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谷郁雄の詩のノート26

街を歩いていると、ときどき、こんなTシャツを着た人に出会います。「寝」と漢字一文字印刷されたTシャツを着たこの人は高円寺にいました。後ろからこっそり尾行して、気づかれないように、瞬撮。思わず心の中で「やったー」と叫びました。いい歳をしたオヤジがやることではありません(笑)。街はネタの宝庫です。以前「中毒者」や「獄」という文字を印刷したTシャツも目撃しましたが、見失い、悔しい思いをしました。まもなく東京も梅雨入りです。明るい色の雨傘でも買おうかな。(詩集「詩を読みたくなる日」も読んでいただけると嬉しいです)


「空気」

何も
なくても
ないなりに
幸せだった 

そこには
たぶん
空気のような
愛があったのだろう

ないものは
あるもので
間に合わせた

新聞紙を
手で
やわらかくして
総理大臣の顔で
おしりを拭いて

小さな不幸を
育てている
やさしい
友達の輪の中へ
戻っていった


「苦労話」

いま
売れている人の
売れない頃の
苦労話を
聞くのは楽しい

売れたから
いまは
からりと
明るく
話せる過去がある

聞かされる
ぼくも
人生の妙を
味わえる

いつか
日が翳り
その人が
売れない人の
世界へと
戻っても

地球は
くるりと回り
眩しい朝が
やってくる


「絶景」

花の写真を
インスタにあげた
好きな人の
似顔絵を描いた

存在しない
生きもののことを
空想してみた

いつもの
おまじないも
忘れずに

日々の
絶景を
心に刻もう

からだ一つで
これから
あなたに
会いにいく

©Ikuo  Tani  2023


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