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【読書録】黒澤いづみ著『人間に向いてない』

読み始めて「すごい」の連続。
家族という一番近くて一番難しい人間関係を考えるきっかけとなった。


■黒澤いづみ著『人間に向いてない』について


■感想(未読の方へ:主題に触れています)


 ある日突然、人間の姿が虫や魚・小動物などに似ている、それでいてグロテスクな異形に変異してしまうという病。別名ミュータント・シンドローム。
 設定からして衝撃を受ける。
 変異した異形の種類や外観に関する表現が細かくて、文字から伝わってくる〝未知のもの〟への恐怖やおどろおどろしさ、中でも〝脚は人間の指が生えている〟というような描写があり、読み手の想像にスパイスを与える。文字のみで描き出す異形たち、その表現に「すごい」と感じる。

 「人間が異形に変異する病」をめぐる、周囲の様々な反応や性急に思える政府の決定事項なども、コロナ禍を経験してしまった今読むと、決して荒唐無稽な話には思えなくなってくる。
 病にかかって人権を剥奪される。そんな不合理。
 主人公がこの病のことを調べた末に辿り着くブログにある「社会的弱者の間引き」という言葉にはドキッとさせられる。

 主人公が変異者の家族の会『みずたまの会』に入会して会の人々と交流する場面も、失礼ながらなんとなく怪しいその会の運営状況も、現実世界と重なり主人公の行く末を不安に感じさせる。

 とてつもなく作りこまれたリアルな世界に圧倒され「すごい」と感じる。

 終章前の※での変異者たちの叫びは特にリアルで濃い闇を感じる。思うようにいかない人生と自分の行動。否定され続けた心の叫びは、読み手である自分の中にある傷口にも触れるようで読んでいて苦しい。

 全般的にダークで重苦しい話が進むが、主人公が自らの息子との関わりを内省し、息子との対峙につながる流れは胸を打たれる。

 家族という一番近くて一番難しい人間関係を見つめなおすきっかけになった。

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