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対話と僕④:対話に期待すること

・はじめに

前回は、対話を通じて得られるものについてまとめてみた。
この記事を書いた直後に知人から「対話に何を期待してるの?」と聞かれたので、それに答える形で書いてみようと思う。

前回の話とかなり繋がる部分が多くなるとは思いつつも、これから自分が対話を続けていくうえで大事なポイントになりそうなので言語化しようと思う。
例のごとく取り留めの無い内容になりそうだがお付き合い頂きたい。
今回も半ば強引に3つに分けて考えていこうと思う。

  1. 対話から始まる関係性

  2. 真っ当に批判し合う能力

  3. 二項対立に陥らない思考

・1.対話から始まる関係性

対話をするうえでよく聞かれる質問の一つに「関係性がある人とでないと対話はできないのではないか」というものがある。
これについては一理あるのだが、逆に「関係性があるからこそ対話ができない」というパターンもあり得ると思っている。
外部要因などの影響で「関係性の維持」の優先順位が高くなっていると「正しく批判する」ことが憚られるようなケースがある。
だからこそ必ずしも「良い関係性=対話ができる関係性」とはならない。
社会心理学で言うところの「集団規範」や「同調行動」がこういった現象を起こしていると考えられる。

大切なことは対話をするうえで必要な前提条件を理解し共感していることだと思っている。
例えば「違いは間違いではない」「答えを出す場ではない」「是か非かではなく何故かを掘り下げる」などのルールのようなものだ。
こういった条件を守れる人たちとであれば安心して対話を進めることができ、そしてその体験が新しい関係性を生む。
こうした流れを作っていける対話の場は、いわゆるサードプレイス的な役割を担える可能性があると思っている。

・2.真っ当に批判し合う能力

批判的思考≒クリティカルシンキングが重要と言われて久しいが、未だに否定的な意見を見ることが少なくない。
そういったケースは非難と批判を混同していることが多いように思える。
これは感覚的な話になるが、非難とは欠点などを責める姿勢であって相手を理解しようとする意識が欠けている。
一方で僕が考える批判は、理解したうえで判断をする姿勢のことを示すので、前回述べた「受け皿」が必要になる。
以上の理由から非難と批判は全く違うと言える。

理解をしたうえで相手の意見を批判する、理解してもらったうえで相手の批判を受け入れる、そして新たな意味を探っていく。
独りでは見つけられなかったものがこうした流れによって見つかっていく。
言語哲学の文脈で登場する「思いやりの原理(principle of charity)」という考え方に通ずるこの能力は、他者受容・自己受容に繋がると考えている。

・3.二項対立に陥らない思考

対話において「是か非か」という姿勢でいると、答えを出すことが目的となってしまい前述の「真っ当に批判し合う」ことができなくなってしまう。
前回も述べた通り「自分と違う意見」「相手の批判」などの受け皿が醸成されることでこの「是か非か」という姿勢から脱却できる。
こうした体験を通じて「二項対立に陥らない思考」が身に付くのではないかと思う。

また、議論や討論の場で一度出た答えも、状況次第で変わり得るものであると捉えることができるようになる。
一度は答えが出た問題であっても、集まる人や身を置く環境によって新たな対話が発生して意味づけが変わる可能性がある。
以前は選択しなかった答えが今の状況では選ばれる可能性だってある。
こうした考え方は、いわゆるネガティブケイパビリティを培うことにも繋がると考える。
変化が早く選択肢が多い現代では、根本解決しない問題や矛盾と付き合う能力、一度決めたことを変える意識は今後さらに必要になると思う。

・書籍紹介

今回は僕が対話をするうえで重要だと思っている哲学的思考に関する書籍を紹介したいと思う。
苫野一徳さんの『はじめての哲学的思考』だ。

この書籍では『一般化のワナ』『共通了解』『自由の相互承認』といったキーワードが哲学的な文脈で述べられており、前述の3つの「対話に期待すること」に通じるものがある。
対話の一つの形式である「本質観取」についても具体的な方法論が述べられているので是非読んでみていただきたい。
著者の思いとは異なるかもしれないが、本書で述べられている「哲学的思考」も対話同様ツールの一つとして使える場面が多いと思う。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
今回は対話に期待することを書いてみたけど、得られるものとほぼ同じような内容になってしまった。
ただ「得られるもの」と「期待すること」が自分の中で違うことがなんとなくわかったのでその点は書いてみてよかったと思う。
今回のように質問に対して答えていく方法は言語化に適している気がするので、次回以降もたまにこのスタイルで書いていこうと思う。

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