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やって後悔する? やらずに後悔する? 挑戦することの意義についての考察

このnote記事は、守下 尚暉短編集『おくりもの』のあとがきの一部を抜粋、簡単に再編集したものです。

(前略)
 短編小説『おくりもの』のテーマは、10代だからこその悩みと、それを一緒に乗り越えられる仲間。そして挑戦することの意義です。
 ある日、仕事帰りの車の中でラジオを聞いていた私は、驚くべき話を耳にしました。
 そのラジオによると、「やって後悔するくらいなら、やらずに後悔した方がいい」と考える若者が、近年増えてきていると言うのです。真偽の程は定かではありませんが、いわく「やって後悔すると、多くのものを失ってしまう。それなら、やらずに後悔した方が、何も失わずに済むのでダメージが小さい」とのこと。それは私とは正反対の考え方でしたが、しかしそういった価値観が今の世の中に浸透する理由も、分かるような気がします。
 何故なら今の時代、失敗のリスクが余りにも高すぎる。
 しかも世の中、成功ばかりではありません。
 むしろ、失敗する事の方が多いと言えるでしょう。
 私はそれでも、特に若者には、失敗を恐れずにどんどん挑戦して欲しいと願っています。それはどんな事でも構いません。勉強でも、スポーツでも、趣味でも何でもいい。ひとつの事に思いっ切り取り組んで、その結果として失敗したのであれば、その時は辛くても心に何かが残るはず。私はそれが、人間の成長に繋がると確信しています。ただし、何かを得る為には、その事に本気で取り組まなければなりません。中途半端に少しかじった程度では、成長など得られないでしょう。だからこそ、むしろ本気でぶつかればいい。本気でやって失敗したなら、地面を叩いて悔しがればいい。思いっ切り泣けばいい。それが本気でやった結果なら、たとえ失敗に終わったとしても、その経験は必ず成長に繋がるはずです。
 人が成長する姿は美しい。
 私は常に美しい物語を書きたいと考えていますが、では何が美しいのか? と突き詰めていくと、それは人が成長する姿だと思います。
 私はこれからも、人が成長していく物語を、世に書き残していきたい。それはきっと、どんな時代にも通ずる、普遍的な価値に繋がっているはずです。

(中略)
 もう一つの短編小説『神ゲー中毒』は、人の世の矛盾にあらがおうとする母親の姿を、その子供の視点から描いた近未来的なSF小説です。
 矛盾にあらがうと言っても、人間に出来る事なんてたかが知れています。大きな枠から見れば所詮しょせん、手のひらの上で踊っているに過ぎません。人は自分の意志でさえも、誰かの思惑に引きられ易い傾向にある。我が子を思う母親の愛は、一見普遍的な価観のようにも見えますが、必ずしもそうとは限りません。
 親の愛を絶対であるかのように思い込んでいる恵まれた人が多いこと自体はとても良いことですが、実際にはそんな事なくて、悲しいかな子供を屁とも思っていないクズ親というのは確かに存在しています。むしろ絶対的な愛を持っているのは子供から親の方であって、子供は100%親のことが大好きです。ところが親というものは案外、子供のことを愛していない人が多い。しかもその事を自覚していないばかりか、自分の為の行動を、子供の為と勘違いしている親すら居ます。
 例えば、昔は「良い」とされていた事が、今では「悪い」に変わってしまった事なんて、本当によくあること。子供に対して良かれと思ってやっていたことが、真逆の結果になってしまった時、あなたなら子供に何て言いますか? 少なくとも「あの時はそれが正しいと思ってやっていたんだ!」と、啖呵を切るのはおかしいですよね。たとえ正しいと思ってやっていた事であったとしても、「あの時は悪かったね」くらいは言える親になりたいもの。人の世における善悪の判断基準は今なお変化し続けていて、人間社会に大きな矛盾と歪みを生じさせています。世界は最初から何も変わらないのに、人間だけがその矛盾に翻弄ほんろうされ、楽な方へと、そして気持ちのいい方へと流されながら生活を営んできました。
 私はこれまでの人生で、「お前の為を思って言ってるんだ」という酔狂すいきょうな方に何人かお会いしましたが、その中に本当に私のことを思ってくれている人物など、誰一人として居ませんでした。それは実の母親であったとしても、例外ではありません。
 人間は簡単にだまされる。そしてぐに忘れてしまう。もしかしたら私自身も、子供の未来の芽をもうとする毒親になってしまうかもしれない。或いは、ただ若者をしいたげるだけの、害にしかならない老人になってしまうかもしれません。私はそのことを常に、肝に銘じて生きていきたい。『神ゲー中毒』には、そんな自戒の念が込められています。皮肉な結末ではありますが、その一端を感じて頂ければ幸いです。
 最後に、私の作品をスペイン語に翻訳して出版して下さった関係者の方々、告知して下さった関連メディアの皆様。更に、日本語版の出版を請け負って下さった代行出版社の担当者様、イラストを描いて下さったよしなぎ様と、そしてここまで私の小説を読んで下さった全ての読者の皆様に、心から感謝の言葉をお伝えします。 本当に、ありがとうございました。そして今後も変わらぬ応援を、どうぞよろしくお願いします。

守下 尚暉短編集『おくりもの』あとがきより抜粋・再編集
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