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《二十二. 侍とガンマンとモンスター 》

 アメリカに進出してからの雷次は、監督作は二本ともホラーで、出演作もシリアスな作品が続いた。しかし彼は、軽妙なアクション映画をやってみたいという気持ちを抱いていた。
 雷次は『ママ』を撮り終わった直後、新しい企画に取り掛かった。ジョーダン・モックと協力して脚本を書き、ピーター・フォンダを通じて知り合った映画プロデューサーのポール・マスランスキーに企画を持ち込んだ(マスランスキーはフォンダが主演した1975年の映画『悪魔の追跡』を製作している)。

 雷次がロジャー・コーマンに企画を持ち込まなかったのは、話の規模を考えると、彼のプロダクションで製作するのは予算的に厳しいと考えたからだ。
 ポール・マスランスキーは、それまでにチャールズ・ブロンソン主演の『ストリートファイター』やジョージ・ペパード主演の『世界が燃えつきる日』といったB級アクション映画を手掛けていた。雷次の企画に目を通したマスランスキーは、すぐに気に入り、製作のゴーサインを出した。

 雷次の企画は、ガンマンと侍がコンビを組んでモンスターと戦うアクション映画だった。侍を演じるのは雷次で、西部劇にチャンバラと怪物ホラー映画がミックスされたような作品だ。
 配役などの準備作業が着々と進められたが、雷次は『ブラッド・アンド・バレット』と『デッドリー・ダンス』の撮影があったため、クランク・インは、それが終わってからということになった。

 1980年1月、いよいよ映画『ガンマン、サムライ、モンスター!』(日本語題『荒野の魔獣人』)の撮影が開始された。
 主人公のガンマン役は、テレビシリーズ『燃えよ!カンフー』のデヴィッド・キャラダイン。共演者は『荒野の七人』『特攻サンダーボルト作戦』のホルスト・ブッフホルツ、『ブラニガン』『悪魔の沼』のメル・ファーラー、『タワーリング・インフェルノ』『シャンプー』のスーザン・ブレイクリー、『ファースト・ラブ』『揺れる愛』のジョン・ハードといった面々だった。

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  『ガンマン、サムライ、モンスター!』(日本語題『荒野の魔獣人』)

  〈 あらすじ 〉

 19世紀の中頃。江戸幕府の命を受けた日本の視察団が、アメリカへやって来た。護衛隊の高井玄馬(ライジ・サノ)は仲間と離れてしまい、通り掛かった荷馬車の男に助けを求めた。しかし下手な英語が通じず、砂漠の田舎町サンバル・シティーに連れて行かれてしまった。

 サンバル・シティーでは家畜が惨殺される事件が発生し、人々は以前から町を荒らしている盗賊の仕業だと噂した。しかし盗賊が恐ろしいため、人々は泣き寝入りしていた。保安官のギャビー・カット(デヴィッド・キャラダイン)は戦うべきだと考えていたが、町長のロック・ダントン(メル・ファーラー)に
 「相手が多すぎて太刀打ちできない。怒りを買って皆殺しにされるだけだ」
 と止められ、歯痒い思いをしていた。

 そんなサンバル・シティーに迷い込んだ玄馬は、盗賊二人組を素早い刀さばきで退治した。ダントンは玄馬に、盗賊を退治すれば視察団と合流するために協力すると約束した。町とは無関係の人間が盗賊と戦ってくれれば、サンバル・シティーが報復を受けることも無いと考えたのだ。
 ギャビーは、ダントンが素性も良く分からない東洋人に盗賊退治を依頼したことが納得できず、玄馬への不快感を露にした。しかしギャビーの恋人ゾーイ・ブルーウォーター(スーザン・ブレイクリー)は、玄馬に優しく接した。そのことで、ますますギャビーは玄馬への反発を強くした。

 家畜の惨殺事件が再び発生した。玄馬は町外れをうろついていた盗賊の一人フランキー(ジョン・ハード)を捕獲した。フランキーは家畜の惨殺について潔白を主張するが、玄馬はアジトへ案内するよう要求した。玄馬が盗賊のアジトへ赴く際、ギャビーは半ば強引に付いて行った。だが、その頃、盗賊のアジトは何者かの襲撃を受けていた。

 ギャビーたちがアジトに到着すると、盗賊は全滅していた。呆然としていると、眼前に不気味な怪物が出現した。大まかな形は人間に似ているが、皮膚は緑の鱗で覆われており、鋭い爪と尻尾が生えていた。
 怪物が襲い掛かってきたため、ギャビーは発砲した。銃弾を受けても怪物は死なず、倒れただけですぐに起き上がってきた。玄馬も刀を抜いて戦う姿勢を見せるが、怪物は一匹ではなく、地面から数匹が出現した。ギャビーたちは、盗賊のアジトから退散することにした。

 町に戻ったギャビーはフランキーを尋問し、以前からアジトの近くで妙な出来事が頻発していたことを知った。詳しい話を聞いたギャビーは、家畜の惨殺も怪物の仕業だと確信する。これまで怪物は深夜に家畜だけを襲っていたが、盗賊の軽率な行為が原因で、昼間も行動し、家畜だけでなく人間を襲撃するように変貌していたのだ。

 ギャビーは怪物がサンバル・シティーに襲来することを予期し、対策を立てて退治に乗り出すべきだと考えた。しかしダントンは怪物の存在を信じず、聞く耳を貸さなかった。他の人々も同様で、話に関心を示したのは、鼻つまみ者のトム・ビショップ(ホルスト・ブッフホルツ)だけだった。かつては凄腕のガンマンだったビショップだが、今は酒に溺れて頭をやられていた。

 そんな中、怪物の一匹が町に現れた。ゾーイが襲われるが、玄馬が助けに入った。玄馬が斬り付けると、怪物は地面に潜って逃亡した。ようやくサンバル・シティーの人々も怪物の存在を信じたが、みんな怯えきっており、戦うことには及び腰だった。ギャビーと玄馬は手を組み、たった二人で怪物退治に乗り出した……。

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 雷次は怪物の造形に関して、最初はワニに似た四足歩行のクリーチャーを着想した。だが、それだとキグルミの中に人間が入った際に動きが不自然になる上、チャンバラをすることが出来ない。そこで、ワニと人間を合体させたような二足歩行の怪物に変更した。

 怪物には、地底で暮らしていた種族という設定があるが、劇中では全く触れられていない。どこから来たのか、どういう生物なのか、詳しい説明は無い。
 それは意図的なもので、雷次は出演者に
 「得体の知れない怪物でいいんだ。サンバル・シティーの人々は、怪物の正体なんて知るはずが無いんだから。それに、正体不明だから怖いということもある。ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』だって、宇宙放射能の影響でゾンビが誕生したとか、そんな説明が無い方が不気味で怖かっただろ?」
 と語った。

 雷次が最も力を入れたのは、やはりアクションであった。
 時代劇の立ち回りは、斬られ役にも技術があってこそ華麗に見えるものだ。アメリカ映画では、その技術を相手に求めても無理だ。当然、日本でやっていたような殺陣は出来ない(『サムライロイド』の時も同じ問題はあったが、あれは雷次の役もロボットだったので、どのみち華麗なチャンバラは無理だった)。

 そこで雷次は、監督デビューの頃に生み出したワイルドなチャンバラをベースにして、そこに抜刀術の動きを取り入れた。そうすることで、怪物役の俳優に関係なく、自分の格闘技術だけで鋭い動きを表現することが可能になった。また、ガンアクションとの対比を考え、軽やかさよりも重厚さを意識した立ち回りを心掛けた。

 『ガンマン、サムライ、モンスター!』は、1980年10月に全米で公開された。これまでの二作とは全く色合いの違う作品だったが、B級アクションのファンからは好評を持って迎えられた。後にテレビ放送されてリバイバル人気に火が付き、現在でもアメリカではカルト映画として高く評価されている。


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