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マンマミーアがこぼれた夜

出張でフランス含むヨーロッパに行った。

土曜日の夕方にフランス到着。観光だ。

ただ相変わらずノープランで
ふらりと近くのバーに向かう事にした。

その決断がマンマミーアおじさんとの
出会いを生んだ。

おじさんはUBERの運転手である。

「何処から来たの?」とおじさんが言う。
「アメリカです。」と同僚が言う。
「マンマミーア!」とおじさんが叫ぶ。
「同じくですが、出身は日本です。」と僕。
「マンマミーア!!」ともうひと叫び。

マンマミーア!

カクテルの名前みたいだ。

イタリア語で「なんてこった!」
という意味らしい。

お母さんがイタリア人なので、
フランス語イタリア語英語を話す。

余りにマンマミーアというので
意味が何だかよく分からなくなった。

「UBERの運転手どれだけ続けているの?」
と聞いた時、写真を見せてくれた。

白色のエプロンをつけて
男が肩を組んでいる写真だ。おじさんだ。

「3年前。昔、イタリアンの店を2つ構えてたんだよ。コロナで両方潰れたけど、これが人生だよね。」

「あとね、一番大切な友人もコロナで亡くなったんだ。マンマミーア。」

小声でマンマミーアと呟いた。悲しみマンマミーア。僕たちは思いもよらぬカミングアウトに言葉が出なかった。

ただ、これが人生だよねって折り合いをつけることが出来る、おじさんに尊敬の念を感じた。

国民性なのか不明だが、人生を楽しむには、諦めも大事だと思った。これを自然と出来るのが彼だった。

生活も大変だと思うが、コロナ明けにNYに行ったらしい。息子とのツーショットやレンタカーであるがフェラーリの前でドヤ顔で写っているおじさんがいた。嬉しそうだ。

話していると、おじさんの車の前に
別の車が割り込んできた。

クラクションを大きく鳴らし
マンマミーアと叫んだ。

怒りのマンマミーアもあるのね。

おじさんとのドライブが終わった。

おじさんに別れを告げて、
僕達はスポーツバーに入った。

気づくと乗車して30分間ほど経過していた。
あれ、ホテルからバーは10分よね?

料金は上がっていない。

街の紹介と話をする為に
親切心で勝手に遠回りしてくれたようだ。
マンマミーア。

バーに入るとイングランドプレミアリーグの
ロンドンダービーが放映されている。

とりあえず、冨安選手の所属する
アーセナルを応援する。

チェルシーに2-0で負けていた。

途中で2-1になった。

集中出来ない。

僕の頭の中はマンマミーアで
器の淵一杯まで溢れているからだ。

とりあえず
サッカーを見ながら
整理する事にした。

おじさんの事は全ては知らない。
けれど愉しげな事は確かだったのだ。

僕はマンマミーアに
おじさんの秘密が眠っていると考えた。

大人になると、経験値も増えてきて、
子供のように新しい事に感動したりする
ことは、減ってしまうこともある。

ただ、それは世の中の
小さい変化や感動に
気づいていないだけかも知れないと。

おじさんのマンマミーアの基準は緩かった。

アメリカに最近行ったことあるので、
同僚にマンマミーア!

黒澤明の映画が好きなので、
僕にマンマミーア!とハラキリ!

人との出会いにマンマミーアと感動出来れば、
その人ともっとお話ししたくなるはずだ。

些細な事に、大げさにリアクションしたり、
感動する事で、幸福感は増える。と感じる。

そんな錯覚を与えてくれるのが
マンマミーアという言葉だと
おじさんが教えてくれた。

また、マンマミーアは喜怒哀楽の
全てに使える万能ワードだ。

喜びと楽しみへの相性は
言わずもがなバッチリだ。

悲しみも怒りもマンマミーアと呟けば
少し愉快に思える。

マンマミーアに満ち溢れた人生は幸せだ。
錯覚でもいつか本物になる。

と噛み締めていると、
トロサールが1点返して2-2。
無意識に机に乗り出す。

マンマミーア!!

マンマミーアへの想いとカクテルが
グラスからこぼれてしまった。

The Long Hop @Paris

https://m.yelp.com/biz/the-long-hop-paris

カマンベールフライとかオシャレよね

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