「小説 組織風土改革推進委員会」~チームの軌跡~第1話:4人目の上司
第1話:4人目の上司
3月は面倒な季節である。何かと慌ただしい時期である。国内の多くの企業では、年度末での様々な締め切りもある。特に営業は最後の目標に向かって到達できるかどうかという方もいる。スタッフは来期の計画策定だ。そして、俺の会社では、3月1日の今日は、人事異動も発表され、フロア内はストレートに異動する人の名前を出す人はいないのだが、なんだか変な空気に包まれて、重々しく、ざわめいていた。休憩のエリアなどでは、どうなった、こうなったなどの無駄なおしゃべりは終わらない。そのまま、夜のとばりにまで話をもっていくこととなる。毎年こんな日がやってくるのである。
「あそこは、また、上司が変わるらしいぞ」
昼休みにはいろうかとしていたころ、人事のほうからうっすらと聞こえてきた話題に、私は思わず耳を傾けてしまった。あそことは、たぶん、俺の組織のことだ。この組織に来てから、4月でまる3年経ち、4年目となる。それは4人目の上司になるという話に聞こえた。今いる組織は、毎年、組織の長が一年間で交代するという珍しい組織なのだ。そして、その上司は全員、この組織を経由してから、我が社の役員となっている。いわば、役員の登竜門と噂されているのだ。
役員になった元上司達を振り返ると、みんなたいした仕事はしていないのになあと、ずっと思っていた。確かに、「これをやった」というような実績はないように感じていたし、きっとまわりも、皆、そう思っていたはずだ。以前、誰がその席にいたかも覚えていないだろう。本来なら、そういった役員への基準とか、評価とかあったほうが、社員にもわかりやすいはずだ。
昼休みは会社の食堂に一人でいたのだが、営業部時代の同僚の小西がやってきて
「聞こえてきた噂話だけど、そちらの組織の新しい上司は新規開発営業本部からくるみたいだな」
と小さな声で語りかけてきた。
「そうなんだ」
とつぶやき、俺は不安もないし、関心もない顔で小西を見た。小西はじっと俺の顔を眺めて、
「動揺ゼロってわけか」
と言って去っていった。
本当は関心があるのだが、小西には見せたくなかっただけだ。本当は「新しい上司とは、誰なのか」も聞きたかった。正直、自分よりも年下であるであろう若手上司に対する不安と、今、所属している「組織風土改革推進委員会」自体の会社の位置づけや、自分の立場への懸念が頭をよぎっていた。その日の午後は、なんだか席にずっと座って資料を作成していても、頭の中に何かしら不安が沸き起こってきた。自分にとっては、こんなことは、めずらしい感じであった。時間が早く経過して、夕方になったら、すぐに会社を出たいと思っていた。
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