ゲーム会社のジレンマ
こんにちは。たんけんずきと申します。
note初投稿です。
X(旧Twitter)で下田さんへ返信したこちらのポスト、後半部分についてきちんと伝えられていないと思ったので、改めてまとめてみます。
開発予算は多い方が良い?
「有力ゲーム会社の有名クリエイターが独立、大手プラットフォーマーの資金提供により新しいAAAゲームの開発を開始」
こんなニュースがあったけど、あれからどうなったんだろう?
リリースされたけど期待したものと全然違う…
こんなふうに感じたことはありませんか?
もちろん、きちんと成果を出し続けている方もいらっしゃいますが、予算の心配をせずに自由に作れるんだったら、もっとすごいのが作れるんじゃないの?とも思えるかもしれません。
ところが、これは国内外問わず、なかなかうまくいきません。
噂で聞いた話やそこからの予測しかできないので、個別の問題については判りませんが、うまくいかないと思われる要因はいくつかあります。
企画ができない
まず、クリエイターから企画があがらない。
「お金は十分もらってるから適当にやっとこ」と考えているかどうかは判りませんが、ポジティブな捉え方をすれば「せっかくだから最高のものを作る!」と意気込んで延々と考え続けているかもしれません。
いずれにしても期限がないと企画はなかなかあがらないものです。
無限に膨れる開発
企画があがって開発が進んだとして、そこからのハードルがあります。
ゲーム開発はちょっとしたことで工数(人員×期間)が膨れあがります。
予算があって期待されているとなるとなおさら。
ゲーム全体のグラフィッククォリティをあげよう!(工数が数倍)
新しい要素を絡ませよう!(組合せ爆発による工数増加とバグの激増)
こういう、ちょっと盛ろうとした積み重ねが、工数を指数的に増やすことに繋がります。
こうして膨れたプロジェクトでは、新しいアイディアを足すにも時間がかかり、トライ&エラーの回数も減る。結果、きちんと調整されていないゲームになりがちです。
結局、予算(人員&期間)があることが良いゲームを作る足かせになるということがよく起こります。
以上は、専用ソフトが欲しいプラットフォーマーからの資金提供があるような特別なケースです。
予算の与え方
普通のゲーム会社(パブリッシャー)は、自身のサイフから予算を決めて開発を始めることになります。この開始の判断は通常、そのゲームが「どれくらい売れるのか」(作る意味があるのか)と、「どの程度のコストで作れるのか」のバランスで検討されます。
さて、では「どれくらい売れるのか」はどう判断されるのでしょう?
この点が本稿のポイントになります。
「以前こういうゲームがこれくらい売れました」「潜在ユーザー〇〇万」
「このキャラはこれくらい認知されていて人気です」「潜在ユーザー〇〇万」
「今回このタイプのゲームでこのキャラを使えばそれぞれのユーザーからこれくらい認知され、これくらいのユーザーが獲得できます」
運営系のゲームであれば、これに加えて
「過去のデータからこれくらいの継続率、課金率を期待できます」
「こういう施策で離脱をこれくらい抑えられます」
企画側(パブリッシャーの社員やデベロッパー)がこのように売上を推測して説得を試みる。そして、その企画が通るときには、その売上予測の範囲内の予算が与えられる。
こういうパターンで企画と予算が決まるケースが多いと感じます。自分はそのことを、色々な会社さんとお付き合いさせて頂くようになってからようやく、普通はそういうものか、と学ぶことになるのですが。
なお、続編を作る場合は、「前作では〜」になりますね。
クリエイティブへの影響
ではこうして通った企画通りにゲームを作るとどうなるでしょうか?
過去のゲームを指標にすることで、その部分の新規性がまずなくなります。そして体験(UX)を含めて元となるゲームに近づけるほど、各種の指標(購入率&課金額&継続率etc)も正確になります。
それが安心感に繋がる面はありますが、その体験に飽きる人がいる分、トータルの売上は下がります。これを繰り返せばジリ貧ですね。
仮に業界全体がこれを繰り返せば、新規性のない再生産品ばかりになり、全体がジリ貧になってしまうでしょう。
もちろん、最初の企画にない部分で新規性があり、そこがヒットするケースも存在しますし、それは素晴らしいことなのですが、ジャンル化するような大きな変革が生まれることは難しいと思います。
どうするべき?
このような状況を避けるにはどうするべきか?
まず前提として、全くの新規性が絶対必要とか、新規性が多いほうが良いと言いたい訳ではありません。当然新規性のあるものは受け入れられないリスクがあります。
また、一つのゲームに新規性をいくつも入れるのはオススメしません。すべてを理解して受け入れられるユーザーは少ないでしょう。
それでも、新しいシリーズを作るとき、シリーズの息を長くするとき、売り上げをより上向きにするには新規性が必要でしょう。それが業界全体にも良い影響を与えます。
それを実現するために一番重要なのは、ゲームパブリッシャーの経営者(プロジェクトにGoできる人)ではないでしょうか?
優れた経営者であれば、過去のデータだけで判断せず、そのゲームがどのような驚きを生むのか、どのようにユーザーの心を掴むのか、どのように拡散されるのかを想像します。もちろん外れることはあります。というか普通は外れます。それでも可能性があるものにしっかりと予算を与えることが重要だと思います。
「これって売れる?」それは経営者側のセリフではありません。
ただし最初に書いたように、この予算はとりあえずで決めてはいけません。具体的にどの部分をどのように作るために必要なのか明確にしておく必要があります。
ゲームの新規性の追求と売り上げの確保、これはゲーム会社のジレンマになります。
なお、天才的な経営者であれば、新しい企画の細部を聞くまでもなく、その企画で開発が進んだときにつまづくポイントが想像できます。そこが曖昧だと「ここはどうするん?」という質問に「そ、そこは…」と止まってしまいます。
おそらく無数の企画を自ら考え、提案を受け、開発した結果を見てきた経験があるからできるのでしょうが、開発前にコストをかけずに判断できるわけだから理想的ですよね。
各社、そういう天才的な経営者がいるかどうかは判りませんが、可能性があるものにはコストをかけてチャレンジさせてみる。想定したレベルに達しなければ止める勇気も持つ。そして可能性ある・なしの判断力を磨いて、適切に評価できるようになれば良いと思います。
最後に
日本には非常に優れたアイディア、技術、能力を持ったゲーム開発者がたくさんいます。しかし、中国やその他の国も優れた人がどんどん増えています。
優れた開発者がいる環境をもう少し活かして、業界全体がさらに一歩先をいける、そして画期的なゲームを生み出す方法はないか、その解決策の一つが、ゲームの評価能力を磨くことと考えました。
もうひとつの解決策として考えているのがインディーゲームになりますが、それはまたの機会にて。
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