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『男はつらいよ 奮闘篇』:1971、日本

 雪深い越後広瀬駅。田舎を出て集団就職する若者たちが、見送りの家族と共に汽車を待っている。東京のオモチャ工場へ勤めると聞いた寅さんは、柴又のことを思い出す。
 列車に乗り込んだ若者たちに、寅さんは「東京で故郷が懐かしくなったら、とらやを訪ねるように」と勧めた。寅さんは若者たちの家族と共に、手を振って汽車を見送る。だが、自分が乗る汽車だと思い出し、慌てて追い掛けた。

 寅さんの産みの親・菊が、タクシーでとらやにやって来た。おいちゃんとおばちゃんに挨拶した後、彼女は1年ほど前に寅さんから届いたハガキを渡す。そこには、近い内に嫁を貰うので遊びに来てくれという旨が綴られていた。
 さくらが満男を連れて来ると、菊は寅さんの嫁だと勘違いする。おいちゃんたちは、さくらが寅さんの妹であり、まだ寅さんが独身だということを説明した。さくらは寅が帰ってきたら連絡するよう言い、菊はタクシーで帝国ホテルへ戻った。

 菊が去った直後、寅さんがとらやに帰って来た。寅さんはさくらから、菊が来ていることを知らされる。寅さんは「俺にはお袋なんかいねえよ」と冷たい態度を示し、とらやを出て行こうとする。だが、御前さまの娘・冬子が来ると、すっかり機嫌が直って頬を緩ませた。
 寅さんは印刷工場へ行って博と会い、おいちゃんたちと喧嘩したことを話した。「お前の女房、泣いてたよ」と口を尖らせて言うので、博はとらやへ駆け込む。おいちゃんたちは、くだらないことで寅さんと言い争いになった。

 翌日。寅さん、さくら、博はタコ社長の車で帝国ホテルへ行く。菊はさくらに思い出話を語って涙ぐむが、その横で寅さんは子供じみた行動を繰り返す。呆れた菊は、寅さんが何人もの女に惚れては振られていることを叱り付ける。寅さんは反発し、激しい言い争いになった。
 寅さんは「良くも言いやがったな。その内、テメエが腰を抜かすほどべっぴんの嫁さん連れてきてやる」と怒鳴り、部屋を飛び出した。さくらがとらやに行くと、おいちゃんから寅さんが「嫁探しの旅に出る」と言って旅立ったことを知らされた。

 静岡を訪れた寅さんは、沼津駅の近くにあるラーメン屋に入った。隣でラーメンを食べていた花子は、寅さんを見て微笑んだ。ラーメンを食べ終えた花子は、寅さんに強い訛りで駅への行き方を尋ねた。
 寅さんが駅への道を教えると、花子は店を去った。店主は寅さんに「あの子、ここが少しおかしいね」と言う。寅さんが沼津駅前の交番へ通り掛かると、花子の姿があった。巡査が名前を尋ねているが、花子は泣いているだけで何も話そうとしなかった。

 寅さんは巡査に「大きな声を出しちゃいけませんよ。さっきから旦那が怖いから震えてるんです」と言い、花子に優しく話し掛けた。花子は青森県西津軽郡の出身で、駅の近くにあるバーで働いていたらしい。
 寅さんは、花子が故郷に帰ろうとしていたことを知った。花子の持っていた金では足りないので、彼は巡査と金を出し合って切符を買ってやる。寅さんは花子の見送りに行き、東京で迷子になったら葛飾柴又のとらやを訪ねるよう告げてメモを渡した。

花 子がとらやを訪れ、おいちゃんたちにメモを渡した。タコ社長は「寅さんは飽きちゃったんだよ。幾ら可愛くても、頭が薄いから面倒になって、ここに押し付けたんだよ」と言う。博は「青森の役場に速達を出して両親を探しましょう」と提案した。
 そこへ寅さんが戻って来た。彼は花子と再会し、安堵して涙を見せた。寅さんはおいちゃんたちに、花子をとらやに住まわせたいと言う。彼は「みんなの目の届く柴又で働かせてやるのが、あの子の幸せじゃないかな」と語った。

 花子はタコ社長の工場で働くことになった。だが、寅さんは過去にタコ社長が女遊びをしていたと知り、心配になって工場へ行く。花子に肩を揉ませているタコ社長を見た寅さんは、いきなり頭を殴り付けて「児童虐待方で訴えてやる」と怒鳴った。
 寅さんは花子を寺へ連れて行き、そこで働かせてくれるよう御前さまに頼む。だが、寺の柱に「スケベ」という落書きを見つけた寅さんは、「お偉いお方でもよ、生身の人間だ。万が一ってこともあるからな」と考え、花子を連れ戻した。

 寅さんは花子をとらやで働かせることにした。しかし花子に話し掛ける客を見ると、怒鳴り付けて追い払った。さらに、おいちゃんが花子の肩に触れて話していると突き飛ばし、「おいちゃんだって馴れ馴れしくすると、こういうことになるんだ」と怒る。
 寅さんは花子を江戸川の土手へ連れて行く。花子は歌を歌った後、福士先生のことを話す。それは津軽の学校で花子の面倒を見ていた先生だ。

 寅さんが「花子は福士先生、好きか?」と尋ねると、花子は「うん」と元気に答えた。「福士先生の嫁になりてえか?」という質問には、「福士先生には奥さんいるんだもの、私が嫁っこになったら奥さんに怒られるべさ」と笑う。
 花子に「寅ちゃんには、奥さんいるか?」と訊かれた寅さんは、「そんなもん、いるかよ」と答えた。すると花子が「私、寅ちゃんの嫁コになるかな」と口にするので、寅さんは「何言ってんだい、からかうんじゃねえよ」と照れ笑いを浮かべた。

 夜、寅さんはさくらのアパートへ行き、彼女と博に家賃や生活費のことを尋ねた。さくらは「まさか、結婚の話じゃ?」と言うと、寅さんは「早い話がそういうことになるんだけどね」と笑って誤魔化し、相手が誰なのかは言わない。だが、さくらは相手が花子だと察知した。翌日、さくらがとらやへ行って相談すると、おいちゃんとおばちゃんは、寅さんと頭の足りない花子の結婚に反対した。

 さくらは寅さんの嬉しそうな顔を見ているので反対意見を述べるが、おばちゃんは「花子ちゃんが寅さんと一緒になって、果たして幸せかどうかってことなんだよ」と言う。話を聞いたタコ社長と御前さまも店に来て、みんなで頭を悩ませた。寅さんは花子を連れてデパートへ行き、結婚生活に必要な商品を見て歩く。
 後日、おばちゃんは花子と一緒に江戸川の土手へ行き、「本当は田舎に帰りたいんじゃないのかい?」と尋ねた。すると花子は、「でも、寅ちゃんが帰るんでねえよって、そう言うんだ」と言う。

 それから数日後、福士がとらやへ花子を引き取りにやって来た。おばちゃんは「寅さんが帰ってきたら、どういうことになるんだろう」と漏らすが、おいちゃんは「どんなことになってもね、花子は先生と一緒に帰った方がいいよ」と告げた。
 バイから戻った寅さんは、花子が帰郷したことを知らされた。寅さんは「嫌がる花子を無理やり帰したな。俺は花子の傍に一生いてやると約束したんだぞ」と納得せず、花子を追って津軽へ向かった…。

 原作 監督は山田洋次、製作は斎藤次男、企画は高島幸夫&小林俊一、脚本は山田洋次&朝間義隆、撮影は高羽哲夫、美術は佐藤公信、録音は中村寛、調音は小尾幸魚、照明は内田喜夫、編集は石井巌、音楽は山本直純、主題歌は渥美清。

 出演は渥美清、倍賞千恵子、森川信、笠智衆、榊原るみ、光本幸子、ミヤコ蝶々、前田吟、三崎千恵子、太宰久雄、佐藤蛾次郎、田中邦衛、大塚弘、柳家小さん(五代目)、福原秀雄、小野泰次郎、城戸卓、江藤孝、長谷川英敏、山村桂二、高畑喜三、北竜介ら。

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 “男はつらいよ”シリーズの第7作。寅次郎役の渥美清、さくら役の倍賞千恵子、おいちゃん役の森川信、おばちゃん役の三崎千恵子、博役の前田吟、御前様役の笠智衆、タコ社長役の太宰久雄、源公役の佐藤蛾次郎はレギュラー陣。
 第1作のマドンナだった冬子役の光本幸子が2度目の登場。ただ、正直、何のために出て来たのか良く分からない扱いだ。もうちょっと何か意味のある使われ方をするのかと思ったんだけど、いてもいなくても構わないという状態だ。また、第2作で菊役だったミヤコ蝶々も再び登場する。
 今回のマドンナ・花子を演じているのは榊原るみ。福士を田中邦衛、巡査を大塚弘、ラーメン屋を柳家小さんが演じている。

 今回のオープニングは、寅さんの夢ではない。寅さんが旅先で柴又を懐かしむという形で、これはシリーズ初期に定番だったパターンだ。
 その後、タイトルロールに入り、主題歌が流れる。1番の歌詞は「どうせオイラはヤクザな兄貴」だが、今回は「兄貴」の部分が「男」になっている。これは今回のみで、次回以降は再び「兄貴」に戻る。1番のみでタイトルロールが終了し、2番は歌われない。

 寅さんが戻って来る前に、とらやの面々は彼を優しく迎えてやろうと考える。おいちゃんは「仮にオレが寅だとするだろ」と言い出し、寅さんの真似を始める。「例によってバカ面してよ」「肩の一つもポーンと叩いてやるだろ。そうすっと、あの寅のバカヤロウ、大喜び。簡単なんだよなあ」とバカにしたように言う。
 このように、おいちゃんがベラベラと喋っていたら、気付かない内に寅さんが後ろにいて、先にさくらたちが気付いてハッとなり、調子に乗っておいちゃんは喋り続け、振り向いたおいちゃんが寅さんに気付いてビックリする。
 これ、このシリーズの定番ギャグである。

 寅さんは菊が来ていることを知らされると「俺にはお袋なんかいねえよ」冷たく言うが、アンタがハガキを出したから母親がとらやに来たんでしょうに。
 そもそも、第2作のラストでは母親に会うために、わざわざ京都へ行っていただろうに。なんで今さら冷たい態度に戻っているんだよ。「会ったって話すことなんかねえ」って、いやいや、第2作のラストでは菊と喋っていたでしょうに。

 で、そこで喧嘩になり、それを寅さんから聞いた博がとらやへ行くと、さくらは涙ぐんでいる。そんなに寅さんが母親を拒絶したことが悲しかったのかと思っていると、「違うのよ、私たちが一生懸命そんなことで話しているうちに、お兄ちゃんったら、プーッって大きなオナラするんだもん」と言う。
 「たかが屁ぐらいで」と博が呆れたように言うと、おいちゃんとおばちゃんは「たかが屁ぐらいとは何だ」「アンタはね、あの屁を聞いていないからそんなことが言えるんですよ」と声を荒げる。で、そこから寅さんと喧嘩になる。たかがオナラでマジなケンカをするとは、なんとも平和な人々である。

 ホテルで寅さんと会った菊は、その態度に腹を立てる。そして「何でも恋しやがって、どんどん振られやがって。ちょっと脳が足らんのとちゃうか。お前みたいな出来損ないのトコに来てくれる女はな、手が2、3本足らんかて、脳が足らんかて、ああ、結構でございます、よう来てくれはりましたと、涙こぼして礼ゆうてもええねんぞ」と、かなり酷い言葉を吐く。
 これが伏線になっている。

 今回のマドンナは、今までとは違って「頭の弱い女の子」という設定である。そんな花子に寅さんが遭遇した後、ラーメン屋の亭主は花子について「どこかの紡績工場から逃げ出したに違いない。頭数だけ揃えたらということで人事課長が引っ張って来たが人並みには働けない。その内に悪い男に騙されて、バーだキャバレーだ、挙句の果てにはストリップか何かに売り飛ばされるんじゃないかな。可哀想だな」ということを語る。
 この時点で、寅さんの中に、花子を不憫に思う気持ちが生じている。

 その後、寅さんは派出所で花子に優しく話し掛け、帰郷するために金まで出してやる。「青森行きの急行はどっから乗るんですかって訊くんだ。その辺にいる男はダメだぞ。駅員さんとかお巡りさんに訊くんだ。その辺にいる奴はみんな悪い男だからな」と言っている。悪い男に引っ掛からないように、ずっと心配している。
 その後、とらやに花子が来ると、寅さんは周囲の男が近付くだけで、腹を立てて排除しようとする。それは好きな女に対する嫉妬心ではなく、「父親が溺愛する娘を守ろうとする過干渉な態度」である。

 今回は、シリーズで初めて寅さんがマドンナから告白される。だが、寅さんは、花子に恋愛対象として惚れられたわけではない。花子は「寅ちゃんの嫁コになるかな」と言った後、寅さんが話しているのに、それを聞かずに歩き出して歌を歌う。
 それは、「嫁になる」というのが心底からの恋愛感情ではなく、その意味を良く理解しておらず、すぐに忘れるような軽い言葉だったことを示している。

 一方の寅さんも、花子との結婚を考えるが、それは恋愛感情ではない。寅さんが花子に話し掛ける時の態度は、幼い子供を可愛がったり機嫌を取ったりする時の態度と同じだ。結婚した場合、その態度がずっと続くことになる。それは夫の妻に対する態度として、あまり望ましいとは思えない。
 それに、ずっと寅さんは花子のことを「あの子」と呼んでいる。つまり、恋愛対象となる大人の女性ではなく、子供として扱っているのだ。

 寅さんが花子と結び付かずに終わるのは当然と言えば当然で、それは「男女の恋」じゃないからだ。いつものパターンだと、「子供じみた寅さん」と「大人の女性であるマドンナ」という関係がある。しかし今回は、今回の寅さんが「大人の男」という立場でマドンナに接し、一方のマドンナが子供なのだ。
 寅さんはマドンナとの結婚を考えるが、それは恋心から来るものではなく、保護してあげたいという人間愛から来る感情だ。

 今回の寅さんは、浮付いた気持ちではなく、父性や慈愛の気持ちでマドンナに接している。寅さんが花子をとらやに置いて結婚しようとしたのは、福士先生が花子を迎えに来たのと似たようなことなのだ。
 だから福士先生が傍にいるのなら、寅さんはいなくても構わないのだ。それを理解したから、寅さんも納得して花子から離れるのだ。なので厳密に言うと、今回の寅さんは、失恋したわけではない。

 今回は、さくらが寅さんを追い掛けて旅先へ向かうという、とても珍しい展開が待っている。そして、そのまま、旅先に寅さんとさくらがいる状態で映画が終わる。これはシリーズで初めてのケースだ。
 ただ、そのラスト近く、バスに乗っているさくらが寅さんの自殺を心配した後、外にいる寅さんの姿を写すのはダメでしょ。バスが停車した後、寅さんの声を耳にしたさくらが驚き、そこで初めてバスに乗って来る寅さんの姿を見せるべきでしょ。

(観賞日:2011年5月15日)

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