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有限会社うまのほね 第1話『学校の七不思議』 Part2


[] [目次] []

前回のあらすじ
 飯島ハルキは、玩具から人工知能までなんでも修理するエンジニアだ。
 ある日、泣きながら駆け込んできた馴染みのちびっ子・カンタが、「友達がドローンのお化けにさらわれた」と言いだして……?

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 カンタの話をまとめるとこうだ。

 今日の昼ごろ、カンタとタロウは春休み真っ只中の学校に潜入した。目的は学校の七不思議の調査──要するに肝試しだ。

 彼らはしばらく無人の学校を歩き回っていたが、突如目の前に真っ赤な警備ドローンが現れて二人を攻撃し始めた。必死の逃走も虚しく、タロウが途中で転倒、捕獲されてしまう。

 あのドローンは明らかに敵意を持っていたので、あのままだとタロウがどうなっているかわからない。でも家に助けを求めると叱られるからこっそりと助けてほしい。

 ……以上。泣き喚くカンタをなだめてこれを聞き出すのに30分かかった。

「よし、とりあえず入るか」

 俺は自転車から工具箱を降ろし、振り返る。

 3棟の石造りの校舎が鎮座しているのが見える。特徴的な赤い屋根、広いグラウンド、樹齢100年を超えるクスノキ──我が母校であり今回の現場・秋茜小学校だ。

 正門に向かって歩いていく俺の後ろから、カンタが駆け寄ってきた。ジャンパーの裾を掴みながら口を開く。

「ねえ、正門から入るつもり? 休みの日はここ開かないんだよ?」

 ついさっき泣きながら依頼してきたのはどこへやら、カンタはいつも通り俺をナメきった様子で話しかけてきた。俺は笑い、右手に提げた工具箱を肩に担いだ。

「まぁ見てろって」

 歩み出し、正門前、"STOP"と書かれた線の前に立つ。監視カメラが俺を検知し、レンズをこちらに向けた。

 俺は立ったままカメラのレンズを見つめる。

 グラウンドを闊歩していた四足歩行の警備ロボ立ち止まり、遠巻きにこちらを見ている。他にも数台、カメラやらドローンからの無機質な視線が俺に向けられている。

 しばしの沈黙──

「ねえ、なにしてんの……」
 なんだか不安になったのか、カンタが口を開いて──

 ガラガラガラ……

 その声を遮って、派手な音と共に正門が開いた。警備ロボたちも視線を戻し、元の業務へと戻っていく。

「えっ!? 開いた!? なんで!?」

 後ろでカンタが驚きの声を上げる。たぶん彼とタロウは昼間、門が開かなくてどこかから侵入したのだろう。

 俺は数歩踏み出して振り返ると、ぽかんとしているカンタに笑ってみせた。

「ほら、早く来い。閉まるぞ」

「あ、う、うん! おっちゃんってすげーんだな!?」

「はっは。少しは見直したか」

 まぁ、なんのことはない。"うまのほね"は学校の指定工務店として登録されていて、俺の顔もデータベースに登録されているのだ。

 とはいえいつもナメた態度のカンタが目を輝かせているのは気分がいい。しばらく黙っておこう。

「それにしても、学校の七不思議かぁ」

 カンタと共に校舎に向かって歩きながら、俺はぽそりと呟く。返事がないので振り向くと、カンタは若干緊張した様子でキョロキョロしていた。昼間のことを思い出したのだろう。

 緊張をほぐすべく、俺は彼に話を向けた。

「あれだろ、トイレの花子さんとかだろ?」

 問われて、カンタは「え?」と首をかしげる。

「は? 誰それ」

「え?」

 今度は俺が首をかしげる番だった。

「マジで? 花子さん知らない?」

「知らない」

「マジかよ、花子さんは不滅だと思ってた……」

 時代と共に、七不思議も変化するらしい。これがジェネレーションギャップというやつか。

 俺たちは校舎の正面扉の前に辿り着いた。再び監視カメラが俺にレンズを向けてきて、顔認証が始まる。処理を待つ間、俺はカンタに話しかけた。

「じゃあ、今の七不思議ってなにがあるんだ?」

 彼はスケボーを抱え直して、視線を宙にやった。少しは緊張も解れたようだ。

「んー。トイレでいうと"カリカリさん"かな。あとは今回のドローンのお化けとか、音楽室の肖像画とか、ああ、大階段の青──」

 彼が現代の七不思議を並べようとした、その時だった。

 ──うわああああああ!!

 遠くから、子供の悲鳴が聞こえてきた。

「! タロウの声だ!」

「遠いな。探すぞ!」

 俺たちは鍵が開いた扉から、校舎の中へと飛び込んだ。

(つづく)

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