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野球少年を襲う病魔〜痛くない野球肘がある?part3〜

前回に引き続き上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎についてお伝えしたいと思います。今回は分離期前期の症状・病態についてです。前回の透亮期編(外側期・中央期)をお読み頂き、次に進まれると理解しやすいかと思います。↓をクリックください。良ければフォローくださると幸いです!

※離断性骨軟骨炎は疾病です!病院で経過をしっかり診てもらいましょう!(整骨院の先生やトレーナーの方々は、発見、疑いある選手がいた場合、病院と連携をとり対応しなければなりません。スポーツ障害ではなく、疾病ということを理解してください。)

症状・病態〜3つの期分け〜
透亮期(外側期・中央期)
分離期(前期・後期)
遊離期(病巣内期・病巣外期)

中期(分離期前期)
中期は12歳前後に多くみられ、中期に突入したところで発見した場合は、回復(可逆性)するか、回復しない(不可逆性(元に戻らない)となるかは約50%と言われています。中期の中でも分離期前期では回復する可能性が高い時期と言われています。分離期前期の特徴として初期で骨が吸収された箇所に骨の殻が出現してきます。また、このあたりから、選手は投球時や打撃時に肘を曲げ伸ばし+外反ストレス(しなるような動き)をすると違和感、痛みなどの自覚症状が出てきます。しかし、少数です。問診・視診・触診・整形外科的テストなどを丁寧に行い、疑いある選手は、専門医へ導いてあげてください。
↓資料のように左は良い方、左は透亮期、右は分離期前期に移行したものになります。

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↑写真のように右肘が上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎(分離期前期)、左肘は健側です。外観上、若干の変形と肘屈曲の可動域制限が分かります。

※中期ではレントゲン、MRI、エコーなど総合的な評価・判断が望まれます。エコーだけでは病巣の様子がわかりません。

↓1枚目エコー画像(上腕骨小頭部の長軸像:透亮期)
↓2枚目エコー画像(上腕骨小頭部の長軸像:分離期前期)

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↓1枚目エコー画像(上腕骨小頭部の短軸像:透亮期)
↓2枚目エコー画像(上腕骨小頭部の短軸像:分離期前期)

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エコー画像を確認すると透亮期の画像は2016/3/22のもので、分離期前期の画像は2016/11/14のものです。
※画像の選手は2015/12/29に肘の内側に痛みがあり来院された選手です。この段階では外側には違和感・痛みは出現しておりませんでした。
透亮期から分離期前期まで約1年。長期にわたり徐々に回復へと向かっている場合の選手です。この間は投球も打撃も禁止です。発達心理学的側面から見ても、12歳前後は自我が芽生え、自分の能力、スキルを見せつけたいという気持ちが高ぶる時期です。その時期に長期にわたり、投げる、打つ動作が禁止されます。野球において、投げる、打つ動作が禁止されると行える練習はかなり限局されます。選手の精神的なサポートが指導者、保護者、関係者、医療従事者を含め、選手に関わる大人に求められます。

分離期前期から回復期へ
分離期前期で骨の殻が出てくると回復期に向かうため外側壁と殻がつながります。外側壁と殻がつながると骨の強度が高まることから、肘の曲げ伸ばし+外反ストレスの小さな負荷ならば病巣部の悪化はしないと判断され、この時点で、打撃の許可がされ素振りから段階的に開始します。1〜2週間毎にトレーニング負荷を変化し、簡単なものから複雑なものへ、軽いものから重いものへ、ゆっくりから早く、50回から100回へと徐々に負荷をあげていきます。野球肘に詳しい医師は1ヶ月ごとに経過を観察し、打撃(実打)を開始しても病巣部が上手く埋まっているかを確認します。病巣部が良好と判断されれば、投球の許可がおり、ネットスローやテニスボールなど負荷をコントロールしながら段階的に投球が開始されます。開始後、病巣部もなくなり、経過良好となれば完治となります。

※打撃や投球を段階的かつ計画的に開始しても経過良好傾向から不良へ移行する選手も少なからずいます。刺激によって病巣部の治りが滞ってしまったり、痛み、違和感や運動後に腫れが出てきたりします。このような症状が出た場合は直ちに全ての運動を禁止し、担当医の元へ受診してください。この分離期前期から回復期への評価と判断は経験豊富な専門医でなければ困難となるケースが存在します。
※医師により投球、打撃開始のタイミング、手術のタイミングは大きく異なります。より経験豊富な医師の元に行かれると良いかと思います。

↓の資料は分離期前期から回復期へと移行する様子になります。左は分離期前期、右は分離期前期から回復期への移行期となります。外側壁と殻がつながります。

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エコー画像
↓1枚目エコー画像(上腕骨小頭部の長軸像:左(分離期前期)右(回復期)
↓2枚目エコー画像(上腕骨小頭部の短軸像:左(分離期前期)右(回復期)

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↑エコーで観察すると1枚目(長軸像)2枚目(短軸像)は左の分離期前期の画像を見ると白線が途切れているのがわかるかと思います。右の回復期の画像を見ると白線がつながっています。エコーで観察し評価をするときは、この殻の出現で移行の過程を捉えることが出来ます。
 ※軟骨下骨の表面上の変化をエコーで捉えているにすぎません。離断性骨軟骨炎の症状・病態を理解し、更にはエコーの特性を理解し、更には技術を養い対応しなければなりません。エコーでは殻の下にある病巣部はどうなっているのかは不明です。表面上は良くなっているように見えていたとしても、病巣部は悪化している場合もあり、エコーによる評価・判断だけではわかりません。

中期(分離期前期)まとめ
透亮期から分離期前期への評価・判断をするのは病巣部に骨の殻が出現したことが大切なポイントになり、分離期前期から回復への評価・判断は、外側壁と殻のつながりを観察することが大切なポイントになります。また分離期前期では少数ではありますが、投球、打撃時に違和感や痛み、可動域制限、腫れ、熱感などの症状が出現してきます。この変化を見落とさず、選手に向き合う必要があります。
整形外科領域で働かれている先生、トレーナーは離断性骨軟骨炎の症状・病態を理解し、「もしかしたら・・・」と少しでも感じる場合は、より専門的に対応されている医師を紹介してげてください。野球肘には様々な症状・病態があり、それぞれの理解が必要です。この記事をきっかけに、指導者、保護者、チーム関係者は児童期の野球少年に「痛みのない野球肘」があるということを知り、地域で行われている野球肘検診への積極的な参加や地域の医療関係者との提携など検討されると嬉しいです。また、医療従事者やトレーナーの方々は、大学、専門学校の授業において、この離断性骨軟骨炎は、ほとんど目にしてこなかったと思います。選手や保護者は頼って施設を訪れるかと思います。その思いを裏切ることがないよう、もう一度、勉強をしてみてはいかがでしょうか。

次回は中期(分離期後期)についてお伝えできればと考えております。

野球長期育成研究家 吉田干城


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