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『善き人のためのソナタ』:2006、ドイツ

 1984年、東ベルリンの国民は、国家保安省(シュタージ)の監視下にあった。11月、ホーエンシェンハウゼンにあるシュタージの拘置所。ヴィースラー大尉が待つ尋問室に、囚人227号が連行されてきた。
 ヴィースラーは227号に、西へ逃亡した隣人の協力者を教えるよう要求した。227号は「何も知らない」と告げるが、ヴィースラーは尋問を続けた。その尋問は、テープに記録されていた。ヴィースラーはポツダムのアイヒェシュタージスで教壇に立ち、学生たちにテープを聞かせた。

 「一睡もさせないで尋問するのは非人道的です」と一人の生徒が意見を述べたため、ヴィースラーは手元の席順表にチェックを入れた。彼は学生たちに、「白か黒かを見分ける最適な方法は、休ます尋問することだ」と説明した。
 ヴィースラーは「奥さんを逮捕する」「子供を孤児院に送る」と脅しを掛け、227号から協力者の名前を聞き出した。ヴィースラーは学生たちに「尋問相手は社会主義の敵だ」と告げて、授業を終えた。

 ヴィースラーの元に、学友であるシュタージの部長のグルビッツがやって来た。グルビッツは「計画があるので劇場に招待したい。文化省のヘムプフ大臣も来る。そのお供をする」と告げた。
 劇場に赴いたヴィースラーは双眼鏡を使い、上演中の戯曲を執筆した劇作家のゲオルク・ドライマンの姿を見た。舞台では、女優のクリスタ=マリア・ジーラントが芝居をしている。

 グルビッツはドライマンについて「反政府的ではなく、思想的模範生だ」と告げるが、ヴィースラーは「監視する」と言い出した。ヴィースラーは、ドライマンとクリスタが舞台裏でキスする様子を目撃した。
 終演後、グルビッツはヘムプフに歩み寄った。ヘムプフは「私の地位なら何でも出来る。君は頂点を目指す男だ」と言った後、ドライマンが開くパーティーに怪しい連中が集まることを告げた。そして盗聴器を仕掛けるよう命じ、「収穫があれば中央委員会に働き掛ける」と述べた。

 劇場のパーティーで、ヘムプフはドライマンとクリスタを誉めるスピーチをした。ドライマンの友人である反体制派のジャーナリスト、パウル・ハウザーは、ヘムプフに挑戦的な態度を取った。
 ヘムプフは「私は君と違って権力を持っている」と告げた。クリスタに横恋慕しているヘムプフは、彼女をダンスに誘うが、断られた。

 ヘムプフは、ドライマンと現在の演出家シュヴァルバーとのコンビを賞賛した。しかしドライマンは満足しておらず、今まで組んでいたイェルスカの演出を望んでいた。しかしイェルスカはシュタージに睨まれ、職業を禁じられていた。
 ドライマンはイェルスカを演出の世界に復帰させるよう頼むが、ヘムプフから芳しい返事は得られなかった。劇場を去る車の中で、グルビッツはヴィースラーに「明日からアパートに盗聴器を仕掛ける」と告げた。

 ドライマンとクリスタが同棲しているアパートにいない時を狙って、ヴィースラーとシュタージの局員は盗聴器を仕掛けた。
 ヴィースラーは隣人のマイネッケ夫人が様子を窺っていたことに気付き、「誰かに話したら娘が退学になる」と脅した。ドライマンは、イェルスカの元を訪れていた。イェルスカは職業を禁止されたことで、すっかり弱気になっていた。

 ヴィースラーはアパートの近くに監視部屋を構え、盗聴を開始した。朝の11時から夜の11時までが彼の担当で、部下のライエ軍曹と交代で盗聴することにした。
 その日は、ドライマンの誕生日パーティーがアパートで催される。ドライマンはクリスタからネクタイをプレゼントされた。ドライマンはクリスタに内緒でマイネッケ夫人に頼み、ネクタイを締めてもらった。

 パーティーが始まり、ドライマンの友人たちが集まった。イェルスカは誰とも話さず、部屋の隅に座ってブレヒトの著作を読んでいた。パウルがシュヴァルバーに「シュタージとの関係は知ってるぞ」と詰め寄ったため、ドライマンが制止した。
 パウルは「君もお偉方と変わらない。そんなに自分が大事なのか」と非難の言葉をドライマンに浴びせ、部屋を後にした。皆が帰った後、ドライマンはイェルスカからのプレゼントを開けた。それは“善き人のためのソナタ”と記された本だった。

 ヴィースラーはグルビッツに、クリスタを送り届けたリムジンの存在を報告していた。グルビッツは、それがヘムプフの車だと告げ、「報告書は黒く塗った。今後はタイプするな。彼らに協力すれば出世できるぞ」と告げた。
 ヴィースラーは「それでも党員か」と批判的な言葉を投げ掛けるが、グルビッツは何食わぬ顔で「党員になったのは有力者に取り入るためさ」と告げた。

 夜、ヘムプフは帰宅するクリスタをリムジンに招き入れ、その体を撫で回した。ヴィースラーはアパートに近付くリムジンをモニターで確認し、「見ものだぞ」と呟いた。彼はアパートの玄関ベルが故障したように偽装し、ドライマンが外へ出るよう仕向けた。
 ヘムプフとクリスタを目撃したドライマンは、そそくさと部屋に戻った。クリスタは帰宅してシャワーを浴び、薬物を飲んでからベッドに入った。クリスタが「私を抱き締めて」と告げ、ドライマンは彼女を包み込んだ。

 盗聴しながら眠り込んでしまったヴィースラーは交代で現れたライエの声に目を覚ました。自宅に戻ったヴィースラーは、小太りの娼婦を呼んで情事にふけった。「もう少しいてくれ」と頼むが、「30分後に次の客なの」と断られた。
 翌日、ヴィースラーはドライマン達が外出した隙にアパートへ潜入し、ブレヒトの本を盗み出した。ドライマンは、クリスタから「パウルの西側への講演旅行が許可されなかった」と聞かされ、「あの態度なら当然だ」と告げた。ヴィースラーは自宅でブレヒトの本を読んだ。

 ドライマンの元に友人のヴェルナーから電話が入り、イェルスカの首を吊り自殺が伝えられた。激しいショックを受けたドライマンは、“善き人のためのソナタ”をピアノで弾いた。その演奏をヴィースラーは聞いていた。
 エレベーターに乗ったヴィースラーは、少年から「シュタージの人?友達を刑務所に送る悪い人だってパパが言ってた」と告げられる。「何という名前かな」と尋ねると、少年が「僕の名前?」と問うので、ヴィースラーは「ボールの名前だ」と言った。少年が「ボールに名前なんか無いよ」と口にすると、ヴィースラーは無言でエレベーターを降りた。

 グルビッツはヘムプフから、「アパートで証拠を見つけろ。私を失望させるな」とプレッシャーを掛けられた。ヘムプフは別の部下に、クリスタを監視するよう命じた。
 ヴィースラーはグルビッツと会い、明日の夜にクリスタがヘムプフと会う約束をしていることを報告した。グルビッツは歪んだ笑みを浮かべ、「いいぞ。2人の情事は我々にとって有利だ」と口にした。
 
 次の夜、クリスタはドライマンに「昔のクラスメートに会う」と嘘をつき、外出しようとする。しかしドライマンは会う相手が誰なのか知っており、「君にとって彼は必要じゃない。行くな」と頼んだ。
 クリスタは「どんなに才能があっても、彼らは簡単に握り潰すわ。イェルスカみたいな末路はイヤでしょ」と反発し、部屋を出た。その会話を聞いていたヴィースラーの元に、交代のライエがやって来た。ヴィースラーは「女が昔のクラスメートに会いに行く」と告げた。

 ヴィースラーはバーに入り、そこでクリスタを発見した。彼はファンだと嘘をついてクリスタに話し掛け、「今の貴方は貴方じゃない」と告げた。クリスタが「私は芸術のために身を売っていると思う?」と聞くので、ヴィースラーは「芸術家がそんな取引をしてはいけません」と答えた。
 翌朝、ヴィースラーが監視部屋に行くと、ライエの報告書がタイプされていた。そこには、クリスタが部屋に戻って「二度と離れない」と告げたこと、ドライマンが「挑戦する勇気を貰った」と喜んだことが記されていた。

 イェルスカの葬儀に参列した後、ドライマンは手記を書いた。それは、イェルスカの自殺や、東ドイツで多くの芸術家が自殺している真実を告発する内容だった。公演でパウルとヴェルナーに会ったドライマンは、「告発文書を西側で公表したい。協力してくれ」と頼んだ。
 パウルは匿名での発表を勧め、「クリスタに話さないなら」という条件で協力を承諾した。バウルはドライマンに、シュピーゲル誌の編集者であるヘッセンシュタインを紹介すると告げた。

 バウルはシュタージの局員であるロルフの監視を受けていた。ドライマンは「ウチなら安全だ」と言い、アパートに誘った。パウルは、ガセネタを流して盗聴されているかどうか確認する計略を持ち掛けた。
 ドライマンのアパートで、ヴェルナーやパウルの叔父のフランクたちは、パウルを車に隠して西側への検問を突破する偽の計画を話し合った。それを盗聴したヴィースラーは検問所に電話を掛けるが、悩んだ末、何も言わずに切った。彼は「今回だけは見逃してやろう」と呟いた。

 検問を無事に通過したとの報告を受けたヴィースラーは、ヴェルナーから「何をしていたか聞かれたら、どうする?」と尋ねられ、建国40周年記念の台本を3人で執筆していたことにしようと言い出した。ヴィースラーは、「報告に値する出来事は何も無し」とタイプした。
 明朝、レイエはヴィースラーにヘッドホンを渡し、ドライマンやヘッセンシュタインたちが「この内容を西側の人々に知らせたい」と話している会話を聞かせた。ヴィースラーは「彼らは台本を書いている」と告げた。レイエは「台本のようには思えません」と意見するが、ヴィースラーは「考えるのは上官に任せておけ」と言った。

 ドライマンたちが告発文書を発表するスケジュールについて話し合っていると、クリスタが戻って来た。ドライマンは、台本を書いていると嘘をついた。
 クリスタが自分の部屋に行った後、ヘッセンシュタインは隠して運んできたタイプライターをドライマンに見せた。いつもと同じタイプライターを使うと、シュタージに文字を識別される危険性があるからだ。ヘッセンシュタインは「タイプライターの存在を誰にも知られるな」と、ドライマンに警告した。

 ヴィースラーはグルビッツの元を訪れ、作戦の規模縮小を申し入れた。「不確かな相手をずっと盗聴するのは無駄です。監視を屋外にすべきだ」と主張し、引き続き自分が担当すると告げた。グルビッツは不審を抱きつつも承諾し、作戦を成功させるよう釘を刺した。
 ドライマンは、タイプライターを居間と廊下の間の敷居の下に隠していたが、それをクリスタに見つかった。ドライマンが打ち明けようとすると、クリスタは「何があろうと私は貴方と一緒よ」と告げた。

 告発文書はシュピーゲル誌に掲載され、それはテレビでも報じられた。グルビッツはヘムプフから、執筆者を突き止めろと命じられた。ヴィースラーはグルビッツから「黒幕は分からないか」「シュピーゲル誌の編集者と接触は無かったか」と問われ、「ドライマンたちは何も話していませんでした」「報告書には何も書いてありません」と嘘をついた。
 グルビッツはタイプライターを調べるが、ドライマンが使っている物とは異なっていた。しかし彼は、使用されたタイプライターが簡単に隠せる大きさだと知った。

 ヘムプフはグルビッツに、「クリスタが違法薬物を入手している。彼女を生かすも殺すも君次第だ。私は舞台で二度と彼女を見たくない」と告げた。
 グルビッツに逮捕されたクリスタは、「シュタージのためなら何でもやる。芸術家の知り合いが多いから何でも探り出せる」と持ち掛けた。「今さら役に立たない」と言われると、今度は「2人で楽しまない」と色仕掛けで助けてもらおうとした。グルビッツは「一つだけ助かる可能性がある」と告げ、シュピーゲル誌の記事について質問した。

 ドライマンのアパートに、グルビッツの命令を受けたシュタージの局員たちが押し掛けた。彼らは家宅捜索を行うが、タイプライターを発見することは出来なかった。
 ドライマンはパウルから「クリスタが密告したんだ」と言われるが、「彼女じゃない」と恋人を擁護した。彼は「クリスタはタイプライターの隠し場所を知っている。それを隠し通してくれたら、天使だ」と口にした。

 ヴィースラーはグルビッツに呼ばれ、「ドライマンが告発文書の執筆者であることをクリスタが吐いた」と聞かされる。ヴィースラーはグルビッツから失態を静かに非難され、「最後のチャンスをやる」と告げられた。そのチャンスとは、クリスタを尋問し、タイプライターの隠し場所を聞き出すことだ。
 ヴィースラーは「自分を救うことだけ考えろ。ファンを忘れるな。ドライマンにバレないよう釈放する。ガサ入れは君の帰宅後だ。劇場に復帰させてやる」などと告げ、隠し場所を聞き出した。

 ヴィースラーはグルビッツたちに先んじてアパートヘ行き、ドライマンが戻る前にタイプライターを持ち出した。ドライマンの元にクリスタが戻るが、彼女は何も言わずにシャワーを浴び始めた。そこへグルビッツたちが乗り込み、家宅捜索のやり直しを告げる。
 グルビッツは、敷居の下の収納場所を見つけた。ドライマンの鋭い視線を向けられ、クリスタは部屋を飛び出した。グルビッツは収納場所を開けるが、そこにタイプライターは無かった。道路に飛び出したクリスタは、走ってきた車にひかれ、ヴィースラーの眼前で死んだ…。

 監督&脚本はフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク、製作はクイリン・ベルク&マックス・ヴィーデマン、共同製作はダーク・ハム&フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク、撮影はハーゲン・ボグダンスキー、編集はパトリシア・ロンメル、美術はジルク・ビューア、衣装はガブリエル・ビンダー、音楽はガブリエル・ヤレド&ステファン・ムーシャ。

 出演はマルティナ・ゲデック、ウルリッヒ・ミューエ、セバスチャン・コッホ、ウルリッヒ・トゥクール、トマス・ティーマ、ハンス=ウーヴェ・バウアー、ヘルベルト・クナウプ、フォルクマー・クライネルト、マティアス・ブレンナー、チャーリー・ヒューブナー、バスティアン・トロスト、マリー・グルーバー、ザック・フォルカー・ミチャロウスキー、ウェルナー・ダーエン、マルタン・ブランバッハ、フベルトゥス・ハルトマン、トマス・アーノルド、ヒネルク・ショーネマン、ポール・ファスナハト他。

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 アカデミー賞外国語映画賞、英国アカデミー賞外国語映画賞、セザール賞外国語映画賞など、数々の賞を受賞したドイツ映画。
 監督のフロリアン・ヘンケルス・フォン・ドナースマルクは1973年生まれの新鋭で、これが長編デビュー作。なんとミュンヘン映像映画大学の卒業修了作品として制作されたらしい。
 ドイツの有名俳優が多く出演しているにも関わらず、160万ユーロ(200万ドル)の製作費で済んでいるが、それは脚本に惹き付けられた俳優陣が「通常の2割のギャラでいい」と申し出たからだそうだ。

 主役はヴィースラー役のウルリッヒ・ミューエだが、ビリング・トップはクリスタ役のマルティナ・ゲデックになっている。
 ドライマンをセバスチャン・コッホ、グルビッツをウルリッヒ・トゥクール、ヘムプフをトマス・ティーマ、パウルをハンス=ウーヴェ・バウアー、ヘッセンシュタインヘルベルト・クナウプ、イェルスカをフォルクマー・クライネルトが演じている。

 この邦題は、内容と合致していない。というか、むしろマイナスに作用している。
 このタイトルだと、観客に「ヴィースラーがソナタを聞いたことで変わった」と思わせる恐れがある。しかし実際には違っており、ドライマンがソナタを弾く以前から、ヴィースラーには変化の兆しがある。
 ソナタを含めて、幾つかの事柄が重なる中で、ヴィースラーは少しずつ変化していくのだ。そして、それことが本作品において最も重要なポイントだ。

 ヴィースラーは表情の変化に乏しい、ポーカーフェイスの男だ。しかし、ちよっとした言い回しであったり、わずかな行動のためらいであったり、そのように小さな動き、微妙な仕草によって、感情の起伏・変化を表現する。
 邦題によって「ソナタで彼がガラリと変化する」と勘違いしたまま鑑賞すると、それ以外の部分に用意されている微妙な変化を見落としかねない。

 ヴィースラーは尋問のスペシャリストとして、反政府主義者に非人道的な行為を続けてきた。そこには温もりも優しさも、愛も喜びも無い。しかし、ヴィースラーは、そういう何の味気も無い人生しか知らなかったし、だから自分の生き方に何の疑問も抱かなかった。
 そんな彼が、ドライマンに対する盗聴行為によって初めて他人の人生に触れ、そして心情に変化が生じる。自分とは全く異なるドライマンの人生は何なのか、どういうものなのか、それを理解しよう、もっと深く知ろうとする。

 ヴィースラーは、ドライマンの反政府的な主張に共感したわけではない。実際、ヴィースラーに変化が生じた最初の頃、ドライマンは反政府的なことなど全く言っていない。ヴィースラーは、ドライマンとクリスタの暮らしに心を動かされたのだ。
 ヴィースラーは、ドライマンが反政府的な行動を取ろうとしたから、手助けしたのではない。ドライマンの、芸術に対して真摯であろうとする精神に打たれ、恋人との愛の生活に心を揺さぶられ、そういったモノを守ってやろうとしたのだ。

 ヴィースラーはシュタージとして非人道的な行為を行ってきたが、「党のために盾と剣になる」ということに対して、ある意味では純粋な精神で職務を遂行してきた。
 出世しか考えていないグルビッツや、権力を利用して女を奪うヘムプフのように汚れた連中よりも、むしろドライマンの方が、純粋という意味においては、ヴィースラーに近い存在だったのかもしれない。

 ベルリンの壁が崩壊した後、ドライマンはヘムプフと遭遇し、自分が完全監視されていたことを知る。記念資料館へ赴いたドライマンは、HGW XX/7というコードネームを持つ人物による監視記録を見る。そして、その人物、つまりヴィースラーの元へ向かう。しかし閑職に追いやられた彼を見て、接触せずに通り過ぎる。
 その2年後が、ラストシーンだ。

 書店にはドライマンの著書が並び、大々的に宣伝されている。書店に入ったヴィースラーは、本の冒頭に「HGW XX/7に捧げる」という献辞があるのを目にする。
 このシーンで、私の瞳は涙で潤んだ。
 ドライマンによる静かな感謝の行為に感動したのではない。自分の人生を犠牲にしてまでドライマンを守り、そのためにずっと希望の無い暮らしを余儀なくされたヴィースラーに、ようやく心から良かったと思える、自分のやったことが報われたと思える時が訪れたことに涙するのだ。長く続いてきたヴィースラーの薄暗い人生に、ほんの少しだけれど、明かりが灯されたことに感涙するのだ。
 137分という長さを退屈に思わせない傑作。

(観賞日:2009年2月13日)

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