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中村文則『R帝国』と分断の時代


『教団X』で話題をかっさらった中村文則の『R帝国』。
近未来ディストピア政治小説。平成令和の日本版『1984』と言えるかもしれない作品です。拙いSFやこれいる?と正直思ってしまったメロドラマの部分など疑問符が残る描写もありましたが、一読の価値はある作品だと思います。(ポジションを明らかにする意図で書きますと、私は中村文則の結構なファンですが、『R帝国』は『教団X』より明確に劣ると思っています。)

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ここ半年くらい、同棲をはじめた彼女に政治の話をする機会が増えています(本当によく付き合ってくれるものだと思います。感謝。)。

本noteの一番最後で引用している『R帝国』の一節を読みながら、もともと政治に関する関心が全くなかった彼女から、Twitterでの炎上(保守系の有名人の失言だったかと思う)に対して、「なんでネトウヨの人たちってそういう発想をしてしまうの?」と聞かれてはっとしたのを思い出しました。考え方の大きな分断の存在です。

20年6月現在、アメリカ合衆国での民主主義がより深刻な危機を迎えています。国内の分断は激しさを増し、間違いなくあらゆる国の世界史の教科書に悪名として残るであろうドナルド・トランプは対立を助長しています。民主主義のリーダーであったアメリカのトップに彼が選出された四年前の時点から、分断は回帰不能地点を超えたレベルだったのかもしれません。

翻って日本に目を向けると、コロナ失策により安倍世間の支持率は落ち、一強と言われた政権基盤は揺らいでいます。しかし、Twitterや保守系のニュース動画番組などでは、一部の保守系のインフルエンサーによって過激な意見が跋扈しています。何より危険なのが、彼ら保守系インフルエンサーを信奉し、反対意見を持つリベラル派識者を攻撃する動きがあること、それに対してリベラル派やその支持者からの応撃も存在していることです。

この動きは、一般的な議論とは全く異なります。議論とは、とある物事に対して、自分の考えを発信し、異なる考え同士をぶつけ合うという建設的な営みです。ですが、今Twitter上で行われていることは、異なる意見や属性を持つグループを作り出し、それを仮想敵とみなした攻撃行為です。もはや物事に関する考えを伝えたいのではなく、敵を攻撃するという行為自体が目的化しているものが多い印象を持っています。仮想敵を作って、世論を扇動していく行為は、保守であろうがリベラルであろうがどちらの陣営だろうと、大衆扇動の第一歩に他なりません。

長引く不況と新自由主義の推進による中間層の没落が分断の原因に挙げられるのかもしれないけれど、ではそうなってしまった中でどうやって民主主義を立て直すことができるのかを考えていきたいです。

これは世界史の生まれていく今を生きて、実際に一票を投じて、世論を作っていく権利を持った人間の義務だと思っています。

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(以下、中略や端折る部分がありますが、『R帝国』のある重要な演説の抜粋です)

「国を豊かなまま思い通り支配するにために必要なのは、一部のエリートだけを残し、残りの国民達を無数のチンパンジーのように愚かにすることだと。・・・・我々がどこかの国を憎めと言えばキーキー憎み、さらには自分達の生活が上手くいかないのは誰かのせいだとキーキー騒ぎ、私達が何気なくあれが敵だと示せばそのフラストレーションから裏を考えることなくキーキー盛り上がってくれる存在に。」
「まず国民の大半をわかりやすく言えば馬鹿にしなければならない。もうずっと以前から、私がこの国の支配層に入る前からその動きは始まっていた。」
「そもそも正体を隠してネット上で差別や悪口を書き込むことほどみっともないことはあるまい?だがそういったことを恥ずかしげもなくできる者達がすでに大勢いるのは周知の事実だ。そういった者達が増えれば世界はどんどん愚かになる。我々が望んでいる方向に。愚かな言葉は読む側も無自覚なまま感覚として伝染するからだ。」
「0.1%のエリートに99.9%のチンパンジーが理想だが、実際には、我々はまだ20%のチンパンジーしか造りだせていない。」
「残りの50%は自分達の生活が可愛過ぎるため我々“党”を支持しているが、チンパンジーではない。そして30%ほどまともな人間がまだ残っている。だがそれでいい。20%のチンパンジーは声がでかいため、50%の人間達に影響し、まともな30%はそんな国民達と我々“党”を恐れ沈黙している。世界はつまり今、20%のチンパンジーによって動かされている。これは愉快だ。そうじゃないか?」
(世界をよく変えようと説得しようとするような本では)「世界が変わらないという決定的な証拠がある。この世界に、一体どれだけ素晴らしい芸術作品、どれだけ素晴らしい言葉がこれまでに生まれたと思う?なのに世界は未だにこの有様だ。」
「つまり人間は変わらないのだよ。それらの素晴らしい芸術作品、素晴らしい言葉達は、30%のまともな人間達を勇気づけるか、そんな彼らを0.1、2%増やす効果しかない。だが世界は残り70%により永遠に善の名のもとに戦争をし、戦争の後は少しだけ反省し少しだけ賢くなり、だがそれも時間が過ぎると忘れまた戦争をする。我々は繰り返す。リピートする。それが人類史だ。」

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