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谷郁雄の詩のノート13

昨日、散歩の途中ですらりとした外国人の美しい女性に出会った。彼女が手にもった細長いリードの先には見慣れない生きものが2匹いた。そいつは小さくて落ち着きのない動きをしていた。ミーアキャットだと教えてくれた。彼女はポーランド人だが、旦那さんは日本人だという。日本に来て5年になる。ポーランドといえばノーベル文学賞をもらった詩人シンボルスカの国だ。シンボルスカを知っているかと聞くと「知ってる」というので、しばらく楽しく立ち話をして、別れた。ミーアキャットの写真を撮らせてもらったら、彼女の足だけが写る、ちょっとミステリアスな写真になってしまった。(詩集「詩を読みたくなる日」も読んでいただけると嬉しいです)


「思い出」

両目で見る
あなた

片目をとじて見る
あなた

そして

両目をとじて
思い出す
あなた

さいごの
あなたが
いちばん
好きかもしれない


「いまより少し若かった頃」

その道を歩いて
仕事に行った日々

途中で
Uターンして
戻りたくなった道

やっぱり
考え直して
歩き続けた道

あの道を
いまは
他の人たちが歩いている

守りたい人が
いたから
自分で自分の
背中を押して

まぶしい
朝日の中を
歩いた
なつかしい道


「手本」

父も
母も
人生の手本には
ならなかった

けれど
一つだけ
教えてくれたことがある

人間が
どんなふうに
老いていって

覚えたことを
全部忘れて

朝を迎えるように
死を
迎え入れるのかを


©Ikuo  Tani  2022




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