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【子ども時代のちーちゃん11】女性としてやさしくされるよりも、男性としてやさしくしてあげたかった

このnoteでは、LGBTQ当事者として、福祉の現場に立つ者として、「生」「性」そして「私らしさ」について思いを綴ります。(自己紹介はこちらから)
高校時代を卒業し、私は短大に進学します。そして、「男性」とのお付き合いがスタートします。今回はそのエピソードについてお伝えします。

短大時代、私は、好意を抱いた女性の先輩から「私が好きになるのは男の人。あなたが男だったらよかったのにね」と言われました。

私は、その先輩を「男性の気持ち」で好きになっていました。でも私の体は女性で、男性ではありません。「男性ではない」という指摘は、外見においては確かにその通りでした。

男になれないなら、女になるしかない。私は、女性らしい服を着るようになり、短かった髪も伸ばし始めました。そして、仲良しグループの中の1人の男の子、Qくんと付き合うことにしました。男性と付き合うことで、本当の女性になれるんじゃないか。今の心の中の違和感が治るんじゃないか。そう考えたのです。

「付き合おう」と言ってくれたのはQくんからです。男性から告白されたのは初めてのことでした。男性と付き合うのも初めてです。いつもは私が、好きな女性に積極的に声をかけ、親しくなっていったからです。

Qくんは、私と同じ年で、すでに働き始めていました。毎日電話やメールをして、1週間に1回くらいは会っていました。でも、私にとってそれは、それまで好きな女の子と連絡をとるときに味わったようなドキドキする感覚を与えてくれるものではありませんでした。「付き合っているんだから、連絡したほうがいいんだろうな」という義務感からの行為で、めんどくさいなと感じることもありました。

Qくんは、私を「女性」として扱ってくれました。デートの時は送り迎えをしてくれ、食事をした時はごちそうしてくれました。一緒に歩くときに手をつなごうとしてくるのもQくんからでした。

でも、それらは本当は私がやりたかったことでした。好きな子を送り迎えしたり、ごちそうやプレゼントをしてあげたり、それまで私が好きな女の子にしてきたことです。

おごってもらえることはラッキーだと思いましたが、女性としてやさしくしてもらうことはなんとも居心地が悪く感じました。それ、ホントは、私の役割なのに……と。当時の私の心の中には、「男ならこう行動する」「女だったらこう振る舞う」という思い込み、ジェンダーバイアスがあったのです。

女性としてQくんと付き合うのは無理なんだなと思い、私からQくんに「ごめん」と言いました。1か月ほどのお付き合いでした。その後、Qくんとは疎遠になり、しばらく会うこともありませんでした。

再会したのは10年ほど経ってからです。夏、仲良しのグループのメンバーが、浴衣姿で集まったときです。その時私はすでにホルモン治療を始めていて、顔つきや体つきは男性らしくなっていました。もちろん、私は男ものの浴衣姿です。

Qくんは結婚して、子どももいました。Qくんが私の姿を見てどう思ったのか、私にはわかりません。そのとき、少し離れた場所にいたQくんと言葉を交わすことがなかったからです。10年前を振り返ると、私はQくんに対してなんとも言えない申し訳ない気持ちになり、Qくんに言葉をかけることができなかったのです。

Qくんとのお付き合いを通して女性になることはできませんでした。それでも私は、女性になること、心と体の違和感を治すことを諦めきれずにいました。そして、しばらくして、再び男性とお付き合いすることになりました。Zくんとは、2人きりでお泊まりもしましたが……。Zくんとのお付き合いのことを、次回お話しします。

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