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正体がさらわれそうな波風

日向市では、十字に切れ込んだ珍しい岩礁からなる景観を『願いが叶うクルスの海』と名付けPRしている。

変わった景観に惹かれて、宮崎から大分への帰り道すがら寄ってみた。

いくつもリアス状に並ぶ岬のなかにあり、展望できる場所まではかなりの上り坂になっている。

荒天では無かったが、打ちつける波と風の雰囲気がなんとなく厳しく

「わーキレイ!すごい‼︎」

というテンションにならなかった。

ずっと眺めていると、飛び込んでしまいたくなるような。正気をさらわれそうな。

ちょうど『嵐が丘』の風が吹き荒む荒野とか、こんな感じかもしれない。

表面的な部分を吹き飛ばされ、自分の根源的な荒々しさが露わになってしまいそうだ。

人の手が作り出した地形でもないのに、十字になっているというだけで

「昔、刑罰で使われたんじゃないか。」

と業のようなもの感じてみたり。

日向の國から神話が生まれたのも、人知が及ばない力を感じやすい地勢だったからかも知れない。

燦々と太陽が降り注ぐ温暖な地域だけれど、何か荒々しさがある。

瀬戸内に面し穏やかな海に囲まれた国東半島にはない厳しさ、残酷さ。

そのまま、古代の神々の姿に重なる。

そんなものを垣間見た気がして、あまり長居はせず立ち去った。




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