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今昔物語集「利仁将軍が五位の侍に芋粥をご馳走する話」を読んで

みなさん、こんにちは。今昔物語集の「利仁将軍が五位の侍に芋粥をご馳走する話」を読んだ感想を書いていきます。

あらすじです


利仁将軍という地位が高い将軍がいました。あるとき、主家の関白の屋敷で正月の大宴会に参加していたときです。大宴会には、多くのご馳走がありました。地位が高い人は多くのご馳走を先に食べることができますが、低い人はその残り物を食べるといった、風習がありました。その中に一人の侍も残りのご馳走を食べれるか、食べれないか、そわそわしていました。そして、自分の番が来ると満足した顔になっていきます。

「ああ、美味しいな。こんな上手い芋粥を、一度でいいから飽きるほど食べてみたいなあ」

芋粥を啜りながら、思わず本音が出てしまいました。

五位(大夫殿)という侍の声です。彼は赤鼻で鼻水が年中出ており、服装もどちらかというと貧乏くさい侍です。五位というのは、当時の階級のような呼び名(一位から初位までの10段階あり、一位が一番地位が高い)です。今でいうと、長年会社に勤めているも、ずっと平社員のままに近い立場です。

芋粥と聞くと、誰でも食べられるじゃないか。と思われるかもしれませんが、芋粥に使われる素材が当時、貴重なものだったため、高級品みたいな感じでした。

そんな五位を見て、利仁将軍は

「それなら、私が今度、あなたのために芋粥をご馳走しますよ」

と優しい口調でそう言いました。

それから4,5日経ち、五位のもとに利仁将軍が現れます。利仁将軍は五位と一緒に京都にある温泉施設に行こうと誘います。五位はちょうど風呂に入っておらず、身体が痒かったので利仁将軍の心遣いに感謝し、行くことになりました。

利仁将軍は馬を走らせ、後から五位が付いていくように目的地へと向かいます。しかし、目的にはなかなかたどり着く気配がありません。

「将軍様。京都を超えてしまいましたが、我々はいったいどこに向かっているんでしょうか?」

「実はな。敦賀にある私の屋敷へ向かっている」

五位は京都の東村辺りだと思っていましたが、約75km距離まで馬を走らせることに驚いていました。

「将軍様、お供さえもいないのに、こんな道のりは無茶ですよ」

「心配するな。私がいれば、どんなことがあってもへっちゃらだ」

と自信満々に言っていると、近くに一匹の狐が現れました。狐を追いかけ、捕まえると

「すまんが、今夜のうちに私の屋敷に向かうから『客人にもてなしするように準備してほしい』と伝えてくれ」

そう言って、捕まえた狐を草むらへ優しく逃がしました。

「大丈夫ですかね? あの狐が頼りになるかどうか」

「狐は神通力があると聞く。だから、大丈夫だろう」

狐はもういなくなり、二人は目的地まで向かっていきます。

それから夜になると二人は野宿しました。次の日。朝早くから出発し、二、三十町ほどの彼方から人だかりが見えます。

「狐が役割を果たしてくれたようやな」

五位は利仁将軍の言葉を、にわかに信じていないようでした。

人だかりは二人に近づいていきます。利仁将軍は「馬を連れてきたか」と尋ねると、「二頭用意しました。あと食事も作ってあります」と答えます。

「あの、実はですね……」

一人の家来らしきものが、利仁将軍に言っていました。どうやら、昨日の夢に狐が現れ、客人が来るからもてなす準備をしてほしい。と言ったとのことです。利仁将軍は五位に向かってウインクし、五位は開いた口が塞がらないままでした。

結局、利仁将軍の屋敷に着いたのは日の暮れた頃でした。屋敷の部屋で休んでいると、マッサージ師がやってきて五位の疲れた身体を癒していきます。五位はそのまま寝てしまいました。

次の日。利仁将軍の屋敷は慌ただしくなっていました。大量の芋の調理と芋粥のお椀が用意されており、家来や料理人が次々と芋粥をお椀に入れていきます。数は分かりませんが、約100人分以上と想像してください。

五位は用意された芋粥に驚き、食欲がますます無くなり、げんなりしてしまいました。

「なんか、申し訳ないですが、もう食べれません」

芋粥を二口、三口食べた五位の言葉に利仁将軍は

「あなたは謙虚な人だな」

と言って利仁将軍や家来の人も笑っていました。

とそこで庭に一匹の狐が現れました。あのとき、利仁将軍が捕まえた狐です。

「狐よ。このお方が少ししか食べないと言うから、お前にも分けてやろう」

と平べったい皿に芋粥を入れて、狐の前に置きました。狐は美味しそうにガツガツと食べていきます。

その後、五位は利仁将軍の屋敷で楽しく過ごされました。そして、帰り際にお土産を貰い、生活用品などを頂き、満足した気持ちで京都へ帰りました。

感想です


物事や仕事など上手くない日々が続いても長く続けていれば、いつか、いいことがある。といった教訓に思えました。

平凡で貧乏な人でも、ひねくれることなく過ごしていれば、誰かは見ている。そして、ターニングポイントになるきっかけを与えてくれる。かもしれません。そして、最後のシーンの五位の謙虚さは、彼の良い人柄を思わせてくれます。

長年勤め、行き場のない立場や派閥や人間関係などに巻き込まれ、自分を見失ったり、落ち込むことがあったと思いますが、この立場や境遇を知っているからこそ、謙虚な心持ちで成熟した心を作り上げてきたのだと思います。

物語の最後に興味深いことが書かれていました。

五位のように長年実直に勤めあげ、人々から重んじられている者は、自然とこういう得をするものだ、と、こうして今に語り伝えられている。(巻頭二十六第十七)

引用

今昔物語集「利仁将軍が五位の侍に芋粥をご馳走する話」 P204 作者不詳 大岡玲 訳 光文社古典新訳文庫 出版社

今の時代からすると、転職や起業を考えている人に対して、少し立ち止まって考えてみるのもいいかもしれません。

最後まで、読んで頂きありがとうございます。


芥川龍之介がこの作品をもとにした「芋粥」という作品があります。それについての感想を書いたので、読んで頂けば幸いです。


他にも今昔物語集についての記事を書いていますので、良かったらご一読ください。




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