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次代を創る「スマートビル・スマートシティ」:その13「7. スマートメンテナンス」

7. スマートメンテナンス


 本章では、建物や機械にセンサーを設置してリアルタイムに状態に関するデータを収集し、分析することで、メンテナンスの必要性を予測したりメンテナンスしたりする手段を「スマートメンテナンス」と表す。なかでも建物のエスカレーター、冷暖房・換気などの空調システム、トイレ、貯蔵室などにセンサーを設置して行うビルのスマートメンテナンスに焦点をあてる。
 従来型のメンテナンスは、故障してはじめて行われる事後保全、もしくは実際の設備の状態にかかわらず故障の発生前にメンテナンスを行う予防保全を中心に行われてきた。事後保全は施設設備に不具合が発生した後、修理することを指す。一方、予防保全は、リストに沿って定期的に実施される保守作業で、毎月など定期的に設備を検査する。事後保全には設備の使用停止やその後のビルへのマイナス評価などの逸失利益が生じる恐れがあり、予防保全には専任の保守チームが必要で時間も費用もかかる。
 スマートメンテナンスは、センサーの情報に基づき、建物設備の故障が避けられない証拠がある場合、望ましくない事故の未然防止をビル管理者に提案する。スマートメンテナンスは、センサー必要性を予測するセンサーにより建物の健全性と実用性を保ちながら、設備の停止によるテナントの不満を低減できるなど、そのメリットは大きい。

修繕および予防メンテナンスとスマートメンテナンス

表 32 修繕および予防メンテナンスとスマートメンテナンス

7.1. スマートメンテナンスの定義:

 メンテナンスは、必要なタイミングの時だけに行うことが費用対効果を高めるために肝要である。予防保全では、設備の修理が頻繁に行われるため、維持費がかさむ。一方、修繕が必要な時までメンテナンスを延ばせば、設備の性能を一定以上に戻すためのコストが嵩む。スマートメンテナンスは、設備からのリアルタイムデータに基づいており、メンテナンスが必要な最適な時期を特定する。

図 52 故障兆候時点でメンテナンス時期を特定するスマートメンテナンス

 スマートメンテナンスは状態の分析・把握が含まれる。従来は、現地を定期的に訪問する検査担当者によって行われてきた。
 データ分析の進歩は、スマートメンテナンスの普及に向けた鍵となる。建物に設置された多数のセンサーから得られる大量のデータを処理・分析し、設備の状態を把握し、使用パターンを測り、故障を予測できるようになる。 Amazon Web センサーvicesやMicrosoft Azureなどが比較的安価なデータ分析機能を提供しているため、スマートメンテナンスサービス業者はこれらを利用して、機械学習などの高度な技術を使用してセンサーから収集したデータを処理することができる。
 24時間365日の監視も、特にバッテリー寿命の点で進化したセンサーの開発が可能にした。 チップやセンサー、通信モジュールを建物設備に組み込むことで、過去には得られなかったデータの収集が可能になっている。 長期にわたりセンサー機器のコスト低減と人件費の緩やかな上昇により、建物の管理者の人による物理的な検査に代わり、センサーを使うようになった。

図 53 建物のスマートメンテナンス活用の流れ

7.2. 各国政府が進めるスマートメンテナンス:

 主要国の政府は建設業が環境への配慮を高め、エネルギー効率や持続可能性を高めることを奨励し施策を講じている。スマートメンテナンスは建物の機器や設備が非効率に運用されれば即時検知し補正することで、エネルギー支出(電気、水、ガスの利用)を削減し、結果としてカーボンフットプリントを減らす。定期的な予防保全の点検により効率が落ちていることを検知した場合は、検知が遅れる可能性があり、その間のエネルギー消費量は最適な状態よりも多くなるが、スマートメンテナンスではセンサーでリアルタイムにデータを収集することができるためカーボンフットプリントを削減できる。
 中国政府は第13次5か年計画の一環として、2020年までに建設されるスマートビルディングの30%を環境配慮型にすることを盛り込んでおり、これはスマートメンテナンスやデジタル建設需要の原動力となるだろう。同国では、地方政府の決定を経て、スマートシティに建設される公立の建物が急速に実現されつつあり、公立・私立の建物はともにスマートメンテナンスが奨励されている。
 2005年と2015年に更新された中国の建築基準法は、既存の商業ビルのエネルギー効率が1980年代の値(エネルギー効率の標準が当時は未制定)を50%上回ることを義務付けている。新たに建設される商業ビルはこの値を65%上回る必要があり、住宅の要件水準にそろえられている。
 同様に日本政府も持続可能性の高い環境配慮型の建物を奨励し、特にセンサーやIoT技術、送電システム・発電管理技術の活用を促進している。スマートシティ事業では、自治体が中心となったFujisawaサステナブル・スマートタウン(FSST)があり、エネルギー効率や費用対効果の高い持続的なスマートシステムに焦点をあてている。さらに日本の建物は一連のエネルギー基準を順守する必要があり、商業ビルは省エネの報告義務がある。
 米国では建物が二酸化炭素排出量の3分の1以上、エネルギー消費の約40%を負っていることから、既存、新規の建物はともにエネルギー基準を満たす必要があり、スマートメンテナンスなどによるエネルギー効率の向上が奨励されている。たとえばニューヨーク市議会が2019年4月18日に可決した気候モビライゼーション法(Climate Mobilization Act)は、2万5,000平方フィートを超える建物の二酸化炭素排出量の上限を盛り込んでおり、2024年から実施する。米国エネルギー省と連邦エネルギー管理プログラムは、予測メンテナンスが重大な故障を75%減らすとの推定を報告している。スマートメンテナンスにより、故障が発生する前に予測できることから将来的なエネルギーのムダを削減できる。

表 33 スマートメンテナンスを奨励する各国の施策

 さらに、規制当局は商業用・住宅用ビルに対しの頻繁な健全性および安全性検査を求めている。人による検査には費用がかかり、ビルの所有者はセンサーを使った遠隔からの監視へとシフトする可能性がある。たとえば英国では、300kgを超える冷媒を使用する空調ステムを備えた建物(約75台の空調機器相当)は四半期ごとの検査が義務付けられている。 米国イリノイ州は2011年、2階建て以上の建物にエレベーターの年次検査を義務付ける州法を施行した。より厳しい規制に対し、遠隔での監視と故障予測システムは有利となる。
 同時に、規制当局が設備に組み込まれたセンサーが正常に機能していることを確認するために、定期的な物理的検査を要求する可能性もある。

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