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主体的な学びは、入試にもつながる。 2024年の大学入試改革に向けて、学校や家庭ができることは?

「探究が大事」なのはわかるけれど、それだと大学入試を突破できないのでは? ——そうしたかつての認識が、あてはまらなくなりつつある今。むしろ探究は、入試突破にプラスになってきています。

大学入試は2024年に向けて大きく変わり、連動して中学や高校のカリキュラムも変化の最中。どんな動きがあるのか、追手門学院中・高等学校で探究科主任を務める池谷陽平さんと、『いま知らないと後悔する2024年の大学入試改革』の著者・聖ドミニコ学園カリキュラムマネージャーの石川一郎さんに聞いてみました。

●大学入試の約半分が推薦・総合型選抜だが、みんな知らない

—— 石川先生の著書「いま知らないと後悔する2024年の大学入試改革」にもありますが、大学の入学選抜がどのように変わっているのか、お聞きできたらと思います。

石川:ざっくり言うと、今は一般入試で合格している人は約半分。そのほか40%は推薦入試で、10%は総合型選抜(AO入試)です。でも、「ほとんど一般入試で推薦は2割くらいかな」とかつてのイメージを持っている人が多いかもしれません。もはや私立では推薦や総合型が半分以上でメジャーな選択であることは、あまり知られていないですね。

——私立だけでなく、国立にもそういった傾向があるそうですね。まだ割合は多くありませんが、東大入学者のうち5%は総合型選抜です。

石川:国公立全体で見ると、入学者の3〜4割くらいまでは総合型選抜になっていくかもしれません。2022年から高校で新学習指導要領が始まり、2022年に入った子どもたちが卒業・受験する2024年度大学入試が大きな変わり目になりそうです。

——中高の先生たちは、こういった動きをどう見ているでしょうか?

池谷:高校の現場としては、変化しなければならないことはわかりつつも、「総合的な探究の時間どうしよう、何をすればいいかわからない…」という学校がまだ大半ではあります。

「科目の中での探究はどう進めるんだろう」という先生も多いと思います。たとえば国語の新科目である「古典探究」をしてくださいと言われても、結局はこれまでのように古典の授業をしてしまうことも多いかもしれません。

「こういう風に大学入試は変わっていくんです」というのがもっと具体的に見えるといいですね。入試に興味を持たれている中高の先生はすごく多いので、そこを起点に授業も変えていけるといいかなと思います。

●自分で追求・改善できる子が、総合型入試で活きる

——「自分で主体的に何かに取り組んできた子」と「言われてやらされてきた子」は全然違って、面接ですぐわかると言われています。具体的にどういう子どもが、総合型選抜で活躍していますか?

石川:大学は教育機関として、より深く学問をしたい子ども、何かをしたいと探究を深めてきた子どもを採りたいわけです。

慶應の環境情報学部の2021年入試では、不条理を問う設問がありました。現代にある不条理を複数ピックアップして論じる問題です。考えさせられる問題ですが、入学者の能力の差をつけるためにいたずらに難しくしているような問題ではないんですよね。

コロナ禍の中で社会において不条理がいろいろある中で、そうしたことについて考えている子どもが欲しい。そういう大学からのラブレターなんだと思うんです。

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池谷:追手門でも、慶應に受かった生徒がいました。ずっとサッカーをやっていたがなかなか結果が出ず、取り組むスポーツを「水球」に変えたんです。うちの学校にはプールがないので、広くて深さのあるプールを近くの高校に借りに行き、練習していました。それで、高校在学中に水球の日本代表選手にもなったんです。

また自分で学校と交渉して水球部を作り、部活を作ってから数ヶ月でインターハイにチームで出場しました。それをどう試行錯誤してやってきたかや、これからの子どもたちが自分に合ったスポーツを見つけるための研究がしたいことなどを話して、合格した形です。

自分で何かを追求して改善していくことができる、行動できる生徒は、入試でもそれが活きると感じます。

——面白いですね。スポーツか勉強かどちらを選ぶではなくて、スポーツを通して探究もできるわけですよね。

池谷:他にも推薦入試で受かった生徒がいますが、先ほどのことも含めて、推薦や総合型選抜で受かっていく生徒は、高校に入ってきた時点ですでに主体的に動くことに慣れていると感じます。でもそうした子どもたちは一握りで、学校に入ってくる99%の子はそうではないのです。そこを教育でどう変えられるかなのかと思っています。

——高1の時点で、主体的に動けるかどうかの差があるわけですね。どこでその差ができてしまうと感じますか?

池谷:中高で教えていますが、小学校に入ったばかりの頃はのびのび育っていた子どもたちも、中学受験や高校受験によって急に偏差値という考え方が入ってきて、創造力が失われていくんじゃないかなと思います。

石川:小学校に入りたての頃はいろんな疑問を持っている子も、高学年くらいから結果を気にし始めますね。「少しでもいいテストの点がとれることが大事」と、親も言ってしまうし、子どももそう思ってしまう。そのあたりで、主体的な学びと相対的な学びが逆転してしまうように感じます。

●テストの前に勉強することは、主体的な学びではない

——「主体的な学び」は新学習指導要領にもありますが、あまり理解されていないかもしれません。

石川:主体的に学ぶってどういうことか、きちんと考える必要がありますよね。テストが近いからその前に勉強するのは、”自ら勉強している”ように見えても、主体的じゃないと思うんです。世の中の事象に関して学んでみよう、好奇心を持って自分で発想してみようというのが主体的なんです。

僕は、そうした学びの芽を教員が摘んできたじゃないかなと思ってるんです。「学校でやるな、社会に出てからやれ」みたいに、真面目な先生や子どもは思っている。子どもの発想や主体的な学びが止められてるのが、今の学校ではないでしょうか。

——学校全体が変化するのには、なかなか難しさもありますよね。池谷さんは探究科主任として、どういう工夫をしていますか?

池谷:主体的に学ぶために、振り返って考える思考習慣を子どもに持ってもらえるようにしています。あとは、アートなどを通して創造性が誰にでも備わっていることを体感してもらう。高1くらいまでにそうした芽を養えると、自分たちで授業を超えて行動を起こし、何かがパンと花開くような子どもたちがいます。最近だと自分たちでビジネスコンテストに出た生徒たちがいました。

アートが大事なのは、相手がどう受け取るかありきの”デザイン”を考える前に、自分は何がいいと思うかを養えることかと思います。対話型鑑賞や、言葉以外の写真、動画、立体などの表現をしてみるのもいい。自分自身のこと、自分の関心をきちんと扱うことが探究につながると思うんですね。

自分のことを知ることが自己肯定感にもつながっていくけれど、中高生だと自分がまだはっきりしない生徒もいます。そういった自己の形成にすごく時間をかけています。あとは取り組みで感じたことや考えたことを言語化できることも大事なので、振り返りの集大成として、自分の活動を高2、高3あたりでレポートとしてまとめてもらうようにもしています。

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——最近は入試で自己PR動画を提出するような学校もありますよね。「youtubeはダメ」と制限している時代ではなくて、新しいツールを使いながら自分のことを伝えていくことも大事になってきますね。

池谷:そうですね。僕らが総合的な学習の時間にやっている工夫は、O-DRIVEというオウンドメディアで学校として発信もしています。使えそうなアイデアがあったら、ぜひ真似してほしいですね。

石川:「なんで」「どうやって」「もし…」という言葉をつぶやくということが主体性なんですよね。学校は、「問いを発していいんだ」っていう環境にしていかないといけないなと思うんです。

これまでは、答えられないことを「なんで」って聞かれると先生も怖いんで、あまり質問させない教育になっているんですよね。校則なんかは、その典型的な例だと思います。

——僕が教えている大学院の授業でも、質問を出させる時間をつくっています。問いを持つことを習慣化させると、だんだん慣れてできるようになっていく。子どもであれば、より早くできるようになるかなと思います。

●教科の知識と探究力は、両輪で回っていく

池谷:僕は「探究科」という授業をつくってその時間を教えていますが、次のステップとして、教科が変わっていくことも大事だと思っています。教科がどう変わるのがいいかのイメージがあれば、石川先生に聞いてみたいですね。

石川:「あなたがザビエルだったらどうしますか?」という問題も、海外で活躍した人をいっぱい知ってれば知ってるだけ、回答の選択肢が考えやすい。「コロナにどう対応するか?」という問題も、ペストが流行したという歴史、感染数を予測するための数理的な知識、海外と連携して対応するための英語など、教科の知識は必要なんです。

だから何かを考えていく上で知識はあったほうがいいんです。でも探究の要素がない教科は、暗記型の定期テストで終わってしまう。探究と教科は両方必要で、両輪で回っていくことがとても大事です。

——僕もラーンネットで子どもたちを見てきて、探究と教科の力には正の相関があるように感じています。教科と探究の先生がどこまで連携プレイができるかがポイントですね。

池谷:学校は大きくなりすぎて、連携がしづらい部分もあります。教科はどうしても記憶重視になりがちですが、その知識を応用できる機会が持てるようなプロジェクトが回り出すといいのかもしれません。

探究学習の一環として、「SDGsを解決するアイデアを出そう」みたいなプログラムも増えましたが、教育の中で、大きな社会課題解決が流行していることにも少し違和感があります。ハマる子は1〜2割で、あまりピンと来ていない子も多いんですよね。

「自分は何の課題に取り組もう」ということや知識が置き去りにされて、アイデアだけ考えても…と思うんです。教科をきちんとやりなおしていく、その中で工夫していくことは、できることの1つだなと思います。

あと、特定の授業の中では探究できても、まだ学校での学び方全体としては、生徒それぞれが自分のやりたいことを選択できるシステムになっていません。今は夏休みに自由課題を設けたりして工夫していますが、そこはこれからの課題なのだと感じています。

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●家庭内のことに取り組むのでも、成功体験はつくれる

——SDGsは大事なことですが、なかなか解決できないことだからこそ、世界的な目標となっているんですよね。むしろ身近な課題の問題解決に取り組んで、「できた」という自己肯定感を持つことから始めてもいいと思います。

池谷:家庭の中で保護者が洗濯物や皿洗いが大変だったら、それを手伝ったり、どうラクにするかを考えるのでもいいんですよね。生活と学びって混在していて、ちゃんと生活できるかどうかの中にも学びがある気がします。

偏差値が高くても、抽象化は得意だけど具体を見るのが苦手な生徒もいたりします。目の前の誰かのために手を動かすことも必要だし、そこのバランスをとっていかないと、頭でっかちになっちゃうんですよね。

——家の中でも成功体験ってつくれるんですよね。保護者自身が家庭内でちょっとしたチャレンジをして、その姿を子どもに見せるのも大事なことだなと思います。

石川:親にも忙しい時はあるから、いつもゆっくり子どもの相手をすることは難しいでしょうが、子どもの話を聞く時間を持てるといいですね。子どもの質問にすべては答えられなくても、一緒になんでか調べてみるのでいいんです。小学校時代は成績を気にせずゆっくり話を聞いて、いろんなことに興味を持てる環境をつくるのが大事ですね。

池谷:保護者も、家でイライラして怒ることもあっていいと思うんですよ。「親は怒ったらいけない」「褒めなくてはいけない」と思いすぎるのも違う。そういうことも含めて、家庭の中で関係性を学んだり、家族の一員として手伝いをしたりしていくんだと思います。

——僕も子どもの頃は、あまり親や先生に理解されず、人に言わずにこそこそと自分の好きなことをやっていましたね。理解してくれる人と出会えるといいですよね。

石川:そういう子って実は多いんですよね。小規模な学校や部活とかで、楽しめる居場所がうまく見つかるといいのですが、本当はベースとなる家庭がそういう環境だと1番いいと思います。

——相対的に比べていい悪いという価値観を、家庭で植え付けないことが大事ですね。最後に何かメッセージがあればお願いします。

石川:探究を通して子どもたちに獲得してほしいことは、それぞれの子たちが幸せに楽しく生きていく術を見つけることにあります。それが探究のキモです。

人の幸せって、なにか探究したいネタを見つけて、それを活かして食べていける、経済的に自立していけるっていうことかなと思います。自分が面白がれるテーマを見つけて、できるならまわりの人の役にも立って、そして社会にも役に立てるか

子どもになにかやりたいことが出てきたら、サポートしていくのが、先を生きる大人の役割です。自分・周囲・世の中をハッピーにできる子どもたちが育ってくれればと思っております。

池谷:家族には家族の枠でできることがあるし、学校は学校の枠でしかできないことがあります。適切にフィードバックしたり、学びに向かわせるのは、家庭とか仲の良い友人との関係だけでもできない。

勉強が得意で、それを通して自己肯定感をはぐくんでいく生徒もいれば、探究的なチャレンジを通して成功体験を積んでいく生徒もいる。そのどちらもいるような学校にしていければと思っています。

入試改革でどこの大学でも創造性を大事にしていくとはいえ、創造性を点数化して、序列をつくっていくのも本意ではないなと思います。入試で見る観点に多様性があればあるほど、子どもたちの創造性を活かしやすい。

学校は、考え過ぎてる生徒や、特定分野にすごくこだわりのあるオタクっぽい生徒、自分たちを陰キャなどカテゴリー分けしてしまう生徒など、本当にいろんな子どもがいるんですよね。子どもたちがお互いを認め合うという体験ができたら、社会はもっと良くなっていくと思います。みんなでそこに取り組んでいきたいですね。

(文:田村真菜、写真:追手門学院中・高等学校提供)

池谷陽平(いけたに・ようへい)
追手門学院中・高等学校、探究科主任、中1学年主任。大阪府立箕面高等学校での8年間の経験を経て、教育の本質を追求することを決意。現職において教科として「探究科」を立ち上げ、独自のプログラムを開発中。国内外の事例を視察しながら、教育を更新し続けている。米国サンフランシスコのミレニアム・スクールとの教育連携もその一つ。日本や、それぞれの学校文化の中で、子どもたちが生きる教育を創造、実践することに喜びを感じる。また、先生がチームで働く環境作りにも力を入れている。現在は初めて中学を担当し、教育の可能性を実感しながら挑戦中。

石川一郎(いしかわ・いちろう)
聖ドミニコ学園カリキュラムマネージャー。1962年東京都生まれ。小学4年生から9年間暁星学園で学び、早稲田大学教育学部社会学科地理歴史専修卒業。暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクールなどで教鞭を執る。かえつ有明中学・高等学校元校長。香里ヌヴェール学院元学院長。21世紀型教育機構理事。著書に『いま知らないと後悔する2024年の大学入試改革』(青春新書インテリジェンス)、『2020年の大学入試問題』(講談社現代新書)、『2020年からの教師問題』(KKベストセラーズ/ベスト新書)、『2020年からの新しい学力』(SB新書)、『先生、この問題教えられますか』(洋泉社)


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