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【旅物語#04】ベトナムハノイ 列車が家々の目の前を轟音で走り抜けていく、驚愕#22_07

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「ちゅーーちゅー、ちゅうーちゅーーー」
彼女たちは祭りが始まる合図みたいに、一斉に声を出して人々に知らせている。
「これから列車が通るわよ!」それは、危険を知らせる意味なのだけど、その陽気さから「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」とバナナの叩き売りの行商人の掛け声のように感じる。(映画の中でしか見たことはないけど)つまりは、祭りのようなことが、これから始まるのだ。

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ベトナムday1-87

暮れゆくハノイの夕日を見送り、ハノイの町並みはあちこちから漏れる灯りで幻想的な景色へと変わっていた。かつて100年間フランスに統治されていたベトナムでは、洋建築が一般的なのだ。ということを町を歩きながらぼくは知った。

ほとんどの家が煉瓦を積み上げて造られていて、その上にモルタルが塗られていたり鉄板で囲まれていたりする。
あちこちから縦横無尽に曲がりながら伸びる木々が生え、今にも火花を散らしそうな無数の電線が空を覆い、乱雑に干された洗濯物と誇張された店舗看板と、溢れる人。そして、どの壁も黒く薄汚れている。

そんなことも相まって、この町が洋建築で埋め尽くされていて、実は欧風な町並みで構成されていることに気づいたのは、その、日が暮れた頃だった。
なぜにこの町がこんなにも洒落て見えるのか。そんなこと考えながら辺りを見回すと、建築物も装飾物も、どれもこれもが素敵なのだ。

そんなドラマチックでフォトジェニックでノスタルジーな町の夜は、やはりけたたましく熱を帯びていた。たまねぎ剣士は震えながら旅に出る。の、その初めてのベトナムハノイの夜。湯気を立てた透明なスープに血汁が流れ出そうな赤肉ののったフォーをすする。その時の物語も、やはりドラマチックで、わざわざテキストに綴るほどでもないのだが、、(よかったら以前のアーカイブをご覧いただければ幸いでございます。です)一つ一つを愛でてしまうのが、ぼくという女々しさで生成された人間の性なのであろう。

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線路とバイクたちの魚群が流れる車道の交差点踏切を左に曲がる。夕暮れ刻から一変してレイルウェイの町には歩く人の姿はまばらとなり、家々の中からは団欒の声が灯りと共に漏れていた。

一杯6ドルのカクテルのカフェ、まだ明るい時の彼女の誘いに乗っかることにした。異国の地での一人旅。不安だらけで未知へと飛び込んでいく感覚は、身軽でありながら少し重い。平和国の中流階級育ちの自分が、世界の中では無知の象徴のようにも感じている。

「知らない。」ことを「知る。」ことこそが、「旅。」
ではあるが、やはりその未知との接触は、常に少しばかりの恐怖と警戒心が存在する。もしくは、そういったものを本来持ち合わせていない自身に、自戒の念を呼び起こす感覚が必要なのだ。とも感じている。夜は当たり前に暗い。とは言え、好奇心と不安のシーソーは行ったり来たりして、結局は好奇心の方が少しばかり優位なのだ。そんな脳内会話をしながら、線路の安定しない砂利を踏みしめながら、歩を進める。

ベトナムday1-91

店の前には既に数人の外国人たちがビールを片手にベンチに腰掛け談笑していた。近所の子供であろう髪を結った男の子が、腰掛ける女性に声をかけて遊び始めるところだった。この町の子供たちはとても国際的な環境に恵まれているようだ。

「Hey!KAZUKI!!」カフェの彼女が笑顔で手を振っている。
「ちゃんと来たね!もう少ししたら列車が通るから、店の中でも外でも、好きなところにいたらいいよ!」そんなことを言ってくれた。ぼくは外の外国人に習いビールをもらい、リノベーションされたカフェの店内をみせてもらった。

笑顔の彼女や遊ぶ男の子、この町の暮らしと出逢うことでさっきまでの疑心が緩やかにほどけていく。まずは信じてみよう。騙されるてもいいじゃないか。それらが尊い経験になれば安いものなのだ。そう考えてみるのもいいだろう。空港で声をかけてきた胡散臭いバスの運転手もちゃんとぼくを送り届けてくれたじゃないか。そうやって、まだ始まったばかりのこの旅での出逢いを、そそくさと振りるのだった。

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「ちゅーーちゅー、ちゅうーちゅーーー」
彼女たちは祭りが始まる合図みたいに、一斉に声を出して人々に知らせている。
「これから列車が通るわよ!」それは、危険を知らせる意味なのだけど、その陽気さから「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」とバナナの叩き売りの行商人の掛け声のように感じる。

これからこの線路を囲む町に、列車が通るのだ。
その光景を待ちわびた観光客たちが、そわそわとカメラを準備したり、立ち上がりなるべく建物にへばりつくようにその瞬間を待ちわびていた。ぼくも店の外に出て、彼らに習い同じようにその瞬間をそわそわと待ちわびる。

大きな警笛が鳴り、丸い先攻が音を立て町の向こう側からこちらに向かって走り迫ってくる。擬音で表すことができないような、轟音。ずっしりと車輪と線路の鉄鉄同士がひしめいて、地面が揺れる。

ベトナムday1-98

先ほどまで男の子が走り回っていた線路の町に、まるで町を破壊するようにも見えるその光景に、、愕然

思わず手に持つカメラから目を離す。巨大な鉄の塊が目前に近づき、そのままの速度で、ぼくの身体の目の前をすり抜けていく。手を伸ばせば巻き込まれる。つまづいたら身体が引き千切られる。そんな距離に、列車が通る。なんということだろう。その恐怖とも興奮とも言えぬ感覚が広がり、我に帰る頃には、列車の後ろ姿を捉えるのみとなった。

ベトナムday1-99

列車が遠のいていくと、町には静けさが却ってくる。先ほどまでの光景を反復してみても、まるで夢でも見たかのように町は元の姿を留めるのみなのだ。いつかの祭りの跡を懐古するかのように、なんだか哀愁めいた感情を持っていた。

彼女たちが見物人に声をかけている。どうやら30分後には、先ほどの列車が引き返しここをまた通るのだという。「今度は店の二階から写真を撮ると良いよ。」彼女がそうすすめてくれる。今度はちゃんとシャッターを押さないとな。と、呑みかけのビールを持って店の二階へ上がった。

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レイルウェイから宿に帰る道中は、歩道にまで店が広がる繁華街をすり抜けながら初めてのベトナムの地での1日を終える充足感に包まれていた。光は夜空を赤らめるほど煌々と輝いている。あの光の中に飛び込めたなら。でも、もう今夜は眠ろう。続きはもう少しばかり勇敢になった未来のぼくが果たしてくれるだろう。グラスを重ねるおじちゃんたちもまた、夜空と同じく頬を赤らめている。

「知らない。」ということがほんの少しだけ過去のことに変わっていって、ほんの少しだけ、身体が「自由」になっていく。

世界を股にかける旅人には程遠い。デジタルデバイスの相棒も手放せない。バックパックよりも大きなスーツケースをひきづっている。あんまりかっこいい旅はできないけど、自分の速度で世界を知っていきたいのだ。

それじゃあ、またね。明日、逢おう。
ドミトリーの一段目に足を伸ばして、誰かの寝息に紛れながら、吐息のようにつぶやいた。明日の出逢いへの好奇心はどうやらまた、不安よりも少しばかり優位なようだ。

未知との出逢いに心を躍らせて。
たまねぎ戦士は震えながら、旅に出る。

ベトナムday1-110

2018年12月ベトナム首都 ハノイより

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旅する古物商-hito.to-という生業をしています>>


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2022年2月27日
写真とテキスト:たつみかずき


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