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谷郁雄の詩のノート12

早いもので、もう10月になりました。世間ではおせち料理の予約が始まっています。他に考えることがないのでしょうか? 夏の終わりに、向かいのお宅の柿の木の枝葉が切り払われてしまい、視界がすっきり明るくなりました。これはこれで悪くないなと思います。日常の中にも小さな変化が訪れ、世界は絶えず更新されていきます。それに気づけず、いつも遅れをとるのは人の心なのかもしれません。ぼくの詩集「詩を読みたくなる日」が書店になかった、という声が届きます。アマゾンでも購入可能です。


「野口さん」

野口さんを
ポロシャツの
胸ポケットに入れて
家を出る

野口さんと
交換に
エビカツバーガーを
二人分
手に入れるために

帰り道
ぼくのポケットから
野口さんは
姿を消している

二人分の
エビカツバーガーを
手にぶらさげて
歩いて帰るぼくは
どれだけたくさんの
詩を書いても

お札に
なったりは
しないだろう


「おつかれさまでした」

アントニオ猪木さんが
亡くなった
享年七十九歳の人生
冥福を祈りたい

プロレスラーとして
活躍した
猪木さんには
別の顔もあった

新川和江さんに
師事した
詩人としての猪木さん
生前
一冊だけ詩集を出版している
まっすぐな
いい詩を書く人だった

闘魂の人
猪木さんも
老いと病には
ギブアップするしかなかった
けれどそれは
恥ずかしいことではない

元気ですか! と
元気のないときも
言い続けた猪木さん
繊細な詩人の心も
隠し持っていた猪木さん
おつかれさまでした


「天使」

天使は
見えないけど
その存在を
感じることがある

疲れた
ぼくの肩に
そっと置かれる
やさしい手のぬくもり

急坂を
歩いて上る
ぼくの背中を
押し上げてくれる
ひと吹きの風

行っては
いけない道へ
行きそうなぼくの
行く手を阻み
正しい道を指し示す光

君は
おとぎ話だと
笑うかもしれない
天使なんか
いるわけないと

自分の力だけで
生きてきたと
思い込んでる君は


©Ikuo  Tani  2022






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