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かもめは1秒で飛び立った

僕の初めてのバックパッカーの到着地は台北だった。

日本から比較的近い。
物価もそこまで高くない。
何よりも親日家。

バックパッカーが冒険者であれば
RPGの始まりの街のような居心地を感じる国だ。

秋の台北。

少し寒いが、冒険では肌を引き締めてくれるぐらいが丁度いい。

台北には、有名な港町がある。「淡水」だ。

台湾のベニスと呼ばれているらしい。

雨、川、湖、冬の海。僕は水場が好きだ。

台北に到着しても水場を求める。かもめのように。

淡水のほとりには、素朴なスターバックスがあった。

オープンして長い間が経っているからだろうか。
湿気に囲まれているかだろうか。
壁の側面が少し錆び付いているのも趣があって好きだ。

僕はスタバに頻繁に訪れるタイプではない。

当時はコーヒーをそんなに飲まないから。

ただ、人が集まっている。テラス席があるぞ。

せっかく海外に来たのだ。

とりあえず、観光客っぽいことをしてみよう。と決心した。

ただし、安めのやつで。

これ、ください。僕が注文。
これでいいの?    店員さんが一言。

ん、何がだ。すんごい苦いのか。いや、受けてたとうではないか。

これがいい。僕は答えた。

挑戦してやったぞ。カウンターの端で、飲み物の到着を待っていた。

少しだけ日が落ちて来て、夕暮れが綺麗だ。

かもめは静かに湖畔で佇んでいる。

ゆっくり、コーヒーを飲んで、眺めていたいな。

店員が僕の名前を呼ぶ。

注文した一杯、とご対面。

何だ、これは。

何だ、この小ささは。

1秒で完飲するじゃないか。

僕はカップと店員の顔をそれぞれ三度見た。

店員は、にっこり笑う。

これが台北の洗礼か。

僕は衝撃に肩とカップを震わせながら、湖畔のテラス席に着いた。

ツイートしよう。

衝撃で肩とカップが揺れた一杯

台湾でコーヒー頼んだらこれ。
店員はくすっと笑うのやめなさい。
てか、君たち、ちょっと飲んだ?

このカップの中で寄り添う
コーヒーの波みたいものを見て
飲まれたのではないか?と思ってしまったのだ。

直ぐに友達が反応してくれた。

「エスプレッソ。そういうもんやで。」

かもめ、にはとある習性がある。

かもめは、人間が触れた物や集まる場所に魅力的を感じて
引きつけられる習性があるらしい。

また、かもめは、人間を真似て食べたものを
場所の案内などをして、仲間内に情報共有をしている。

僕は、鈍臭いかもめ、かな。

淡水を眺める。

湖畔のかもめと目が合った。

そんな日もあるよ。と言ってくれているような。

苦すぎる思い出を1秒で完飲。あ、苦味は思い出だけじゃないのか。

かもめは、次の街に飛び立った。

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