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「語るアイツ」~映画「北京ヴァイオリン」

「おはようございます、それともこんばんはですか?」
不知火涼太です。

このnoteに向き合いはじめて、
中国・香港映画熱が再燃しまして、最近平日の仕事後に
持ってるDVDを一つずつ観返しています。

「いや~、映画って本当にいいですね」というと、
「お前は水野春郎か!」とテクノカットの人から背中を叩かれそうです。
僕、不知火涼太って言うんですけどもね。

ウイ。

早速ですが、今回から中国・香港映画を一つずつ紹介していこうかと思います。
これは「評論」というほど仰々しいものではなく、
ましてや「便所の落書き」というほど適当な文章でもなく。
純粋に、観た映画の良さとか、個人的に思ったことを書いていきますので、
「この見方が正しいんだ」と押し付ける意図はありません。

できれば、なるべくフラットな気持ちで皆さんに観てもらいたいのですが、
この手の映画レビューってどうしてもネタバレが多少なりとも入ってしまう。
ネタバレなしで書こうと試みたけど、書けることが大分限られてしまう。
紹介する側の苦心も汲み取りつつ、読んでいただけると非常~にありがたいです。

じゃあ、さっそく紹介しましょう。


■「北京ヴァイオリン」(原題:和你在一起)

2002年 陳凱歌監督による作品。

(あらすじ)
 中国北部の田舎町。13歳のチュンは父と2人暮らし。チュンは、彼が幼いころに亡くした母の形見であるヴァイオリンを上手に弾き、周囲で評判になっていた。父リウはそんな息子に質の高いヴァイオリンの教育を受けさせ一流のヴァイオリニストにしてあげようと、必死に働き金を貯めていた。ある日、2人はコンクール出場のため北京へとやって来る。惜しくも5位に終わったチュンだったが、彼の才能を確信したリウは、有名な先生の個人授業を受けさせるため北京に移り住むことにする。そして、音楽教師チアンの情熱的な指導の下、チュンも練習に励むのだったが…。
https://www.allcinema.net/cinema/240959

(以下、ネタバレ含みます。)

■この映画のテーマは?

一般的には「親子の絆」がこの映画のテーマであると言われているようだ。

親子で北京に出てきて、最初の音楽教師・チアンの下でレッスンを受けることになった矢先、父親は全財産を入れた帽子を盗まれてしまう。
しかし息子の成功のために懸命に、ヴァイオリンのレッスン費と生活費のために働く。

かたや息子・チュンは北京駅で出会った大人の女性・リリに恋心を抱き、
偶然近所に暮らしていたことから親しくなる。
そのリリへの恋心と、父親への反抗心から「とんでもない行動」に出てしまう。

やがて、父親の元を離れ、音楽の重鎮であるユイ教授のもとで住み込みでレッスンを受けることになるのだが、そのレッスン中、チュンは「コンクールに出たくない」「前ほど弾けなくなった」と言い出す。

故郷の田舎町ではもちろん、北京に来てからも父親、チアン先生、リリがいた時は上手く弾けていた。それなのに教授のもとでの住み込みでレッスンを受ける中で、これまで彼にヴァイオリンを弾かせたもの、彼がヴァイオリンを弾く理由を見失ってしまう。

教授はチュンに向かってこう言う。
「きみの言う通り、きみは作品の心を掴んでいない。自分の曲になっていない。それは私にも教えられないものなんだ」(一部省略)

教授のこのセリフこそが、この映画のテーマを示唆しているんじゃないかな。

その後、教授の「たとえ話」を経て、チュンはコンクールに向けてヴァイオリンに向き合うんだけど、ラストシーンでチュンは、教授の言う「作品の心」を掴んだんだね。

「作品の心を掴む」とは?
おそらくこの作品においては、チュンの「思春期ならではの葛藤を経た気付き」。だからラストシーンであそこまで心を込めて演奏できた、自分の曲として演奏できたんだろう。

テーマが「親子愛」でも間違ってはいないと思う。
チュン自身が、葛藤の果てに気付き、最後に手にした物こそが「親子愛」と言えるのかもなあ。

そう言う意味では邦題の「北京ヴァイオリン」がちょっとわかりにくいのかも。
原題の「和你在一起」とは、「あなたと一緒に」だからねえ。


■この映画の魅力


音楽や、映像美、演技等々はいうまでもなく素晴らしいんだけど、
この映画、というより陳凱歌監督の作品をいくつか観てて感じるのは、
言外に含みを持たせる、セリフとして明言せずに語るのが非常に巧みであること。

特に、チュンの父親の演技。
チュンの北京での晴れ舞台 コンクールがあるのだが、父親はそれを観ずに、田舎に帰ろうとする。

周囲は「せっかくの息子の晴れ舞台なんだから見てから帰ればいいじゃないか」と説得するが、父親は何かと理由をつけては、受け入れない。

この本当の理由はセリフでは語られていないので、推測の域を出ないけれど
・ユイ教授がチュンに語った「たとえ話」
・なぜに息子・チュンの「成功」を願いつづけるか
・チュンが父親のもとから、ユイ教授の家に戻るときに投げかけたセリフ

これらが頭のなかで繋がったときに、その理由が自分の中でストンと落ちた。
なぜ父親が息子の晴れ舞台を見ずに去ろうとしたかの自分の解釈は、あえてここでは言わないようにしたい。

そのうえで、あのラストシーンに流れていったときには、もう、号泣しちゃった。
初めて観たときももちろん感動したんだけど、言葉にされない部分、機微を感じることで、作品の世界がさらに広がった気がする。何度でも鑑賞に耐えうる映画。

自分の中で陳凱歌は、「映画詩人」というイメージ。
特に「さらば、わが愛 覇王別姫」なんか、メタファー満載。
そういえば、自分の大学の卒論は「さらば、わが愛 覇王別姫」のメタファー研究だったなあ。

■最後に

初めての映画レビューにして、なかなかな作品を選んでしまいました。
軽い気持ちではじめたつもりが、自分の首を締めることになろうとは。
でも、前回の記事で書いたように、自分が中国・香港映画にハマるきっかけの作品だから、一番最初に書くべきなんだろうなと思って、挑戦してみましたよ。
やっぱり、好きな作品だから書けるんだね。

陳凱歌作品は観るたびに表情を変えるので、また時間を置いて観たら違う見え方があるかもしれない。げんに、初めて観た時から印象も変わってるし。

観る人の年代によっても感動するポイントが違うのかも。
父親に感情移入する世代と、息子・チュンに感情移入する世代。
初めて観た19歳当時はチュンにフォーカスしてみてたけど、29歳の今は父親の気持ち、チアン先生の気持ちも10年前よりは何となくわかるようになってきた。
リリの気持ちを知るには、もっと恋をしないといけないのかな?

そう言う意味でも、人生の中で何度でも観たい映画なんだな、って今気づいた。

やっぱりある程度のネタバレは避けられませんなあ。
ちょっとお堅い内容になりかけたので、次回はコメディ映画を紹介しましょうか。うまくバランスをとりながら。

再見!




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