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有限会社うまのほね 第1話「学校の七不思議」 Part3

[] [目次] []

前回のあらすじ
 飯島ハルキは、玩具から人工知能までなんでも修理するエンジニアだ。
 馴染みのちびっ子・カンタの依頼で小学校へと乗り込んだハルキの耳に、救出対象・タロウの悲鳴が聞こえてきて……?

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 秋小の七不思議のひとつ、"血まみれのドローン"。

 ──その昔、休日の校舎に侵入した児童が警備ドローンに見つかってしまった。

 少年は逃げ出したが、ドローンは執拗に追いかけてきた。それはまるで意思を持つかの如く飛び回り、とうとう少年は袋小路に追い詰められしまう。

 ヤケを起こした少年は、ドローンに殴りかかり……その頑丈なプロペラで怪我をしたのか、翌日、冷たくなった状態で発見された。

 以来、秋小では休日に、真っ赤なドローンの姿が目撃されるようになった。まるで返り血を浴びたかのような、真っ赤な真っ赤なドローンが。

「──それは侵入した子供たちを追い回し、プロペラで殺してしまうのだ。まるでその少年の呪いみたいに……っ!」

 カンタによる熱の入った説明が終わる。

 俺は窓の外を横切った白い警備ドローンを見ながら呟いた。

「へー」

「おっちゃんやる気ある!?」

 悲鳴のようなカンタのツッコミに、俺は「悪い悪い」と笑った。

 俺たちが今いるのは、2号棟の3階。カンタたちが"ドローンのお化け"に出くわした場所だ。

 秋小は3棟の校舎が平行にならんでおり、それらは互いに渡り廊下で繋がっていて、正門から近い順に1号棟、2号棟、3号棟と呼ばれている。

 先ほどタロウの悲鳴を聞いて慌てて校舎内に駆け込んだ俺たちであったが、タロウの姿どころか足音や声すらも聞こえなくなり、なんの手がかりもなくなってしまった。

 そういうわけで俺たちは一旦足を止め、最初に"ドローンのお化け"と遭遇した場所へとやってきたのだった。

「なんで信じないんだよ! ホントに赤いドローンいたんだぞ!」

 俺のリアクションが不満だったのか、カンタは胸倉を掴まんばかりの勢いで迫ってくる。俺は「落ち着けって」と彼を制し、言葉を続けた。

「赤いドローンのことは信じてるよ。信じてないのは怪談のほう」

「……なんでさ」

 なおも不服そうなカンタに、俺は少しの間をおいて答えた。

「ここのドローンの施工、俺がやったんだわ」

「は!?」

「もう15年くらい前だけどな」

 独立したばかりの俺に教頭が回してくれた案件で、それが"有限会社うまのほね"の初仕事だった。学校の指定委託業者として、実証実験から導入までの全工程に立ち会い、いろいろと勉強させてもらったのだ。

 あれから今も、俺の会社はこの学校の指定委託業者であり、特にドローンに関しては日々のメンテナンスも俺が担当している──つまり平たく言えば、なんかあればうちにクレームがくる。

「導入から今まで、ドローンが原因で死者が出た話は聞いてない……まぁ、怪我くらいなら居た気はするけど」

「そ、そんな……」

 俺の言葉を聞いて、カンタは崩れ落ちた。

「オ、オレは騙されていたのか……!?」

「ンな大袈裟な。……まぁ、夢を壊して悪かったよ」

 ──それにしても、まさかドローンが怪談になるとはなぁ。

 驚きはしたものの、よくよく考えれば当たり前のことかもしれない。

 なんせカンタたちから見ると、警備ドローンは入学したときから……いや、もしかしたら入学する前から、当たり前に学校内を飛んでいたのだ。

 カンタたちにとって、警備ドローンはあって当たり前のものであり──そしてそういうところに、七不思議というものは息づくのだろう。

「それはそうと、こっからどうしたもんか……ん?」

 俺が口を開いたとき、窓の外でなにかが動いた。

 見下ろすと、2号棟と3号棟の間の中庭に人影がひとつ。1階教室のドアが開かないかガチャガチャやっているそいつは、まさしくタロウだった。

「おい、タロウいたぞ」

「ホントに!?」

 カンタが窓に駆け寄った時、タロウが弄っていたドアが開いた。声をかける暇もあらばこそ、俺たちの見る前でタロウはその教室に入ってしまった。

 俺は「あー」と声をあげるカンタに声をかける。

「あそこは……理科室だっけか?」

「うん! おっちゃん、行こう!」

 そうしてカンタが窓から離れた──その時だった。

 ガラガラガラバァンッッッ!!

 その理科室の扉が、豪快に開いて。

 ──ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいいいい!

 窓越しに、ボロクソに泣き叫ぶタロウの声。俺たちが窓の外に再度視線を遣ったとき、タロウが理科室から転がり出てきた。

「あっ」

 カンタが声を上げたが、遅かった。

 文字通りあっという間に、タロウは凄まじい勢いで校舎裏へと走り去ってしまった。

「…………………………………………」

 俺とカンタは顔を見合わせて、互いに首を傾げたのだった。

(つづく)

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