「Kaggle甲子園」というプラットフォームをつくることは

現在実施されている大学入試センター試験に代わって、2021年4月に大学に入学する生徒等が受験する新しい大学入学共通テスト。当記事では、その大学入学共通テストにおいて、「プログラミング」や「統計」などの情報科目の導入が検討されることが話題となっている。経済財政諮問会議との連携の下、内閣に設置された日本経済再生本部が開催する未来投資会議(以下「同会議」という。)があるが、2018年5月17日に開催する同会議で「大学入学共通テスト」の議論に着手するとのことだ。

Googleのチーフエコノミストであるハル・ヴァリアン氏は2009年、“I keep saying SEXY job in the next ten years will be statisticians.”(これからの10年でもっともセクシーな職業は、統計家だろうって言い続けているんだ。)と述べた。また、現在バブソン大学の教授を務めるトーマス・ダベンポート氏は、「データサイエンティストとは、高度な数学的素養を持ち、プログラミングに長けていて、好奇心旺盛で企業の経営にも興味を持つ、スーパースターである」と述べ、データサイエンティストに求められる典型的な能力を次の5つに類型化した。すなわち、(1)ハッカー(プログラミング、Hadoop運用などのITスキル)、(2)サイエンティスト(科学的根拠に基づく意思決定力)、(3)アドバイザー(コミュニケーション能力)、(4)計量アナリスト(統計分析能力)、(5)ビジネス・エキスパート(ビジネスへの理解力)、である。

ビジネスにおいては、動画配信サービス等を提供する企業で有名なNetflixは現在、全世界で1億人を超える有料顧客数を抱えている。Netflixは「ビッグデータ企業」としても有名だ。(「日本上陸のネットフリックスの正体は「ビッグデータ企業」」2015年9月8日付日経×TECH(クロステック))

http://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/column/14/369482/090700061/

ネットフリックスのサービスを契約している理由を、米Cowen and Companyが調査したところによると、最も多かったのが「オンデマンド配信サービスの利便性(83%)」というもの。(中略) つまり「お手頃な価格で、膨大な種類と数のコンテンツから、観たい時に観たいものを、観たい端末で観ることができる」といったところが、ネットフリックスの強みとして消費者に認知されている、といえるだろう。この強みのベースになっているのが、一人ひとりの会員に対してパーソナライズする「リコメンデーション機能」。

データビジネスという点では、米国のネット小売大手Amazonはアパレルの新戦略として、体型の時系列データを活用することも話題となった。(「体のサイズを測らせて—アマゾンのアパレル新戦略」2018年5月4日付THE WALL STREET JOURNAL)

http://jp.wsj.com/articles/SB11506919535091864805104584202241977575698

アマゾン3Dボディスキャニング部門の求人広告によると、同チームは現在、身体に関する統計学3Dモデルを構築しており、将来的にはこれに深層学習(ディープラーニング)のアルゴリズム技術などを使って、人々の画像や動画と合わせる構想を描いている。アマゾンは、実現すれば、顧客向けサービスとして幅広い分野で応用が可能になるとしている。

将来、たとえば生鮮食品や専門店グルメ等を取り扱うAmazonフレッシュにおいて、体型の時系列データを活用することで、健康管理のための食品をレコメンドするサービスが始まる可能性もあるかもしれない。

このようにビジネスの世界においてデータの重要性が高まっているが、教育においても初等教育から高等教育まで、数学や科学、工学等の分野が議論され、STEM教育(*1)やSTEAM教育(*2)などが論じられることもある。

このような中で、2020年度から小学校でプログラミング学習が必修化され、中学校では2021年度から技術・家庭科で同分野に関する内容を拡充する。さらに、高校では2022年度から共通必履修科目に「情報I」を新設し、すべての生徒がプログラミングを学ぶことが決まっている。データサイエンティストなどのIT人材不足のため、文系・理系を問わず情報技術の素養を身に付けることが狙いにある。そして、大学入学共通テストにおいて情報科目を導入することが検討されるとのことだ。

大学入学共通テストにおいて情報科目を導入することのほか、たとえば次のような方法もあるのではないだろうか。すなわち、データ分析を「世界競技」にするKaggleのようなプラットフォームを活用することだ。Kaggleでは、実施されるコンペティションで上位に入賞すると大企業からの採用につながること等もある。(「データ分析を「世界競技」にするサイトKaggle—その優勝者たちが企業から引く手あまたの理由」2018年1月17日付WIRE.jp)

https://wired.jp/2018/01/17/solve-tough-data-problems/

データ分析をある種のスポーツのような競争の場にするウェブサイト「Kaggle」が注目されている。100万ドルを越える賞金のコンペが実施され、上位入賞者はさまざまな大企業に雇用された。グーグルに買収されたいまも、優秀な人材の供給源として企業に重宝されているKaggleの可能性について、改めて考える。

プロ野球の横浜DeNAベイスターズ等でも知られる企業であるDeNAは、AI分野の組織力強化ならびに、データサイエンス人材の積極的な採用、データサイエンス人材のキャリア形成支援を目的として、「Kaggle社内ランク」を導入することも話題となった。(「DeNA、業務時間内のKaggle参加を推奨へ--社内ランク制度を導入」2018年4月3日付CNET Japan)

https://japan.cnet.com/article/35117072/

ディー・エヌ・エー(DeNA)は4月3日、AI研究開発部門におけるデータサイエンスト強化のための新制度「Kaggle社内ランク」を4月から導入すると発表した。

たとえば、生徒・学生版Kaggle「Kaggle甲子園」というプラットフォームをつくることで、大学入学共通テストの代わりにもなる可能性がある。

2009年、Googleのチーフエコノミストであるハル・ヴァリアン氏が「これからの10年でもっともセクシーな職業は、統計家だろうって言い続けているんだ。」と述べたように、これからさらに統計家の重要性は増していくだろう。現在、高等教育の無償化の議論もなされているように、所得の格差により教育を受ける機会が制限されないような対策は取られるべきだ。たとえば、プログラミングに取り組むためのパソコンはどうするか。いつでも生徒が学校でパソコンを使えるようにすることや、パソコンを持っていない人への支援も大切だろう。これからますますデータを扱う力、伝える力などが重要になっていくことが予想されるため、今後の議論にも注目したい。

(*1)STEM教育とは、"Science, Technology, Engineering and Mathematics" すなわち科学・技術・工学・数学の教育分野を総称する語である。(Wikipediaより引用)

(*2)STEAM教育とは、STEM教育に“Art”すなわち芸術分野の要素を加えたもの。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30535270V10C18A5EE8000/

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