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『逆ソクラテス』伊坂幸太郎

久しぶりにハードカバーの本を買いました。

本のタイトルは「逆ソクラテス」。著者は伊坂幸太郎。小学生を主人公にした5編からなるアンソロジーです。

伊坂幸太郎の作品が好きです。デビュー作から読み直してみようと思い立ったのが今年の初め。「ゴールデンスランバー」まで読み終わり一段落ついてふと目についたのが新刊で発売されたばかりの「逆ソクラテス」。次に何を読もうか思案の最中だったこともあり新作に手を伸ばしました。帯に書かれたキャッチコピーに強く惹かれたからです。

  敵は、先入観。
  世界をひっくり返せ!
伊坂幸太郎史上、最高の読後感。
デビュー20年目の真っ向勝負!

収められた5編のタイトルがどれも秀逸。「逆ソクラテス」「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマンライク」「逆ワシントン」。いったいどんな話なんだ!?と興味をそそられました。

どれも小学生が主人公だけど、子供向けというわけでもありません。小学校高学年から中高生はもちろん大人まで幅広く読んでもらいたい作品になっていました。クラスや学校や家庭で人知れず悩んでいる子供にそっと手を差し伸べるような希望を、そして救いをこの物語たちから感じました。学級文庫にぜひ加えてもらいたい。

どれもお勧めですが私は特に「逆ソクラテス」と「スロウではない」という作品が好きです。

「逆ソクラテス」とはどういう意味か?ここに書いても物語の面白さを損なうことはないと思うので書きます。ソクラテスはこう言ったそうです。『自分は何も知らない、ってことを知ってるだけ、自分はマシだ』って。つまりその逆だから、何でも知ってるって思って決めつける人のこと。先入観についての話です。逆ソクラテス=先入観。この短編にキャッチコピーをつけるならこんな感じはいかがでしょうか?

僕たちは秘密の作戦を決行したんだ。
久留米先生の先入観をひっくり返すために!

我ながらわくわくするコピーだ(^^;。

そして一番好きな作品が「スロウではない」。このタイトルの意味はここには書きません。ぜひ読んでみてください。この短編は何度も読み返しました。そのたびに胸のあたりがぐっと熱くなり切なくなります。家族の前では読めません。読み終わるといつも泣き笑いみたいになってしまうからです。不思議なのですが、笑顔なのに泣いてしまうのか、泣いてしまうのに笑顔になるのか、その割合が読むたびに違うのです。もしこれを読んだらぜひ感想を聞かせてください。

いつもとはちょっと違うテイストの伊坂幸太郎作品を楽しむことができます。もし初めて伊坂幸太郎を読むという人がいたら、こういう作家だとは思わないほうがいいです。それもまた先入観になりますから(^^;。ユーモアがあって毒も少々あり、伏線の回収が見事というのがもっとも一般的な評価でしょうか。ぜひまた別の作品も手に取ってみてください。

今回ユーモアは少なめですが、ないわけではなくソコココに感じることはできます。私はこのアンソロジーに出てくる「磯憲」という先生が好きなんですが、そこからひとつだけご紹介します。

大人になった主人公が小学校時代の先生である「磯憲」のもとを訪ねて質問します。クラスのリーダーだったあの子を覚えてますか?と。なかなか思い出せなかった磯憲は正直に打ち明けます。頭が良くて、口が達者で、リーダーになるようなタイプの子はいつの時代も、毎年というわけではないけれどいるんだよ。だから印象がむしろ散漫になっちゃうんだ、と。
そしてここからの2人の会話がとても好き。

「『ドラえもん』のジャイアンと、『キテレツ大百科』のブタゴリラの区別がつかないような感じですかね」
磯憲は笑って、「ブタゴリラ君は、そんな綽名をみんなに許している時点で、寛容で、大物だよ」と言う。

こんな先生に習いたかったな。



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