深く考えてみると、自由とは何か、私とは何かを根底から揺さぶられているような感覚さえ覚えます。

僕らが住まいと呼んでいるものは、一体なんなのでしょうか?場所から解放されて、帰る場所を自由に選べるとは、どういう事なのでしょうか?

高木新平の住所不定論

住所不定とは、「一拠点での定住にこだわらず、 移動を暮らしの中心において各地を転々としながら生活すること」です。

浮浪者や旅人もこのような気質がありますが、住所不定のコンセプトには現代に向けられた2つの文脈があります。

1. ワークスタイルの多様化とテレワークの浸透、AIを含む技術の発展により単純労働の縮小が進む ➡︎ クリエイティブクラスの需要が増す
2. 人類は移動によって進化してきた ➡︎ 移動がクリエイティブを生み出す

これらの2つの文脈に加え、高木新平は移動について、新しい生存感覚の可能性をみているように思います。
キーワードは相対化・レイヤー化です。

世界はどんどん相対化に向かっています。相対化とは、全てが比較対象のうちに入ってしまうということで、善悪の価値観も今ここでは善でも別の場所では悪だよね、という風にして絶対軸がなかなか見つからない世の中になっています。
一方で視点をズラすと、レイヤー化された世界が広がっています。例えば秋葉原の街をみれば、レイヤー化された都市像が浮かびあがります。外国人が見ると電気街に、オタクが見ると聖地に、社会人が見るとビジネス街にという風にして、それぞれが干渉することなく積層しているようなイメージです。人の顔も2面性や3面性があるのが当たり前で、それを一つに統合しようとは思わなくなってきていますよね。週3日は会社員の顔、2日は田舎で文筆家、もう2日は主夫、裏では不動産で副業というように。移動はこうしたレイヤー化された世界の間を行き来することを可能にします。

相対化してしまう世の中で、どうレイヤー間を生き抜くのか。これが喫緊の課題としてあるからこそ、"移動"なのです。

住所不定の本質的課題

住所不定の本質、つまり住まいを次々と移動させてしまうという行為の本質的課題について、建築家ノルベルグが「実存・空間・建築」という本の中で色々と試論されています。(40年も前に書かれた本です)

空間というのは僕らと環境との相互作用によって成り立つものであり、家という空間は、帰る場所であったり、自己同一性を担保する場所であったりします。

この事を前提に考え、移動はヒトを「自己中心的」段階に留めてしまったり、「迷い込む恐怖」に貶めてしまったりするのではと懸念しています。

しかし懸念を捉えた上で、こう結論づけています。結局のところ人間の実存的な部分を満足させよ、現実に密着せよと。要するに、移動するのはいいけど、ちゃんと住もうね、ということです。

人間の同一性の喪失を予防することの問題は、社会が変わっても、技術が発達しても、変わらずある問題です。

しかしこの40年の間に、処方箋はだされていました。これがレイヤー化された世界を横断的に生きる方法です。個人的にも、今の社会では無理に同一性を求めず、多中心のほうがヒトは生きやすいのではと思います。

起業家の家入一真がひたすら逃げの精神を説いているのも、行き着く先の新しいレイヤーをむしろ積極的に生きよというメッセージが根底にあるからです。

住所不定の2つの帰結

住所不定は僕たちに2つの帰結をもたらすでしょう。1つは、レイヤー間を行き来する実存的な生き方。この生き方は、先時代の遊動民(ノマド)が荒野の真っ只中でも複数の星をみて自分の定位を捉えていたように、自ら中心性を捉えて暮らすことです。もう1つは、ただサービスに身を任せて、結局のところ何処にも根を下ろせない生き方。

住所不定の言葉がなんとも危うく魅力に聞こえるのは、住むことへの本来の欠乏が、僕たちの内に呼びかけているからなのでしょう。

参考
「実存・空間・建築」鹿島出版 | ノルベルグ・シュルツ

※この文章には僕の妄想が多分に含まれていることをご了承ください。

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