これからこのページは僕の書いたパチンコを題材にした「漂揺の狩人」という小説を、月、水、金曜日に1エピソードづつ公開したいと思います。 舞台は大阪、天満の街。二人のパチプロの勝負師としての孤独と悲哀を赤裸々に描いた作品です。 半自伝的な小説で、僕にとっては最も思い入れのある作品です。 最終的にはこれだけを独立させて「マガジン」とやらにまとめる予定です。どうやってやるのかはまだ解っていませんが笑 あらすじ いつもパチンコで負けているフリーターの聡。いつものパ
みかん色の日が照っている、いい陽気だ。 聡は故郷に帰ってきた。近くの町並み、みかんの段々畑、我が家のたたずまい、それらすべてが懐かしい。 今回実家に帰ってきたのは、父の仕事を継ごうと宣言することと、夏海の紹介である。結婚を前提に付き合っていることを認めてもらうためだ。 「よろしくお願いいたします」 夏海はいつも以上にしとやかにふるまう。 聡は人相が変わったと、みなに言われた。陰の世界で生きている者独特の気配は隠しようがないのであろう。 「顔が?」 と聞いても向こ
聡は今日も勝っている。今日勝つと8連勝。夜10時、玉を流す。今日は6万円の勝ちだ。いまはただ稼ぎがあるのが唯一のプライドである。 この2年間で収支は1300万円を上回り、貯金額は1000万円を突破した。とりあえずの目標は20年かかってもいいから1億円の突破だ。この目標がある限り気力が尽きることはないだろう。 それに聡には夏海がいる。金井のように、妻子を持ってこの稼業をやっている者もいる。パチンコをするのに覚悟をもって臨むことが出来るようになっている。 カズはあれからま
聡は目が覚めた。 昨日はソファーの上で寝たので少し寝覚めがよくない。台所で水を飲み、本棚から一冊取り出して眺めていると、ベランダの方から声がする。 「起きたのか、こっちだ」 ベランダに出てみるとカズが例の絵を描いている。外は鮮やかに晴れ、ベランダに出ると太陽がまぶしい。 「こんなところで描いているんですか」 「部屋の中で描いていると汚れるだろ」 中心部は薄く、縁にいくにしたがって濃い赤になっていいるだけの絵だ。赤というよりピンクに近いだろう。 「きれいな赤ですね」 「
地下鉄あびこ駅に着いた。 カズの言うままにアパートを目指して歩いていく。 「さっきはどついたりして悪かったな」 「いや、もう気にしてませんよ」 ふらつく足取りでガードレールに両手をつくカズ。 「この仕事は因果な商売なんだよ」 「……そうですね」 やがてエレベーターもない古びたアパートについた。その6階にカズの部屋がある。カズはおぼつかない手つきで鎖につながれた鍵をポケットから取り出し、ドアを開け中へと入っていく。 「おじゃまします」 聡も続けて入ると驚いた。八畳ほど
夜の煌めく繁華街を歩いている。二人は1時間5千円で酒が飲める店に入っていく。席に案内されるとキャバクラ嬢が二人、それぞれの横についた。二人とも若くてそこそこの美人である。特に聡についた女は可愛く、聡は大きく開いた胸を見てドギマギしている。 カズは上機嫌で隣の女と話し始める。聡は今日勝負を途中でやめたことを引きずっていて、はしゃぐ気にはなれない。しかし今日の勝負はなんとかプラスで終わった。それだけでよしとした。 聡についている女が酒をねだってくる。言う通りにするとボーイが
数日が経った。 カズは10万円オーバーのドル箱タワーを積み上げている。聡はまあ、1万円ちょっとか。 「カズさん今日は出してますねー」 トイレに行きがけにカズに声をかける。 「15、6万というところかな。まあ、ちょくちょくないとな」 聡がトイレから出てくると、なんとまだ午後7時だというのにカズが玉を流しているではないか。 「帰りますのん?絵ですか」 「いや、あまり気乗りがしなくてな、最近疲れてしまうんだよ。このあたりでな」 聡が勝負を再開しようとするとカズが近寄る。
朝9時に起きる。顔を洗っていると、夏海が部屋にちゃぶ台を置き朝食の準備をしている。 「おはよう夏海」 「おはよう聡君」 「今日はなんだ豚汁か」 「そう栄養満点よ」 そういえばこの何年朝食はコンビニのおにぎりか立ち食いうどんしか食べてこなかった。こういう朝食は嬉しい。夏海も新生活にはりきっているようだ。 いざ食べてみると旨い!同棲のありがたみを感じる聡。 整髪料を髪に塗る。近頃出し過ぎて、店に悪いみたいだ。しかし革ジャンに袖を通し姿見の前で自分の顔を見ながらこうつぶやく
「そんなに酷い会社なのかい」 日曜日である。表通りは街を闊歩するカップルが、幸せそうに歩いている。夏海は再会した時からますますどんよりしている。 「もう会社やめたい!」 泣き顔で聡に訴えかける。聡もここ何ヶ月真剣に考えていた。聡は意を決して夏海に言う。 「これから一緒に住まないか」 夏海はこの言葉を待っていたのだ。 「いいの?」 「ああ、二人で住めばそっちもアパート代がいらないだろう。これからまた一からやり直そうよ。そんな仕事辞めてしまえ!仕事がしたいんなら、もっと楽な
次の日から激闘が始まった。朝10時からラストの夜11時まで13時間労働である。着替えを一週間分用意しておけという意味も分かった。洗濯する時間などないのだ。週に1回月曜日に店が休む時しかゆっくり出来ない。目一杯睡眠を取りたいのだが、朝8時にはいつものように箒を持ったおばさんに叩き起こされる。 あれから聡は順調に勝っている。というか順調過ぎると言っていい。いまのところ3回の10万超えで、計算すると平均日当6万円である。本来の28回転の台の期待金額は4万円なので、計算値を大きく
「名古屋ですか!」 唐突に誘われて聡は仰天した。今日は1月10日、普段なら正月営業も終えてもう開け返している頃なのだが、いつもの店はもとより、カズが持ち駒にしている3店舗ともガチガチに閉めたままなのだ。こんなことは珍しいらしい。 そこで新台が出回るのが早い名古屋に行こうというのである。 聡はカズにすがりつく。カズが旅打ちに誘うなんて、よほどの新台情報を握っているに違いない。さっそく聡はアパートに帰り、準備にとりかかる。 カズは自分の車を持っている。軽自動車の茶色のワゴ
今日はいつもの店の玄関前にカズの姿がない。電車でも乗り違えたのかと気にもしなかったが、音楽が鳴り始めみなが一斉に入っていく。カズは結局遅刻である。珍しいこともあるもんだなと思いつつ急所のいい台が開け返されているのを見つけ、煙草で台をおさえカズを待っていても表れる気配がない。一応回りそうな台をライターでとっておく。 10分ほどするとアナウンスがながれる。 「海物語の332番台のお客様。お時間がきております。すみやかに台にお戻りくださいませ。お戻りになられない場合は空き台とみ
カズと別れ電車で家路につく。その中で見たことがある女性がいた。上はグレーのジャケット、下は濃紺のスカート。学生時代に付き合っていた夏海である!聡は思わず声をかけた。 「夏海……だよね」 夏海は驚いたような顔をしてこちらを振り向いた。連絡がつかなくなってからもう3年以上経つ。聡と分かると少し泣き顔になる。 「突然いなくなってごめんなさい!」 「かまわないさ。あの頃のおれは頼りないだけの男だったからね」 「いまは何をしてるの?」 聡は返答に困った。しかし企業の内定を取れな
聡がカズに弟子入りしてから4ヶ月が経とうとしている。勝てなかった昔と決定的に違うのは持ち玉で粘るようになったことであろう。いい台を見つけた日は、カズが帰ろうとも、夜11、店の閉店時間まで粘ることも少なくない。歳が若いということもあるが、勝てる勝負が面白くて仕方がないというのもある。そしてこれまで負け続けていたパチンコで生活できるほどになったのも痛快なことなのだ。 最近は勝負内容も文句なしで、それは結果にも表れてきている。最初のひと月はまだ10万円そこそこだったものの、あと
みなさんこんにちは。 「スイングトレード」も昨日のうちに無事エントリーでき、みなさんの応援のおかげで上位に食い込むことができました。 そして、途中になっていたこの「漂揺の狩人」もエントリーすることにしました。 より一層の応援をしていただけたら嬉しく思います。 村岡真介
「詐欺だと?俺はなにもしてないぞ!」 俺は小声で言う。 「ここは従ったほうがいいですよ」 「……分かった。弁護はたのむぞ」 「はい」 俺はじっとしてその場を眺めている警官になにが起こったのかを聞いた。 「勝山投信に金をネットバンキングで振り込んだら次の日には残高がゼロになった被害が3件起きた。こちらとしては、被害が出ている限り勝山をおさえるしかない。明確な証拠が出るまでは取り調べを受けてもらう。それだけだ」 「被害総額は」 「3400万円だ」 「これから