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きみの友達

想像してみてください。

もし転校前に新しい学校の様子を知ることができたら?これから入るクラスの子たちの姿をその目で見ることができたら?そのとき何を思うだろう?

明日会うはずの未来の友達。

2年前の10月初旬。妻と次男のシュンヤが当時私が住んでいた群馬県高崎市に引越してきました。長男のユースケは県外の高校に進学していたため、ユースケを除く家族3人が再び集結したことになります。春に単身赴任で群馬に転勤した私にとっては半年ぶりの家族生活です。

3月半ばに異動の内示が出て我が家は大いに揺れました。4月から中学生になるシュンヤはどうなるのか?群馬の新しい住まいは当然まだ決まっていません。ほんの数週間だけ福岡の中学校に進学してそのあと転校ではあまりにかわいそう。家族会議の結果、私が4月から単身で赴任し、妻とシュンヤは学校の前期が終わる10月初めを待ってから引越すことに決まりました。

無論こんな簡単に事が進むはずもなく、侃々諤々の話し合いの結果、私のわがままを押し通した形の決定です。知らない土地に対する不安、ゼロからやり直す人間関係。渋々ながらも私について来ることに同意してくれた妻とシュンヤに出来る限りのことをしたい。群馬に来てよかったと言ってもらいたい。そして迎えた10月初旬。

群馬の中学校の転校手続きは私がしました。どんな学校だろうか?荒れたところだったらどうしよう?

妻からシュンヤの福岡での学校生活の様子を聞いていました。友達にもめぐまれ、部活も楽しくやってたそうです。学校の成績も申し分なし。妻とシュンヤの二人暮しだったため、母親を思いやる優しい面も出てきたと聞きました。福岡の学校を離れる日は大泣きしたそう。

幸いなことに群馬の中学校の私の第一印象は「大当たり」でした。教頭先生とハイテンションで語り合い、廊下で、校庭で、生徒たちのふだんの様子を見て肌で感じたことでした。ここなら大丈夫。落ち着いた生徒が多く、礼儀正しい。先生と生徒の距離が近い気がする。仲が良いというか。街の学校なのに素朴な感じもする。ただの思い込みかもしれないけど、好感を持てたのは確かです。

そう電話で伝えたものの、シュンヤの落ち込みを知る妻はテンション低いままでした。どうしたら分かってもらえるだろうか?そこで一計を案じることにしました。実はシュンヤが通うことになる中学校はもうすぐ運動会。転校の1週間前に実施される予定です。この運動会の様子を動画で撮影して妻とシュンヤに見てもらったらどうだろうか?

転校手続きのため再度中学校に行ったとき教頭先生にお願いしてみました。子供はまだ来てないけど、私だけでも運動会を見ることはできますか?と。「いいですよ。ただ当日は先に職員室に来て受付してからにしてください」と、思ったより柔軟な対応に感激しました。

そして迎えた運動会当日。ビデオカメラ代わりにタブレットを抱えた私がいました。我ながら怪しい人物だなという自覚はある。でもなんか楽しい。

職員室におもむき「今日はよろしくお願いします」と挨拶をしたものの、何をよろしくなんだろうか?自分でもさっぱりだ(^^;。でもそこで耳よりの情報を得た。「シュンヤ君は7組です」と。

その言葉を聞いて、私の中で何かが変わりました。学校の様子を知るなら運動会が最適。正直それぐらいの気持ちだったけど、シュンヤのクラスを知ってるなら運動会の見方は大きく変わります。1年7組はどこだ?

ただ運動会を撮るのではなく、7組を中心に撮ることに決めました。7組の生徒を勝手に応援する私。怪しさ爆発です。そしてそのうち不思議な気持ちを覚えるようになったのです。

もし4月一緒に引越してたら、この中にシュンヤはいたんだろうな。友達とふざけあったり笑ったり、声を嗄らし応援する姿をここで見ていたんだろうな。タブレット越しに見る画面の中にシュンヤはいないけど、いても全然おかしくない。あったかもしれない未来。それを目の前で見ている気がして頭がクラクラしてきました。まるでSFの世界だ。

群馬の中学校の運動会は懐かしい感じがしました。騎馬戦もあったし、棒倒しもありました。学年ごとにフォークダンスがあったのも微笑ましかった。生徒は恥ずかしくてイヤだろうけど(^^;。

街の学校なのにどこか牧歌的。クラス対抗リレーでは仮装した先生チームが一緒に参加したり、3年の先生たちはお揃いのTシャツ作ってたり。生徒数はそれなりにいるのに、こじんまり和気あいあいとした印象です。これじゃいじめもなさそうだ。生徒の顔を見ながらそう感じて安心しました。

そして競技の結果ですが・・、なんと7組が学年1位になりました!団体競技でのまとまりがいいし、クラス対抗リレーも速かったし。このクラスすごいな、と思いながら最後まで見てたけど、まさかこんなダントツだとは!

閉会式で発表された1年生の結果は・・
3位 2組70点、2位 4組88点、1位 7組108点!

この時の動画には、近くにいた先生のこんなつぶやきが残っていました。

「ダントツだよ。団体あれだけみんな獲っちゃうとなあ。20点差だよ」

先生、しっかり聞こえちゃってました(^^;

※この1年7組は学校行事やテストの成績などほぼその全てで1位を取って「奇跡の7組」と呼ばれていたのを知ったのは、もう少し後の話。

シュンヤの入るクラスが学年優勝という結果に私は大感激。これはいい動画が撮れた!とホクホク顔で運動会を後にしました。こんないい学校でいいクラス! なんてラッキーなんだ。シュンヤもきっと喜んでくれるはず。

それから1週間後、妻とシュンヤが引越してきました。荷物の片付けして翌日は休みを取り、次の日からもう新しい学校です。

そんな初登校を控えた前日の夜、シュンヤに例の動画を見せました。

「ほら、これがきみの友達だよ」と。

事前に学校の様子やクラスの雰囲気を教えてあげたいという親らしい配慮もあるにはあったけど、このとき私はまったく別のことを考えていました。

明日会うはずの未来の友達の映像を見るというのはどんな気持ちがするんだろう? それをお父さんに教えて。←ただの好奇心。親の立場忘れてるぞ。

教室に入ったら、初めてなのに見たことがあるクラスの子たち。既視感とは違う何か。それはどんな気持ちがするんだろう?

クラスの子たちが休み時間に運動会の思い出を喋ってて、シュンヤがそれを知ってたら?「おさるのかごや、7組ダントツだったよね」とか普通に会話に入ってきたらみんな驚くだろうな、とか。

んー妄想が止まらない。代われるものなら代わってみたい。

ひと通り動画を見せて、感想を聞いてみました。シュンヤが入る7組すごいよね?まとまりがあって良いクラスだと思うな、と話しかけると・・

シュンヤが一言こういいました。
「こんなにまとまってるなら、ぼく必要ないよね」

なんと!まさかのネガティブ発言。きみそんなキャラだったっけ?

考えてみれば、つい数日前に福岡の友達と別れたばかりでネガティブな気持ちになるのも当たり前。一方私のほうは半年ぶりに家族で過ごせるうれしさと、想像以上にいい学校とクラスだったことに喜んで、全く配慮に欠けたことをしてしまいました。反省しきりです。

そんなシュンヤでしたがすぐにクラスに馴染んで、新しい土地で友達もたくさん出来ました。

そして中学2年が終わる今年の春・・。

また福岡に転勤が決まり、家族で引越す話をしたけど「中学卒業するまでみんなと一緒にいる!」とシュンヤが言い出し、1か月掛かりで説得することになったのですが、それはまた別の話。

それほどに思える友達ができて、親としてうれしかったし、ひたすら申し訳なく思う。ただ後悔はしていない。

群馬での2年間の暮しを思い返すとき、楽しかった記憶と同時に胸を掻きむしられるような気持ちになります。だからこそ今を大切にしていきたい。あの日々に負けないくらい。福岡に戻って良かったと感じてもらえるように。


長文読んでいただきありがとうございます。


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