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【トークイベント】コーポリアルマイムとダンスの共通点_表現者工房プロデュース「Rey Camoy」上映会

コーポリアルマイムを専門としたシアターユニットtarinainanikaと表現者工房がタッグを組み、ユニークな身体表現を用いた舞台作品と映像作品を制作する年間プロジェクト「Rey Camoy」。5月25日(土)に開催された本作の上映会にて、ダンサー/振付家として世界的に活躍されている大石裕香さんとtarinainanikaのアフタートークを実施しました。今回はその模様をご紹介。コーポリアルマイムとダンス、身体芸術における共通点に迫ります…!
(以下、敬称略)


ゲストプロフィール:大石裕香

ダンサー・振付家。ジョン・ノイマイヤーのハンブルク・バレエで2010年に日本人女性初の同バレエ団のソリストとして活動。在団中にも振り付けを担当する。2015年に退団、現在は振付家として活躍。

“型”との距離感

「Rey Camoy」上映会トークイベント

巣山:
大石さんは、ハンブルク・バレエ団で長年ご活躍されたのちに、2020年に帰国。現在は大阪でダンサー/振付家としてご活躍されていますが、お互いに“身体を使う芸術”に携わる者同士として、本作の映像をご覧になっていかがでしたか?

大石:
冒頭から皆さんの集中力に圧倒され、ヒュっと凝縮されたような印象を受けました。ダンスの場合には、核から離れるような遊びの部分もありますが、本作ではギュギュっと絞り出したような集中力に、思わず前のめりになりながら見入ってしまいました。

大石裕香

巣山:
ありがとうございます。僕はダンスの事について詳しくは分からないのですが、マイムとの身体性における共通点は、何か感じられました?

大石:
クラシックバレエでは、ご存じの通り、「一番ポジション」のような決まった型があり、その基礎を全て自分の身体に入れたうえで、表現としてどのように昇華させていくかを学んできました。現在は、クラシックバレエはもちろん、コンテンポラリーダンスやミュージカルの創作も行っているのですが、むしろ型から離れていくことを意識している部分があります。
コーポリアルマイムでも同様に「どの角度を、どういった姿勢で見るのか?」といったような型があると伺いましたが、作品を創られる時はどれくらい意識されていますか?

タニア:
コーポリアルマイムの型には、「レパートリー」と呼ばれる既存作品などがあります。しかし、創作プロセスにおいては、「レパートリー」のバリエーションを取り入れることはあっても、直接的に意識していることは少ないです。むしろ、ダンスと同様に、動きの可能性を生み出すテクニックの部分を重視しているように思います。

「Rey Camoy」

ダンスと芝居と音楽と。

「Rey Camoy」上映会トークイベント

巣山:
ちなみに、クラシックバレエやミュージカル、コンテンポラリーダンスと多様なジャンルで活動されていますが、それぞれ身体の在り方は異なるのでしょうか?

大石:
異なりますね。クラシックバレエは、「ポワント」(トーシューズでつま先立ち)のように、根本的に床に足を刺して上に伸びあがるようなイメージですが、コンテンポラリーダンスでは重心を落としたところから地に生えていくようなイメージです。ハンブルクではネオクラシックを看板にした劇団に所属していたので、基本的にはトーシューズを履きながらも、めちゃくちゃモダンな動きをしたり、裸足で走り回ったりと色々な経験をさせていただきました。

巣山:
ハンブルク・バレエ団では、ダンスに合わせてお芝居はどのように捉えられていたのでしょうか? 

大石:
ディレクターのジョン・ノイマイヤーさんは芝居についても非常に熱心な方でした。例えば古典バレエ作品におけるコール・ド・バレエ(群舞)の小さな動きに対しても、ガチガチに決まっている伝統的なマイム(身振りや手振り)について「普通はそうは動かないよね」と、より人間味のある自由度の高い表現が許されていました。その一方で、「マタイ受難曲」のような作品では、一人の人間として舞台上で起こっていることに対してちゃんとリアクションができるように、役柄ではなく、自分自身としてその場に居ることを要求されました。そういったなかで、自分や人間といったことを色々勉強させていただくなかで、お芝居が好きになりました。

大石裕香

大石:
そうはいっても、ダンスはダンスで…。例えばミュージカルでは、後ろで流れているビートに踊りを当てはめていかないと「音と動きが成立しない」と言われるなど、“音楽ありきの動き”という要素が強くあります(もちろん、そこに伴う心情表現は必要ですが)。その点、特にタニアさんは自身で音楽も創られますが、コーポリアルマイムの作品では、どのタイミングで音を創って、作品を構成していきますか?

タニア:
場合によりますが、理想的にはまずは演技(アクション)からはじめます。そこから雰囲気やシーンの長さなど、構成を考えるなかでドラフト(下書き)の曲を出して、リハーサルをすることで「これはもうちょっと早めにしよう」など調整を重ねていきます。既存の曲を使う場合は演技を音に合わせることもありますが、コーポリアルマイムの専門は身体なので、理想的には演技から創っていくことを心がけています。

タニア・コーク

創作におけるの「動き」の生まれ方

「Rey Camoy」

大石:
ダンスでも「落ち込んでいる」や「悩んでいる」などのボディランゲージやジェスチャーから動きを創ることもありますが、コーポリアルマイムのアクションは何から生まれるのでしょうか?

巣山: 
そうですねtarinainanikaとしては、まずはムードを考えることが多いですね。例えば、「冷たい感じ」や「ちょっと悲しい感じ」「明るいコミカルな感じ」など、作品やシーンごとに重さや色合いのざっくりとした印象からスタートし、さらに「考える」、「ためらう」、「葛藤する」、「戦う」など動詞に置き換えることで、具体的な身振りのアクションを作り上げていくことが往々にしてあります。

「Rey Camoy」上映会トークイベント

大石:
とても独特ですよね。「Rey Camoy」でも動きがとても誇張されているのが印象的でした。「取る」だけでも、ジワーと手を広げるみたいな…。なんかもう、めっちゃわかりやすくて、そういうのが大好きなんですよ(笑)。

巣山:
「Rey Camoy」では、鴨居玲が描いた道化師や老婆など様々なキャラクターをヒントに、「このキャラクターはどういう動き(動詞)をするだろう?」と考えて、「這い回る」、「鏡を見る」など動詞に落とし込んでいきました。そこからインプロ(即興)を通じて、各出演者が動詞の表現を掘り下げ、演技の大きさやリズムなども変えながら試行錯誤していきました。

大石:
薬飲むのとか上手すぎて、自分も口が開いていました(笑)。

巣山賢太郎

巣山:
僕からすると、ダンスにも色々な動詞が入っているように見て取れるのですが…。動詞のような具体的なイメージから作品を創られることはありますか?

大石: 
私は特に感覚的な人間なので、そこまで忠実ではありませんが、「何か違う」という直感や、「こういう風に見える」といった印象から調整していくことはあります。ダンスでは、溢れてくる感情の中で言葉に落とし込めない“何か”を表現することも多いのですが、「引き裂かれている感覚」や「詰まるような感覚」のように、それがどんな感覚なのかを模索して、自覚的に動きに落とし込むことは意識しています。

リズム感と静止の魅力

「Rey Camoy」

巣山:
なるほど…。あと、今日お伺いしたかったのが、ダンサーのリズム感について。先ほど、音楽の話もありましたが、ダンサーの方にとって、リズム感やテンポ感をどのように捉えていますか?

大石:
緊迫感を出したければ高い心拍数に近い速いビートを使ったり、振り付けであれば、あえてアップテンポな音楽にスローモーションでコントラストを見せたりなど、表現方法のテクニックとして捉えていることはあるかなと思います。あとは音楽を聴いた時に自然と身体がのるような、“グルーブ感“を持っている人は多いと思います。

「Rey Camoy」上映会トークイベント

巣山:
リズムに関連してストップ(静止)について、ダンスではどのような意味合いを持たせているのでしょうか?

大石:
ダンスでもストップは効果的なテクニックとして使っています。例えば、全員が動いているところから、呼吸と共に一斉に止まれば、ハッとするような驚きを生み出すこともできます。また、その中で一人だけ動き続けていれば、その人にだけ焦点を寄せることもできますからね。

巣山:
なるほど、そういうお話をお伺いしていると、演劇であるコーポリアルマイムとダンスは近しい感じがしますね。 

大石:
やっぱりダンスの上手な方は静止が上手なんです。一定のカウントの中で、早く動き、早く静止の形に入り、長く止まって、見せるところをカッと見せられる。ちゃんと呼吸と身体のコントロールができていることで、間延びしないテクニックを持っている方は魅力的ですね。「Rey Camoy」でも皆さんの静止がすごくいいなと思っていました。

「Rey Camoy」上映会トークイベント

新作公演のお知らせ

■スイス・オリジンフェスティバル出演決定!
2024年8月にスイス・オリジンフェスティバルにて、大石さんとtarinainanikaのコラボレーションが決定しました。イタリア、コロンビア、スペインのダンサーの方を交え、計6名で一つの舞台を創り上げていきます。公演の詳細や様子については、 公式SNSで発信して行く予定です。

■コーポリアルマイム舞台芸術学校学年末公演『PEOPLEPEOPLE』
また、2024年6月29日(土)、30日(日)に大阪・東成区の「FLYING CARPET FACTORY」にてコーポリアルマイム舞台芸術学校フルタイムコース参加者による学年末公演『PEOPLEPEOPLE』が上演されます。ぜひ、ご来場ください。
>チケットのご予約、詳細はこちら

(取材・文/野中知樹)

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