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私が管理本部長だ! vol.11

小さな嘘の見抜き方

みんな嘘をつく。それは普通のことだ。
だが、一言で『嘘』と言っても色々な嘘がある。

自分の身を守るための嘘。
誰かを庇うための嘘。
自分自身に対する嘘。

ただその中でも、『自分の身を守るための嘘』はとても見抜きやすいものなのだ。

*****

私の業務は午前中が忙しい。

店舗に何らかの問題があったりすると、当日は誰かしらが取り急ぎの対処をして、私にはその翌日の朝に報告やら根本解決の依頼やらが流れてくるからだ。

そしてその日は、店舗のゴミをルート回収している業者からの連絡があった。

「お世話になっております。藤田産業の田中です~」

「あー、お世話になります。高良川です」

「こんな朝一のお忙しい時間にすみません。えー、、今日はですね、弊社がゴミ回収している川崎店の件でお電話したのですが・・」

歯切れの悪い言い方に少し嫌な予感がした。

「実はここ一ヵ月くらい、時々ゴミの分別がまったくされていない袋があるらしくてですね・・・。現場の回収員も最初はたまたまかと思って様子を見ていたそうですが、少しずつ分別されていない袋が増えてきているとのことなんです」

なるほど。

「このままずっと分別がされない状況が続くようであれば、回収費用の増額をお願いする形になってしまいます」

道理だ。

「ですので、高良川さんの方で状況確認と、可能であれば業務の改善をお願い出来ますでしょうか?」

もともと、『分別は店舗で行う』ことを条件に月に3,000円の格安設定で請け負って貰った仕事だ。先方の言うことは至極もっともで、すぐに値上げに踏み切らない辺りはむしろありがたい。

「田中さん、この度は大変申し訳ありませんでした。すぐに改善したいのですが、社内にて原因追及も併せて行いたいので、一週間ほどお時間をいただいてもよろしいでしょうか?ちなみにですが、その間に分別されず出されたゴミは回収していただかなくても大丈夫です」

そうして田中さんとの電話を終えると、私は川崎店に電話をかけた。

*****

川崎店は店舗の規模が小さく、平日は一人体制の店舗だ。そして常勤の従業員は三名。
私はまず、今日出勤している店長で社員の川島と話してみることにした。

「川島さん、お疲れ様です。今少し時間を貰っても大丈夫ですか?」

「あ、はい!お疲れ様です。大丈夫ですよ」

「実はですね、ゴミの回収業者から「川崎店のゴミの分別がされていない」とのクレームが上がりました」

「!」

「そこで、念のために確認ですが、川島さんはゴミの分別はどのようにしていますか?」

「私は普通に分別していますよ。もしかしたら私がいない時に何かあるんですかね。。ここ一ヵ月くらいは他の店舗の応援に行くことが多かったですし・・・」

ふむ。

「ちなみに、今溜まっているゴミ袋は分別されていますか?」

「あ!ちょっと待ってくださいね!」

数秒の間「少々お待ちください」と言う機械的な保留音が流れた。

「はい!お待たせしました!・・・あー、、分別、されていませんね。。あれ?、おかしいなぁ・・」

川島は少し考えているようだった。

「どうしました?」

「・・・いえ、シュレッダーした紙を入れてた袋の中にペットボトルが何本か混じっているんですよね。。ん~、この袋、先週末の時点では紙類しか入ってなかったはずですけど・・」

なるほど。

「そうですか、わかりました。では、今回に関してはその袋はもう分別しなくて良いので、そのまま回収に出しておいてください」

「あ、それでいいんですね!わかりました!」

「あと、川崎店のスタッフには私から個別に周知しておきますね」

「かしこまりです!よろしくお願いします!」

そんな風に川島との電話は終わり、私は他の従業員には周知しないまま状況が動くのを待つことにした。

*****

そして二日後の朝、川崎店のアルバイトの箱山から電話があった。

「おはようございます。川崎店の箱山です。高良川さん、今少しお時間大丈夫ですか?」

「はい、おはようございます。どうぞ、大丈夫ですよ」

「今日の朝なんですが、店舗に来たらゴミの回収がされていなかったんです。今までこんなことは無かったんですが・・・」

うむ、予定通りだ。

「こういう時って、どう対処すれば良いんですか?」

「そうですか、わかりました。とりあえず今回は、業者の方には私から連絡をして状況を確認しておきます。箱山さんは、今外に出しているゴミを一度店舗に戻して、次回の回収時に改めて出しておいてください」

「わかりました」

「あと、念のために確認ですが、今回出していたゴミはキチンと分別されていましたか?」

「あ、ちょっと待ってくださいね」

数秒の間、「少々お待ちください」と言ういつもの機械的な保留音声が流れた。

「お待たせしました。えーっと・・・、あ、はい、大丈夫かなと・・・」

箱山は電話の向こう側でゴソゴソとゴミ袋の中を確認しているようだ。

「・・ん?・・・あ!すみません。大丈夫じゃありませんね!」

「何かありましたか?」

「はい、パッと見大丈夫だったので勘違いしましたが、紙にまぎれてペットボトルが何本か入っちゃってますね・・。すみません。これ、すぐに分別しておきます」

「あ、今回はそのまま出して貰っても大丈夫ですよ。ちなみに、箱山さん自身は分別はどんな感じで行っていますか?」

「はい、もともと店舗には分別ごとにゴミ袋が設置されているので、それに合わせて捨てています。ですが正直、ゴミを出す時に中身の確認まではしたことが無かったので、これからもっと気を付けます」

「わかりました。よろしくお願いします。実は先日、業者から「ゴミの分別が出来ていない」との通達があったところなので、ちょうどこれからしっかりと対応しなければいけないと考えていたところなんです」

「あ、そうなんですね。わかりました。今まで以上にしっかりと注意していきます!」

「よろしくお願いします」

*****

そして三日後の朝、川崎店のアルバイトの曽根から電話があった。

「おはようございます。川崎店の曽根ですが、高良川さん、今少し平気ですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「あのですね、今日の朝、ゴミの回収がされていなかったんです。これってどうすれば良いんですか?」

「あ、そうですか。では、一度店舗内に戻してもらって、次回の回収時に改めて出しておいてください。業者の方には私から連絡して状況確認しておきますね」

「わかりました。よろしくおねがいします」

「ちなみに曽根くん、今回出していたゴミは分別されている状態でしたか?」

「はい、されていました」

「・・・そうですか」

なるほど、そういうことか。。後は改善だな。

「実はですね、ゴミの回収業から「ここ一ヵ月くらいの間、川崎店のゴミが分別されていない」との指摘を受けまして、もしかしたら今回未回収の理由もそれかなと思ったのですが」

「・・・あ、、そう、、なんですね」

曽根は一瞬口ごもった。

「そうなんですよ。で、このまま続くようなら料金を値上げするって話に発展しているので、ことが大きくなる前に早めに解決しておきたかったんです」

「・・・あ、そうなんですね。。僕は分別しているんですが・・・、あ・・、もしかしたら誰かが間違って捨てたりすることもあるのかもしれませんね・・・」

なるほど。
ただ、私の目的は改善なので、これ以上の追及に意味はない。

「なるほど、そうかもしれませんね。今後は曽根くんも、もしも分別出来ていない人とかを見かけたら注意してあげて貰えますか?あと、今回のゴミ袋も念のためにもう一度チェックしてから出しておいて貰えますか?」

「はい!わかりました!」

「よろしくお願いします」

*****

曽根との電話を切った後、すぐに藤田産業の田中さんに電話をかけた。

「お世話になります。高良川です」

「あ~お世話になっております。田中です~」

「今日の朝はどうでしたか?」

「ん~、やっぱりだめですね~」

「そうですか。了解しました」

これで確定だ。

まず、分別がされなくなったのは、店長の川島が他店の応援に行き始めた時期と合致する。
次に、分別がされているかどうかの確認を促した際、川島と箱山は実際にゴミ袋を確認し分別がされていないと正確な報告を行ったが、曽根は確認すら行わなかった。

分別をしなかった人間が誰かと言う確たる証拠は無いが、川崎店で指示通りに業務を行わない人間は曽根で確定だ。そして、自分の身を守るための言葉が多かったのも曽根だった。
なので、ああ伝えれば自分の身を守るために曽根は指示を守るだろう。

「田中さん、おそらく次回からは改善されるかと思いますが、また何かあればすぐにご連絡いただけますか?」

「・・えっ!あ、そうなんですね!」

「はい、ご協力ありがとうございました」

*****

そうして川崎店のゴミの分別はしっかりと行われるようになった。

もちろん、「ゴミの分別をしっかりと行うように」との周知メールを社内全体に送ることで釘を刺しておいたことは言うまでもない。

私は管理本部長。
騙されたふりをしてでも、改善されるなら安いものなのだ。


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