《十九. B級映画の帝王との出会い 》
『サムライロイド』は1977年1月に公開されたが、同じ年、雷次は監督としてもアメリカでデビューしている。
そこには、ある人物との幸運な出会いがあった。
その人物とは、映画プロデューサーで監督のロジャー・コーマンである。
彼は「B級映画の帝王」と呼ばれる人物で、一貫して低予算の映画を手掛けてきた。決して大作には手を出さず、限られた予算で短期間に映画を完成させ、大きな損失を避けるという製作スタイルを取る映画人だ。
ロジャー・コーマンは『アッシャー家の惨劇』や『残酷女刑務所』など、現在でもカルト映画として人気のある作品を何本も送り出してきた。また、ジェームズ・キャメロンやフランシス・フォード・コッポラ、マーティン・スコセッシやジャック・ニコルソンなど、後にハリウッドの大物となる映画人を多く発掘した人物としても知られている。
そんな彼は、『サムライロイド』のプロデューサーでもあった。
「やあ、ライジ。君のことは良く知ってるよ」
初対面の時、コーマンはそう言って挨拶した。
「貴方も『ヒットマン・フロム・マッド・ゾーン』を見てくれたんですか。ありがとうございます」
雷次がそう述べると、
「ああ、もちろん、それも見たよ。だが、『ザ・ローズマン』(原題『薔薇を抱えた男』)や『スマイリー・キラー』(原題『惨殺者は常に微笑む』)も見ている」
「そうなんですか。それは嬉しいです。貴方のような大物に見てもらえるとは」
「実は、その二本を先に見たから、君のことは監督として評価しているんだ。君のホラー映画は、アメリカ人には無いセンスを感じさせる。あれは日本人が持っているセンスなのかな?」
「さあ、どうでしょう。自分が日本人の代表だとは思っていませんけど、恐怖描写の根底にあるのは、やはり日本人らしい感性なのかもしれません」
「なるほど」
その時は、そんなことを話しただけで終わった。しかし後日、撮影現場に顔を出したロジャー・コーマンは、
「物は相談だが、ライジ、ウチで映画を撮ってみないか」
と持ち掛けた。
「えっ、出るんじゃなくて、監督ですか」
唐突な話に、雷次は面食らった。
「連続殺人鬼が登場するホラー映画のシナリオが一つあるんだが、明らかに君の『スマイリー・キラー』の影響を受けている。それで、どうせなら、君に撮ってもらえばいいんじゃないかと思ってね」
他人のアイデアを盗んだような映画を、盗まれた人物に監督させようというのは、失礼な話かもしれない。だが、雷次は全く気にしなかった。むしろ、自分の作品が他の映画人に影響を与えたことを誇りに思い、監督としてのオファーを光栄に感じた。
「でも、俺はアメリカで何の実績もありませんよ。いいんですか」
「実績など関係ないよ。私は今までに、多くの新人監督を起用してきた」
「分かりました。それなら、是非やらせてください」
こうして雷次は、ロジャー・コーマンのプロダクションで映画を撮ることになった。製作費はかなり低く抑えられ、撮影期間はわずか一週間という厳しい条件だったが、彼はそれを苦にしなかった。
『殺人者は常に微笑む』の焼き直しにしか思えないシナリオには魅力を感じなかったが、それでも雷次は意欲的に取り組んだ。『殺人者は常に微笑む』の時とは、殺し方やカメラワーク、カットの繋ぎ方などに変化を付け、限られた条件の中でも出来るだけ観客に楽しんでもらえるような映画作りを心掛けた。
なお、日本では自分の監督作に出演していた雷次だが、この作品と次の『ママ』には出演していない。
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『トランスファー・スチューデント』(日本語題『恐怖の転校生』)
〈 あらすじ 〉
ボーマック高校にトミー・ハチェット(フロード・フェイカー)という転校生がやって来た。ハンサムでスポーツマンのトミーは、たちまち女子生徒の人気を集める存在となった。校長のジェイク・ウェザース(ロディー・マクドウォール)も、彼を気に入った。トミーはいつも爽やかな笑顔を振り撒き、決して険しい表情は見せなかった。
トミーの人気に嫉妬した不良のジョージ・フィッシャーは、因縁を付けて暴力を振るった。トミーは殴られても、やはり笑顔を浮かべていた。その夜、彼は笑いながらジョージを惨殺した。警察が殺人事件の捜査に乗り出すが、トミーは全く疑いを持たれなかった。
その後、トミーはガリ勉のオーウェン・ハント、お喋りのメアリー・キャンベルと、次々に生徒たちを殺害していく。その時も、必ず彼は爽やかに笑っていた。
警察はトミーとは別の男を容疑者と特定し、逮捕した。そんな中、女子生徒のキャサリン・ヘイズだけは、トミーが怪しいと睨んでいた。彼女は密かにトミーのことを調べ、やがて前の高校でも不審な事件が起きていたことを知る。キャサリンの動きに気付いたトミーは、彼女の命を狙ってきた……。
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