短い短い小説「虹はじめました」
僕はゴン太、虹を売ってます
1.虹はじめました
僕の名前はゴン太と申します。
実は僕、高校を卒業して、アルバイトをしてたんですが、天職が決まらなくて。
コーヒーショップでアルバイトしたり、本屋で働いたりしてたんですが、なんとなく過ぎる毎日が憂鬱になっていまして。
それで、僕、散々毎日、自分は小さい頃から何が好きだったかって考えたんです。
ちょっとはロックも聴くし、好きだなあと思うし、あとはそうですね、歳の離れた妹と遊ぶのも好きなんで、小さい子の面倒を見るのも得意です。それから親が共働きだったんで、料理もよく作ってて。妹のためにおやつもそうですし、晩御飯もお手のものです。料理が好きです、ハイ。
けど、仕事にしたいかって言うと、うーん、ってなっちゃうんですよね。
出来れば、誰かに喜んでほしいなあと思いまして、何が喜ばれるかなあって考えました。それに誰かがまだやってない事です。
それがなかなか浮かばない。
人が喜ぶこと、うーん、なんて、ああでもない、こうでもないと、公園のベンチに座りひとりで考えました。そしたら、近くで遊んでた小さな子が、急に
「あ!ママ!見て!虹だよー!大きな虹!きれーい。」
僕も空を見上げました。すると、空には大きな虹が広がっていて。虹を売ってる人っていないなあって思いまして。
2.それではじめた
「それで最近、虹はじめました」
僕が説明し終わると、通りすがりの爺さんが
「虹じゃと?」
そう言った。小さな女の子が母親と手を繋いで僕の前を通り過ぎようとする。
「虹はじめましたー、虹は、いりませんか?」
「虹ですって?」
女の子のお母さんが声を出した。すると、女の子が
「ママー虹が欲しい、欲しい、虹買ってー」
そう、母親にねだった。女の子のお母さんは
「虹なんて帰るわけないでしょ、ねえ、お兄さん、虹なんて冗談よね?ジョークかしら?」
僕にそう声をかけてきた。
僕は、何言ってるんですか、僕は嘘なんてつきませんとすました顔で
「いえいえ、正真正銘の虹を売ってるんですよ、虹を売っています」
そう答えた。
すると、女の子のお母さんは
「そうなの?すごいわね、そしたら虹を1ついただける?お願いね、お金はここに入れるわよ」
そう言って、虹の代金五百円を僕が置いた、キャンベルスープの空き缶の中に入れた。
「毎度ありがとうございます!それではこれから虹を作りますね!」
僕はそう言って、燦々と輝く太陽の下、ホースの口をほんの少し潰して、そこから水をシュッシュッーと出した、すると虹がまあるく半円を描いた。それから反対の手で大きなシャボン玉を作った。薄く透明な膜の表面が虹色に輝いた。
「わあ!」
女の子とお母さんは歓声をあげて喜んだ。
そうなのだ、僕は、公園で清掃員として働きながら、時々ホースを借りて虹を売っている。
はじめたばかりだ。晴れた日に、虹を売っている。
-END-
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