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【365日のわたしたち。】 2022年3月26日(土)
週末の夜はいつも寂しい。
彼は、週末だけは絶対に予定を空けてはくれない。
最初から承知の上で始まったこの関係だけど、彼との関係が長くなるにつれて、それは不満となって私の心の一部を占めるようになってきていた。
「そういう約束だったじゃん。」
彼はコートを羽織りながら、ブー垂れた顔をする私に言った。
「それはそうだけどさ。じゃあ、この関係って意味あるのかな」
「お前は俺と一緒にいられて幸せじゃないの?」
「幸せだけどさぁ。だけど、週末は絶対会ってくれないし。あなただけ、私の他に大事な人がいるのってずるくない?」
「じゃあ、彼氏作ったら?」
「だからぁ!そういうことじゃないんだってばぁ。」
大きく息を吸い込んだあと、思い切りため息をついた彼は、ベッドの上に座る私の元に近づいてきた。
「いつか、週末会えるようになんとかするからさ。そういうわがまま言って俺を困らせないでよ。俺のこと、好きだろ?」
そう言って頭を優しく撫でると、彼はそのまま振り返りもせずに出ていった。
無意味な関係なことは、自分でも承知しているのだ。
この関係を友人に話したら、非難されるものだということもわかっている。
だからと言って、割り切ることはできないのだ。
だって、私の方が奥さんより遅く出会っちゃっただけ。
運が悪かったんだから、こういった関係を続けるしか道がないのだ。
しょうがないことなのだ。
それは、月に一回の土曜出社の日だった。
「先輩、聞きました?部長のこと」
「何?」
「総務の子との不倫がバレて異動になるんですよ。すごい地方の支店らしいです。総務の子の方は退職するらしいです。実質クビみたいですね。」
「...はぁ?」
「なんか、先週の日曜日、二人がデートしているのを見ちゃった社員がいるらしくて。しかも気になって後つけてったら、ラブホ入ったらしいっすよ。それで完全にクロだってなって。うちの会社、結構そういうの気にするじゃないですか、お客さま商売だから。それで木曜日の午前中、社長含めて即、二人を事情聴取。からの今日、スピード決定らしいです。」
声も出ない、とはこのことか。
私には土日は家族のために時間を使う、じゃないと怪しまれる、とか色々言い訳をしておいて、蓋を開けてみればこの様だ。
「ちょっと、いいかな...」
声の主は彼だった。
「ちょっと、急な異動が決まってね。来週から別の支店に異動することになったんだ。それで、君にはこの仕事を引き継ぎお願いしたくて。」
私と決して目を合わせようとしない彼。
私が引き継ぎを了承してもいないのに、仕事の内容をペラペラと話し始めた。
早く話し終わって、この場を去りたいのだろう。
座る私の横に立つ彼の股間が、ちょうど私の肩あたりにあった。
だから、私はそこを目掛けて思い切り裏拳を繰り出した。
1秒遅れて、彼はうめきながらうずくまった。
資料がバラバラと床に散らばる。
他の社員がなんだなんだと騒ぎ出す。
「部長、大丈夫ですか?」
そう言って落ちた資料を拾い集めるふりをして、私は彼の横にしゃがみ込んだ。
そして小さい声で彼に向かって言葉を放つ。
彼の目が大きく開く。
ざまーみろ。
私の心が、虚しくほくそ笑んだ。
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