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「どこでいいから就職したい」と言うと就職を遠ざける…就労移行支援のリアル(投げ銭・無料で読めます)

「どこでもいいから早く就職したい感じですねっ」

前職は福祉や就労支援の仕事ではなかったであろう女性支援員は、半ばヤケ気味にどこかに電話をしていた。おそらく上役だろう。久しぶりに面談に来た訓練生の報告をしているのだ。


もう2ヶ月前だ、訓練所で最後に彼女を見たのは。
訓練所では女性は珍しい。

どこでもいいから就職したいという彼女は、数日来て、また来なくなった。ピンクとベージュを混ぜたようなキラキラとしたアイシャドウをうっすら塗って、耳には控えめなピアスの穴が伺えた。

服装こそカジュアルだったが、1度は社会で輝いていたことが想像出来た。グラデーションが上品なアイシャドウは、学生や化粧っ気の無い生活をしてきた人にはなかなか出来る塗り方ではない。

グループワークでは、体調が悪いことを話したのに主治医に伝わらずにぞんざいに扱われたことを憮然と訴えていた。

想像の域を出ないが、面談では就職したいのに出来ない鬱憤を女性支援員にぶちまけたのだろう。冒頭の電話している支援員の声はからは寄り添う感じがしなかった。他責をしがちな訓練生だと、支援員も寄り添えない。支援員も感情を持つ人間だ。

ただ、どこでもいいから早く就職したいというのは嘘偽りのない彼女の気持ちだろう。ハローワークではたいした情報は無く、応募先を選り好みすると幅を広げろと指導され、どこでもいいと言うとちゃんと企業研究して応募先を絞れと指導される。もう飽き飽きなはずだ。


日本の労働契約ほど曖昧で形骸化している契約も珍しい。
中身が曖昧だ。必然的に採用プロセスも中身が曖昧だ。
精神障害者の就労もご多分に漏れない。

よって、どんな形態の就労でも、履歴書にはでっち上げた志望動機と自己PRを書き、面接ではいかにコミュニケーションが出来るかを出たとこ勝負で滔々と語る。タチの悪い通過儀礼、茶番である。


なぜ働かくのか?!
生活のためだ。つまり金だ。
それ以上でも以下でもない。

自己実現?!社会貢献?!小さい頃からの夢?!
詭弁だ。

金のためだ。
生きるには金がいる。

だから、どこでもいいから早く働きたい。

この国では働いていないと白眼視される。

だから、どこでもいいから早く働きたい。

しかし、そんな本音を言うと採用されない。

浅い御託を並べてマスコミや広告代理店、旅行代理店、航空会社などブランド志向ばかりで応募する新卒学生より働きたい熱量はよっぽど上であるのに、だ。


採用プロセスが茶番であるにはもう1つ致命的な理由がある。企業や人事が法律を知らない。面接は、ただの情緒的な会話にしかならない。

・雇用対策法
・男女雇用機会均等法
・職業安定法
・労働基準法
・障害者雇用促進法
・入管法

全文読み込んで、アップデートされるごとに確認する経営陣や人事がいかほどいるだろうか。この国のホワイトカラーは、法治国家の根幹である法規をあまりにも学ばない。異常である。


話を戻す。

結局、でっち上げた志望動機や自己PR以外に精神障害者がアピール出来るのは、就労移行支援に毎日無遅刻無欠席が出来た事実くらいしかない。支援員の職責は、この事実を訓練生の彼女に分かってもらい、ある程度の期間、無遅刻無欠席を続けるようにサポートすることだ。

どこでもいいから早く働きたいという切実な願望を実現するには、前提条件である地味で泥臭い唯一のアピールポイントを満たすしかないのである。

支援員の力量が試される。

しかし、専門的な教育や育成を受けた支援員は限りなく少ない。福祉の現場は、どこであろうと資金は乏しく人手不足だ。力量のある支援員に恵まれる機会は稀有だ。

そして、支援員のほとんどが薄給だ。インセンティブは限りなく低い。



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